あっちの世界ゾ〜ン第二十八夜「トンネル」

佐倉りんさん談


これは母が一度だけ体験した(らしい)話です。

あっちの世界とこっちの世界がひとつになったお話しです。


前編


四国のK県のバス会社に30年ほど前車掌として8年ほど働いていたときの話です。

その当時のバスというものは自動で扉も開きませんし、料金箱だってありません。

母は、バス停に着いたら扉を開けて、

乗り降りするお客さんからバス代をもらうという仕事をしていて

シフトで決められた路線や、時間で、運転手の人と回っていました。


ある路線の最終便に乗ることが決まっていた、1日前のことです。

母が朝出勤すると、同僚の女の子が青ざめて戻ってきていました。

「峠のトンネルの真ん中で 。」

「真ん中で?どうしたと?」

「バスのドアが…大きい音立てて開きよったと!!」

彼女の顔は真剣だったそうです。


でも母にとってあっちの世界は未体験でした。

扉が勝手に開いただと?

「おまんさん、扉、まっこと閉めちょったか?」

事もあろうに、そんなことを言ったのだそうです。

彼女は涙を流さんばかりにトンネルの度真ん中で、どうして風も吹かないところで

あんな大きな音で開く訳がないし、バスに乗っていた人が皆知っているのだと訴えました。

でも母は、その日の仕事に忙しく、

そんな朝の一コマはすっかり記憶の外に追い出されていました。


ところが、

次の日の朝。

母が出勤すると、今度は別の女の子が泣いていました。

「トンネルの真ん中で、バスの扉が勝手に開くきに、怖うて、怖うて…」

泣いている彼女も昨日の話を聞いていた一人でした。

彼女は、路線の最終便に乗っていてそのトンネルを通り抜けたそうです。

彼女も、信じてはいなかったけれども、

念のため扉の確認をして、バスはトンネル手前のバス停を出発したそうです。

「それでも。やっぱり扉が締め切ってなかったからじゃけん、そうなったとよ」

母はこの期に及んでまでそういいはなったということです。

2度あることは3度ある。

仏の顔も3度まで。

扉事件は全て、最終便に限定されておりました。

母は、少し、あっちの世界の文字が見えたような気がしたことでしょう。

その夜はとうとう自分が乗る最終便の番でした。

所詮田舎の路線です。

そのトンネルの手前で降りたあとのバスの中の人数は乗客5名となりました

バス会社の人間より、かわいそうだったのはこの人達でした。

だってすでに2回現場に居合わせた人ばかりだから。

今日こそは見たくない意気込みというものが乗客にはあったそうです。

バスの扉を閉めるのに乗客の人達がこんなに慎重になったことはない位、

皆で確認してしっかりと閉めたそうです。

それから乗客は扉から離れて、必然的に前の方へ移動していきました。

母もやっぱり何かあると嫌なので、一緒に固まっていたそうです。

そうしてバスは、やっぱり行かなくてはならないトンネルに入りました。


もう、その中で何が起こったのかはご想像にお任せします。



後で、母が先輩社員(といっても50才前後の社員の方達から聞いた話によると

トンネルのできる前は別ルートで、山越の道路があってそこを走っていたそうなんですが、

そこで何回か、バスごとの転落事故が起こっているんだそうです。

その日はいくつかある中の命日の日だったということで、

その日以後はそうした不思議はぱたりと止んだということでした。



これが前編です。


わたしは後編の方が怖いのだ。(前編はおまけの様なもの)



後編


母は、年配の人の告白に納得したような、できないような気持ちだったといいます。


その話の最後で、先輩社員の人は

事務所の外を窓越しに見ながら思い出した様に母に言いました。

「事故の数としては2〜3回だったと思うが、不思議な事があってな。」

その事故が起ったときに必ず同じ女性が乗っていたのだというのです。

同じ女性?

不思議なことにその女性が車掌を務めているバスでばかり発生した事故であるにも

かかわらず彼女は無傷で、助けを呼びに転落した崖を登って遠くの民家まで

(だって田舎なんだもの)たどり着き連絡を要請すると、

怪我人のいる事故現場までまた戻っていくのだそうです。

そんな人間がいるのか?

人間だれしもそう思うじゃないですか。

「あの車庫でバスを洗車している人が、その本人なんだけどね」

よく見るとそれは見慣れた社員のおばさんだったそうです。

いや〜人間ってほんと 素晴しいもんですね!!(水野さん風に)


しかも毎回。


場所はあんまりにも有名なA岬行くまでのトンネルだそうです。

今年私行きましたがトンネルなんてあったっけ?

知っている方いたら教えて下さい。(行けないけど)





     戻る