あっちの世界ゾーン第五十九夜「強者な友人たち(その2)」

楯野恒雪さん談


■その2:パンチで除霊


ずいぶん前に聞いた話なので多少不正確な点もあるかと思いますが、

“何が起こったのか”については紛れもなく事実です。

私の友人Mさんのお話です。

彼は幽霊など見たことがないと言いきる“見えない人”です。


オカルトとか怪奇映画には詳しい人なのですが、霊感は全くない人なのです。

ある時、彼の友人の自称霊能者のオカルトマニアの女性(以後Aさん)が、最近引っ越した

友達(以後Bさん)のマンションにいる幽霊を除霊をするという話を聞き付け、見物に行くことにしたそうです。

なんでも、髪の長い女の霊が毎晩金縛りにするんだか首を締めるんだかで、

Bさんはとても怯えていたのだそうです。

さて、時間にとってもルーズなことで有名なMさんは除霊当日思いっきり遅刻しました。

そこでAさんとBさんは彼が来る前に除霊を開始することにしました。


西洋魔術にこっているAさんは、部屋で香を焚いたり、

退魔の印を切ったりして霊を追い払う儀式を始めたそうです。

すると……なんと、二人の目の前(玄関と二人のいる部屋の間の廊下)に現れたのです、

その女の幽霊が。

それは恐ろしげな形相で二人を睨んでいたそうです。

悲鳴を上げるBさん。Aさんはビビリながらも印を切ると、

霊にこの家から出て行って二度と戻って来ないようにと命じました。

しかし、幽霊は嘲笑うような、それはそれは凄絶な笑みを浮かべて、

結界が張ってあるはずの部屋にゆっくりと入ってきました。

実はAさん、除霊などするのはこれが初めてだったそうです(おいおい)。

そこに現れたのがMさんでした。

彼はいつものように明るく「ちーす」(「こんちわー」の意)と言ってBさんの部屋のドアを開けました。

「どう、出たー?」

部屋の奥の方で抱きあって震えている二人に気付いていたのかいないのか、

彼は靴を脱ぐとズカズカと廊下を歩いて来ます。

驚いた二人が「そこに幽霊が」という暇もあればこそ。

「パーンチ」

突然、Mさんはそう言って前方に向けてパンチを繰り出しました。

幽霊に向けて。

すると、幽霊は突然かき消すように消えてしまいました。

AさんとBさんはしばらく何が起こったのか理解できなかったそうです(そりゃそーだ)。

私もにわかには信じがたいのですが、Mさん、何も見えてなかったそうです。

ただ、「なんとなく」パーンチとやってしまったそうで、

なんでそんなことをやったのかは自分でも解らないのだとか。

それから幽霊は二度とBさんの部屋に現れなくなったそうです。


実家が修験者の家系だったとか、機械と異常に相性が悪くて、

銀行のCD機に何度も原因不明の故障を起こさせたとか、なんか色々逸話のあるMさん。

彼は道を歩いていて突然「パーンチ」をすることがあります。

そんなとき、私はそこに私の見えない何かがいたんだなあと、妙な感慨にふけってしまいます。

こんな友人たちのおかげで、

私は「気合いがあれば霊には負けない」という堅い信念を抱くに至りました。(^^;





     戻る