あっちの世界ゾ〜ン第十七夜「父の生き霊」

奥村紀子(真名)さん談


わーい、天気が悪いぞ。

ふふふ、実験もかーなーりー楽になる。

しかし、熱射病は治っていません。

長引くなー


父方の従姉が結婚した時の話です。

九州に住む父の妹さんを私は一度も見たことはありません。

九州という遠い地のためと、諸々の事情により、伯母は、我が家に近づけないでいました。

そこへ従姉の結婚です。来ないわけにはいきません。

父は内心では喜んでいましたが、家族の手前、しかめっ面をしていました。

結婚式は、滞りなく進み、終わったのは3時。

結婚式に渋々出席した私は、その頃には前日の疲れと長距離の運転により、かなりくたばっていました。

それでも、父に気を使いました。

名残惜しそうに話をしている父に、私と母はコーヒーでも飲もう、と提案しました。

しかし、それは結局できず、父は見るからにがっかりして家に帰りました。

家に帰ってからも、色々と問題が続き、私が寝たのは12時を過ぎていました。

父には、「明日、名古屋に行こうよ。私が運転するから」と提案しましたが、頑なに拒否しました。

母の手前、それに頷くわけにもいきませんでした。

ところが、次の日、母に朝早くに叩き起こされ、

「これから、名古屋に行くよ」

といわれました。寝ていたかったけど、父に運転させるわけにもいかず、黙って起きました。

母が「私が泣いてた」といって、説得したとか。

名古屋に行くと、九州の伯母はとても驚いていました。

父が来るということに。


夜、伯母が目を覚ますと、父がベットの横に立っていました。

いないはずの父がいることに、伯母は驚いたそうです。

「お兄ちゃん、どうしたの、こんな夜遅くに」

「もう、九州に行ったら会えなくなるから、会いに来た」

そういって、父は笑ったそうです。

すっかり病気でやせ細った父の顔に、伯母は涙が出ました。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

何度も父に謝っていると、いつの間にやら、父は消えていました。


「夢だったと思うの。でも、本当に会えてよかった。

ありがとう、真名ちゃん」

伯母に感謝され、私は、父を名古屋に連れてきて良かったと思いました。

父は泣きはしなかったものも、とても嬉しそうでした。

この先、病気がいつ悪化するかわからない父だけに、これが本当の今生の別れになると思いました。

それがわかっているだけに、父は生き霊になってまで、伯母に会いたかったのでしょう。


父も、もうすぐ透析をするかも、という段階になってきました。

これから先、九州の伯母に会えるのは、父が亡くなった後かもしれません。


おしまい





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