あっちの世界ゾ〜ン第十参夜「満腹ということ」

ちゃるさん談




信あっち〜の人豚と人の塩辛を読んで、今まで封印というか、

意識的に思い出すまいとしていたことを掘り返してしまいました。


私の父方の親類は「職業軍人」「警察官」が多く、

〜一家といっても良い状態なのですが、これは父の長兄から聞いた話です。

父の長兄(おじ)は父とは親子ほど年が離れております。

現在では90に手の届こうかという好々爺なのですが、大戦中は陸軍の大尉だったそうです。

..それは敗戦間近のことでした。配属先は最初から南方でした。

もうその頃はどうやって日本に撤退してゆくか、敵側の攻撃から逃げ回るかを考える日々でした。

最後の引き上げ船が来る浜べは、島の反対側という情報が入り、

叔父達は中隊ごとに島の反対を目指して撤収を始めました。

もう、食糧、弾丸等充分にあるわけはなく、なるべく敵に遭わないように昼は隠れ、

夜進むという状況でした。ジャングルというのはすごく体力を消耗するそうです。

身体の弱ったものから倒れていき、埋葬する時間もないまま、

「帰らなくては」という思いだけで歩いていたそうです。

あと数日の行程を残して食糧がつきたので、あとは食べられるものは何でも食べたそうです。

でもあまり変なものを食べると、下痢をしてそのまま死んでしまいます。

水木しげるさんの体験談に原住民の村とか畑で何か食糧をもらうという話がありましたが、

それはよほどラッキーな人で原住民はみんな逃げてしまっているし、

畑があったとしても、それが畑であるかどうかもわからない。

なんとなく見覚えのある葉の根を食べたり、トカゲ、蛙を食べました。

その中でひとり、中支戦線から配属されてきた男がいました。

中支..中国戦線です。普通、日本に近い方がラッキーな方面です。

司令官でもなくて中国から南方に飛ばされた男、それも戦争の後半に。

それは思想犯のように管理しにくい男か、現地に置いておきたくない理由がある男。

陰気でひよわそうな男でした。

彼は行軍中、何度も叔父にささやいたそうです。

「中支では、人を食べるであります」

叔父が一喝すると、彼は行軍の列に隠れてしまったそうです。

あと1日、目指す浜べへの到着が遅れていたら、

誘惑に勝てたかどうか自信がないと叔父は言っていました。

その男?

一緒に引き揚げ船に乗ったかどうか記憶はないそうです。







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