あっちの世界ゾ〜ン第二十九夜「残されたお札」

命知らずさん談


U先輩から聞いた話です。

U先輩の友達が、学生寮を出てマンションで一人暮しをすることになりました。

先輩達は寮の暇な人達を集めて、その手伝いにいくことになりました。

車で荷物を運び、問題なく荷物を下ろし終えたのですが・・・

そこに遅れて、Aさんがやってきました。

すでに部屋の中は片付けられ、奇麗に整頓されています。

もう手を貸す必要がないと気がついたAさんは、帰ろうとしてドアのノブに手をかけました。

そして、おかしなものを発見しました。

お札です。

マンションのドアの内側、その中央に一枚のお札が張りつけられているのです。

彼は何気なくそれをはがして、友人に見せました。

おかしなものが張ってあるぞ、何のつもりだ、と。

「あー!」手伝いに来ていた全員が叫びました。

それは全員が引越し準備をしていた時から

気がついていましたが、怖くてはがせないでいたお札だったのです。

しかし、済んだことは仕方がないか。

皆そう思い、気にもかけませんでした。

夜が来て、彼らは入居祝いにその人の部屋で飲むことにしました。

なんの手伝いもしていないAさんも、飲みにやってきました。

しかも、ふざけたことに彼女を連れて。

ところが、マンションの前にくると、突然彼女の具合が悪くなりました。

顔色が悪く、吐きそうな素振りです。

とても遊びにつき合わせられない。

そう判断したAさんは、彼女を家に送って行き、そしてもどって呑み始めました。

しばらくして、皆ほろ酔い加減になった頃、急に廊下が騒がしくなりました。

つづいて、ガンガン、と金属を叩いている音。

音はほぼ直上からします。

部屋はマンションの屋上へと通じる階段の、すぐそばにありました。

誰かが屋上の入り口の前で騒いでいるのです。

しかし、先輩達も酔いがまわっており、それ以上に騒いでいます。

無視して飲みつづけていましたが、突然、今度は自分達の部屋のドアがたたかれ始めました。

狂ったように、ちょうつがいがはずれそうなほどの勢いで。

そして、

「あけてぇぇ  あけてぇぇ」

しわがれた、女性の声が聞こえてきました。

Aさんは驚きました。

それは、送ってきたはずの、Aさんの彼女の声だったのです。

ドアに鍵はかけていません。

しかしその声に異常なものを感じたAさんは、すぐにドアを開けました。

そこにはすさまじい形相をしたAさんの彼女がいました。

眼は血走り、口からは泡を吹いています。

彼女はAさんのことが目に入らないかのように、驚くAさんを押しのけて部屋に駆け込みました。

はだしです。

家から走ってきたのか、足の裏が破け血が流れ、爪ははがれて生肉がのぞいていました。

「あけてぇっ あけてぇっ」

狂ったように叫びつづける彼女に、部屋の男達は全員あぜんとし、動けません。

彼女はしばらく叫びつづけ、

部屋を駆けまわっていましたが、またはだしで外に飛び出していきました。

後を追うと、彼女は屋上の入り口の扉を叩き、かきむしっていました。

屋上の扉には鍵がかけてあります。

その表面は彼女が流した血でいくつもの朱線がついていました。

しかしそれ以上に彼らの目をひいたのは、扉の中央に張られている、一枚のお札でした。

「あけてぇぇ あけてぇぇ」

彼らは叫びつづける彼女を全員でおさえこむと、部屋につれもどしました。

女性とは思えない力で暴れましたが、

五人がかりでようやくおさえこみ、一人が近くのお寺に電話をしました。

電話に出た住職は、話を聞くといいました。

「彼女を電話口に出しなさい」

受話器を彼女の耳に押し当てると、彼女は暴れるのをやめ、嘘のようにおとなしくなったそうです。

その間にマンションにやって来た住職は、簡単なおはらいを済ませると、

「一度でも霊が入った部屋は、また霊が来やすくなります。ドアの内側にこれをはっておきなさい」

そう言って、例のお札を手渡しました。

また、もしかすると屋上のお札も効力が弱くなっているのかもしれない、

と言って、さらに一枚のお札を預け、屋上の扉にはっておくようにと伝えました。

後で聞いたところによると、やはりそのマンションでは自殺があったそうです。

それも何度も・・・



その住職が、もともとのお札をはった人と同一人物かはわかりません。

ただ、新居に越すときは、みだりに残っているものに手をつけない方がよいということです。

例えお札でなくとも。

どんなものにどんな「想い」が込められているのか・・・

それはこめた本人にしかわからないことなのです。





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