あっちの世界ゾ〜ン第六十弐夜「鹿児島ナンバーの車」

命知らずさん談




「鹿児島ナンバーの車 その壱」


おひさしぶりです、命知らずです。

はるか昔、私は「次の機会がありましたら後輩のH君の話しをする」とみなさんにお伝えしました。

それ以来いくつかのお話を書き込んで来ましたが、H君が登場する話は一つもありませんでした。

数日前、私はその件である人からおしかりをうけました。

「早く書いて下さいよ〜。あの話には後日談もあるんですよ。

『にょろにょろ』なんて書いてる場合じゃないですって」

うわ〜〜H!きみは「あっちの世界ゾーン」の読者だったのかぁ!

いや、紹介したのは私なのだが・・・読みつづけているとは思っていなかった(^^

当然だといえば当然だが、HNもしっかりばれているし。

これじゃ自爆ネタが書きにくいなあ。

ま、とにかくこれでは例の話しを書かずにはいられません。

後日談を聞き出すためにも、私は筆をとることにしました。

しかしHよ、この話しは長いぞ。

しかも私の文才では、君の恐怖を伝えきる自信がない。

実は何度か書こうとチャレンジしたのだが、全然怖く書けないんだよぉ。

そんな訳で、今回はハナっから怖く書く気はありません(^^

お気楽に「こっち」気分で書くことに致します。

ゴメンな、H。

それでは本編です。どうぞ。



去年の夏、H君は部の夏合宿に参加しました。

場所は鹿児島、六泊七日の予定です。

五時半起床、二二時消灯。

きつい練習と味気ない食事。

筋肉痛の身体に鞭打って無理矢理海で泳がされる休憩時間。

はっきりいって地獄です。

楽しいはずある訳ない。

しかし、息抜きもありました。

四日目の先輩達のおごりによる休日と、その前日にある怪談大会&肝試し。

そして最終日の飲み会です。

まさしく飴と鞭。

部員達を逃がさないための懐柔策でした。

これを一年間通じることによって、新入部員達は立派なマゾ、ではない、

「押忍」の心を身につけていくのです。

まだ辛さに喜びを見出せない一年生達は、三日目の夜をそれはそれは楽しみにしていました。

H君には霊感がありました。

あるといっても、時々金縛りにあう程度で、特別な何かが見えるわけではありません。

まさに「あるだけ」の男でした。

しかしそれでも「ない」人間より一歩抜きん出ているのは確かでした。

そして・・・怪談大会の夜が、ようやくやってきました。


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「鹿児島ナンバーの車 その弐」



以下、その壱から続いています。

では、その弐をどうぞ。


怪談のやりかたは、このホームページよろしく、

ロウソクを人数分立てて吹き消していく百物語方式で行います。

民宿によっては火気厳禁だとかいろいろ制約はつきますが、やはりこの方式が日本全国共通。

話しがくだらなかった場合は、足で消したり拳で消したり身体にたらしたり、使い方は様々。

雰囲気作り以外にも何かと便利なのです。

H君はこの夜、ブレイクしました。

調子にのり周りの受けを狙って、あることないこと吹きまくりました。

嘘、大げさ、紛らわしい。

話しの当事者達が聞いたら、ぶちキレて呪われそうなことを言いまくったのです(H君談)。

自分に霊感があることを軽んじて。

しかし、この夜は何事も起こりませんでした。

肝試しも無事終了し、合宿の最終日に飲み疲れて眠っても、なーんにも起こりませんでした。

鹿児島の、バカにされ青筋立てている霊達は、彼がひとりになるのをじっと待っていたのです。



異変は彼が熊本に帰り着いた、その日に起こりました。

自分の巣箱、ワンルームマンションで疲れを癒していると玄関のベルが鳴ったのです。

あっちの世界?

いえいえ、まだ少し早過ぎます。

ボクシングで言うなら、ジャブどころかゴングも鳴っていないんです。

ドアの外には、彼の友人が立っていました。

そう、ありがちな「相談にのってくれ」攻撃です。

別の日にしてくれればいいものを、ま、急を要したのでしょう。

H君は親身になって聞いてやり、追い帰したのが午前一時でした。

あ、念のため彼の名誉のためにいっておきますが、なんの相談かは聞いていません。

その点では信用のおける男です。

H君の男の友人は困ったことがあったら、何でも彼に相談するように。

お金のこと以外だったら快く応じてくれます。

無償でこき使いましょう。

女の知人は、彼の先輩に相談するように。

こちらは有償です。

で・・・・・・・・

友情のために心身の疲労が増した彼は、眠りにつこうと部屋に布団をしきました。

繰り返し言いますが、友人はもう帰っています。

残っていて布団にくるまりながら相談してくれたら、

これは笑い話で良い思いでになったんですがね。

人生はままならないものです。

小さな明かり(紐を二回ひくとつく、そう、アレです)をつけたまま、ゴロンと横になりました。

眠れません。

お約束ですが、身体が疲れているはずなのに、頭がどうにも眠ってくれないのです。

そうするうちに・・・お待たせしました。やってきたのです。

そう、金縛りです。


えっと、すいません。

話しが全然進んでいませんね。

ちょっとペースを速めようか。

ですが今日のところは・・・

以下、明日に続く、です。


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「鹿児島ナンバーの車 その参」


ちょっと今日は顔を出すのが遅れてしまいました。

うーん、またおしかりを受けてしまった。

最近私は夏バテで、頭もゆだっているもんですから、集中が長く続かないんですね。

むむ、いかん。

またペースが落ちている。

それではその参、本編にいってみましょうか。



さあ、あっちの世界のゴングがなりました。

第一ラウンド開始です。

先制攻撃は心霊鹿児島グループ。

十八番金縛りデスロックが効いて、H君はうごけません。

私は経験がないのでわかりませんが、H君によると金縛りが起こると決まって、ゴーッ、という

耳鳴りと(ブリキのバケツに頭をつっこんで、金属バットで殴打される感じだそうな)、

床から平行に宙に浮くような、奇妙な浮遊感があるそうです(幽体離脱じゃないのか?)。

霊達はさっそく、バケツを彼の頭にかぶせました。

そしてバットで殴打殴打乱打乱打!

ゴングで叩くはタップを踏むは、もう大騒ぎです。

しかし、慣れているH君はびくともしませんでした。

「あ、次は浮遊感だな。あれ結構好きなんだよなー」

などとぼんやりと考えていたほどでした。

採点十対九。

H君優勢です。

むむむ、このままではいかん。

セコンドの指示に従って、霊達は方針を変えました。

なんのダメージも受けていないH君にむかって、いきなりフォールしてきたのです。

H君の体はいきなり床に押さえつけられました。

セオリーを無視した攻撃に、彼はギョッとしました。

はねのけようにも、身体が動きません。

まるで見えない幾本もの腕が全身をおさえつけ、

床から伸びた腕たちが彼を引きずり込もうとしている・・・(フォールの基本は肩です)

恐怖が彼を捉えました。

瞬間的パニック!

火事場の馬鹿力!

いままで金縛りはあっても、霊に触られた事のなかった彼はめちゃくちゃに暴れました。

すると・・・金縛りがとけました。

彼はその勢いで跳ね起きると、部屋の明かりを付けました。

布団には乱れた毛布だけ。当然ながら特におかしな痕跡はありません。

時計を見ると午前二時半。一時間以上も眠れずにいたのです。

体調は良いのに空回り。

知らず知らずのうちに相手のペースに巻き込まれて、気がついたらノックアウト。

そんな試合があるものです。

H君はそれにまんまとはまってしまいました。

多少嫌な気持ちはしたものの・・・彼はそのまま電気を消すと、また寝転がってしまったのです。

疲れていたのか、慣れてていたからか、先程の恐怖をすっかり忘れてしまっていたのです。

もうおかしなことは起こるまい、と。

ところがぎっちょん、うっしっし。

霊達はほくそえんでいたことでしょう。

今度はすぐに、二度目の金縛りがH君を襲いました。


なんだかボクシングとプロレスがごっちゃになっていますが・・・


以下続く、です。


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「鹿児島ナンバーの車 その四」


うーんだれるなあ。

個人的には前後編ぐらいが一番好きなんだが・・・

では本編です



懲りずに寝ようとしたH君を、懲りずに金縛りが襲いました。

第二ラウンド開始です。

ゴーッ、という耳鳴り。

そして・・・今度はちゃんと来ました、浮遊感。

いつも通りです。

ホッと一息ついたのもつかの間、またも異変が起こりました。

H君がゆら〜りゆら〜り漂っていますと、その手が誰かにつかまれたのです。

つかまれた、という表現は適切ではありません。

触れられた、というか、優しく添えられているような感触です。

ひんやりと冷たいその手は、H君の両手を すっ っと軽く引きました。

すると、H君の体が、ずるっ、っと「ずれ」たのです!

霊に触れられる。

その初体験を数分のうちに二回も済ませただけで絶叫ものなのに、

それをさらに上回る経験でした。

彼は先程と同様、必死に暴れました。

しかし今度は全く金縛りがとけません。

軽く添えられているとしか思えないのに、その手の感触は一瞬たりとも離れないのです。

身体は少しずつ少しずつ、手に導かれて足元へと「ずら」されていきます。

やばいっ!このままだとどこかに・・・つれていかれる・・・

H君を空前絶後の、本能的な恐怖が襲いました。

恥も外聞もかなぐり捨てて悲鳴(?)を上げました。

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

腹の底から野生の雄たけびを発したのです。

格闘技を習っていたのがよかったのかもしれません。

雄たけびとともに、手の感触も金縛りも解けました。

跳ね起きて、電気をつけました。

いつもと変わりのない部屋が照らし出されます。

しかし、さすがにもう眠る気にはなれませんでした。

”この部屋にいたらやばい”

”この部屋にいたら今度こそ、連れていかれる”

”いや今晩一人でいたら、今度こそ、次こそ、助からない”

H君は服を着ると、部屋を飛び出しました。

先程の相談を受けた友人。彼の部屋で一晩過ごそうと思ったのです。

靴を履き玄関を開けると、外は異様な明るさでした。


うーん、今回はちゃちゃを入れるヒマがありませんでしたね。

以下続く、です。


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「鹿児島ナンバーの車 その伍」


上手く書けば、この章が最終章です。

なんとなく題名でばれている気がしますが・・・それでは、本編に参りましょう。


玄関を開けた彼を照らしている明かり、それは車のライトでした。

H君の家の前にある駐車場。

そこに停車している一台の車が、H君の部屋のドアを照らし出しているのです。

ライトの中で、一挙一動を見守られているのは、気持ちの良いものではありません。

H君は車が出ていくのを待つことにしました。

しかし、誰かを待っているのか、出ていく気配はありません。

いったいどこのどいつが乗っているんだ。

散々な目にあって気分を害しているH君は運転席をのぞこうとしましたが、

逆光でよく身えません。

その代りに、なぜかナンバープレートが見えました。

鹿児島○× ○○−××

鹿児島ナンバーの車。

H君は不気味なものを感じました。

しかし部屋に戻ることも、玄関の前でじっとしていることもできません。

仕方なしに、H君は鍵を閉めて、ライトを迂回してマンションをでました。

早いところその車から離れたかったのですが・・・

街灯の少ない、狭い道を歩き始めると、後ろから低いエンジン音がついてきました。

鹿児島ナンバーの車です。

その車は、H君を追い越さずに、徒歩と同じ速度でぴったりとついてくるのです。

偶然出かけるタイミングと方向があっていたのだろう。

追い越さないのは道が狭いからだ。

H君はそう思いこもうとしましたが・・・

車はどの曲がり角を曲がってもついてくるのです。

クラクションも鳴らさない、近づきも離れもしない。ただ黙ってついてくる。

H君は友達の家に向かう道から離れ、なんとかその車を巻こうとしていたのですが、

ついに耐え切れなくなり、車を先に行かせることにしました。

幸いなことに、大学の近くの裏道には人一人しか通れないような、細い路地がたくさんあります。

彼はその一つにはいって、車が通り過ぎるのを待ちました。

路地で息を潜めている彼の前に、車のライトがゆっくりと近づいてきました。

だんだんと大きく・・・もうすぐ車が目の前を通り過ぎる・・・ 

徒歩の速度で、車は悠然と彼の眼前を通り過ぎました。

なにも変わったところはありません。特別な演出もありませんでした。

ただ・・・車の運転席には誰も乗っていませんでした。



彼は路地の反対にダッシュで駆けだしました。

そのまま休まず友人の家に走りました。

ベルをならしドアを叩きますが、寝ているのか出かけているのか、ドアは開きません。

ドアの前で友人のPHSに電話をかけましたが、電源をきっているらしく、つながりません。

もう一人で夜を過す気になれないH君は、その晩、コンビニで夜を明かしました。



次の日、彼は昨晩どこにいっていたのか、友人に問ました。

かえって来た返事は「相談のあと一晩中部屋にいた」でした。

当然、PHSの電源も入れていたそうです。

コンビニではなく、自分の部屋にもどっていたら・・・どうなっていたのでしょうか?


いやぁ、ようやくおわりました。

それでおまけですが、今年もやはりH君は合宿にいきました。

場所は福岡のとある場所です。

しかし、そこではつい先日、女性のバラバラ死体が発見されているのです。

怪談、肝試しはそれにも関わらず、例年通り行われました。

またなにか困ったものを、熊本につれ帰ってこなければいいんですけれど・・・





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