あっちの世界ゾ〜ン第三十九夜「手をよく洗うには理由がある」

三堂りあるさん談




これも聞いた話です。


Sさんは都内の某中小企業に勤めるサラリーマン。

そこそこの役職に就き、妻と娘を養っている真面目が取り柄な人です。

そんなSさんですが、実は変な癖があるので社内でも有名でした。


それは「よく手を洗いにいく」こと。

神経質な程、手を洗いに行くのです。

別に極度の脂性というわけでもありません。

はたから見ても綺麗なのに洗いに行くのです。


こういうモノは大抵、昔のトラウマなんかが関係しているものです。

周りの人たちも気にはなっていましたが、理由を聞けないでいました。

ところが、ある日、

Sさんと飲みに行った後輩の一人が酔っぱらったついでにSさんに聞いたのでした。


「どうして、よく手を洗いに行くんですか?」って。


最初はいろいろと誤魔化していたSさんでしたが、

後輩がカマかけるつもりで言った、

「ひょっとして、幽霊とか、あっち関係の話なんですか?」に反応してしまった。


そして、少しずつですが話し始めたのです。

「よく手を洗いに行く」原因となった事件の時の話を・・・


それはその年の夏、とある山間にある釣りのスポットに行った時の話でした・・・


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実はSさん、釣りを趣味にしてまして、

その日は休日の家族サービスを無視して出かけたのです。


この計画はもともと会社の釣り仲間(友達ではない)から提案されたものだったそうです。

本来だったらその釣り仲間もいっしょに行く予定だったらしいのですが、

突然、体調をこじらせてしまったようで

せっかく予約もとったんだし、というわけでSさんだけ行くことになったのです。


太陽が傾きかけた頃、宿泊予定の旅館に着きました。

こじんまりとしていますが、なかなか雰囲気のいい旅館でした。

接客態度もいいのでSさんは気に入りました。


「車でないと来られないような所ですので私と夫の二人で経営させていただいてます。」

そういう女将のセリフから、沢山お客さんがいても接客できないのだろう。

客はSさんしかいないようだった。


「こんないい旅館が貸し切り状態か・・・ これは滅多にないいい体験だ」

と思いつつ、体調を崩した釣り仲間に感謝した。

実はSさん、その釣り仲間のことがあまり好きではなかった。


だから、そんな奴と同じ部屋に泊まるのは嫌だったのだが、

釣りは好きだし、穴場というのでそれを我慢していたのだ。


女将の話によると釣りの穴場というのは、旅館のすぐ前を流れている川の事らしい。

なんていたれりつくせりな旅館なんだと、

Sさんはますますこの旅館が気に入ったそうです。


明日の釣りに備えて、風呂に入った後Sさんはすぐふとんに入りました。

日頃の疲れがどっと出たのか、すぐにうとうとし始め、Sさんは睡魔に誘われました。

薄れゆく意識の中、女の子の笑い声を聞いた気がしたそうです。  


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翌朝、まだ朝靄のある頃からSさんは旅館のすぐ前の川の岩をえっちらおっちら歩いて

「ここがボイントだゾ」という気がしたトコロで、腰を下ろし準備し始めました。


さすが釣り友達が勧めるだけあって釣れる釣れる!

Sさん実は釣りが好きでも「下手の横好き」というやつだったので

すっかりご機嫌になりました。


そんな時、ふと視界の隅に赤いモノが見えたのでSさんは「なんだろう?」と見ると、

Sさんのいる岩から少し離れた岩の上に

赤い浴衣を着た12歳くらいの女の子がじっとこっちを見てました。


その時、ちょうど当たりがきたのでSさんは、

ひょいっと釣り上げ、その釣った魚を女の子に見せて

「にっ」と微笑むと女の子もニコッと笑い返しました。


その女の子はしばらくSさんの釣りを見ていましたが、

そのうちどこかにいなくなってしまいました。

その事を少し残念に思いながらも、

Sさんは釣りに専念し、充実した釣りライフを送ったのでした。


旅館に戻り、釣った魚を女将に渡し、

それを夕食と酒の肴に夏の終わりの夜を旅館の自室で過ごしていました。

すると部屋と廊下の間の襖がするするっと開いたので

そちらを見ると、昼間の赤い浴衣の女の子が手に何か持って立っていました。

Sさんは「ああ、この子はこの旅館の子だったのか」と納得しました。


女の子が手に持っていたのはトランブでした。

身振り手振りでSさんにカルタをやろうと伝えます。

この時、Sさんはこの女の子が知能に障害のある娘だと気がつきました。

女の子は無邪気に笑っています。

Sさんは子供が好きだったので、ほろ酔い気分も手伝って遊び始めました。 


楽しい時間はなんとやら・・・

気がつくと12時も回っていました。

女の子に「そろそろ寝ないといけない時間だよ」と言いかけたSさんは

無邪気に笑う女の子の浴衣の裾から見える、

若く健康的な太股と、その先にある下着に目を奪われました。


女の子の浴衣ははしゃいだために乱れ、

肩は襟からはみ出し、帯も今にもほどけそうでした。

上記した頬はその汚れない唇を一層紅く見せ、その時Sさんが見た女の子の瞳には、

すでに少女とは思えない程の女としての欲情の炎がゆらめいてました。


突如、Sさんの中で何かが弾け、Sさんは女の子を押し倒しました。

女の子はびっくりした様子でしたが、それは最初だけ。

やがて誘うような流し目でSさんを促しました。

そしてSさんは少女の体に身を埋め始めたのでした。


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薄暗い旅館の部屋で男女の営みを交わすSさんと少女。

頃合いを見て、Sさんは自分のソレを少女のソコに当てました。

少女も誘うようにSさんの首に手を回します。

そして、ソレがソコを割って中に入った瞬間!


「ぎゃあああああああぁぁぁっっ!」

と少女が悲鳴を上げ始め、Sさんの腕や背中を爪で掻きむしって抵抗しました!

「初めて・・・なのか?」

とSさんは考えましたが、少女のソコはSさんを優しく、そして貪欲に

精を貪ろうと蠢き、かつて経験したことのない快楽にSさんは、

叫び、暴れる少女の頭を押さえつけ、口を塞いで、腰の動きに集中しました。


それがどれぐらいの時間だったのか?

少女の中で果てた後、Sさんはようやく自分を取り戻し、冷静になりました。

そして、自分が年端もいかない少女に暴行した事実に愕然となりました。


少女ははぎ取られた「緑色の」浴衣の上で、

口から血を流し、鼻から血を流し、目から血を流し、

首には黒い後を残して・・・冷たくなっていました。

呼吸もなく、脈もなく、死んでいました。


「うわぁっ」

Sさんの両手は少女の血がべっとりと付いていました。

Sさんは少女を暴行したばかりか、殺してしまったのです。

そんな状況を受け入れ難かったのか、Sさんは畳に頭をつけ、泣きました。


「また、あの娘が出た・・・んですね」

女将の声にSさんは頭を上げました。

襖が開いていて、女将と主人が立っていました。

「こっ、これはっ・・・」

Sさんが自分でもよく分からない説明をしようと、

少女の方を見ると、少女の死体はどこにもありませんでした。

でも部屋には「赤い」浴衣と散らばったトランプが

そして、男女の営みの時に発する独特の臭いが漂っていました。


浴衣は「緑色」だったのです。

でも少女の血で、深みある「赤」になっていました。


「あの娘はウチの娘だったんです。」

状況がよく分からないSさんにご主人が語りかけました。

「知恵の足りない娘でしたが、とてもいい娘でした。

 でも、10年前にウチで働いていた大学生のアルバイトに

 乱暴された挙げ句、殺されてしまいましてね・・・」

「それからずっと、[出る]んです。あの時のままで。

 私達の前には決して姿を現さずに、

 お客様の前に姿を現しては、自分の死んだ時のことを繰り返すんです。」

「去年、東京からいらしたお客さんの件で決心し、

 有名な方に払ってもらい、成仏したと思っていたのですが・・・」

「すいません。お客さん。」


赤い浴衣の少女は10年前に死んだ旅館の娘だったそうです。

旅館はつい最近まで、娘さんの供養のなんたらで

休業していたらしいのですが、再開した最初の客であったSさんの前に

少女の霊が現れたということは、成仏していないのでしょう。

少女の霊は男の客の前に姿を現し、自分の死に様を繰り返しているとのことでした。


釣りの楽しさなど吹き飛んで、なんとも後味の悪い結果になりました。

帰り道、Sさんは少女に自分がしたことに対して

何らかの償いを受けさせるだろうと予感していました。

ふと、ハンドルを握る自分の手を見て、「これか・・・」と納得したのです。


それ以来、Sさんは


[他人には見えない血で手がべとべとになる]


ようになったのです。


後輩にSさんは語りました。

「他の人には見えないから、信じてもらえないけど、

 俺の手はよく血でべとべとになる。

 臭いもするし、気持ち悪いから手を洗いに行くんだ。」


それがSさんの「手をよく洗いにいく理由」だったのです。

                                            おわり

どうも長くなってすみません。

話上手な友人から聞いた内容を出来るだけ忠実に書き込んでいたら

思った以上に長くなってしまいました。

最後まで読んでくれた人、ごくろうさま、そしてありがとう。






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