あっちの世界ゾーン第六十五夜「侵入者」

Cielさん談


さて、何か自分で体験したことがあったかな?と、古い記憶を辿っていたら、

ある出来事を思い出しました。

あまり恐くはないし、人に話すことでもないお恥ずかしい話も含みますが、

良かったら読んで下さい。


20歳の頃、私は地元の愛知を遠く離れて、九州にある某大学に在学していました。

その頃の私は、今と違って、結構人見知りする性格だったので、遠距離で周りに知り合いが

誰も居なかったことも手伝って、入学してから徐々に話す友人も減り、

とうとう学校に顔を出さなくなりました。

心配して寮に来てくれた人も数人居たのですが、常に居留守を使っていたので、

そんな人達とも疎遠になり、昼間寝て夜町へ出るといった、不規則な生活を続けていました。

そんな生活も半年くらい続き、肉体的にも精神的にもかなりまいってた時期のお話です。

全然学校に出なかったのですが、3年生に進級してしまい

(うちの大学は2年から3年はエスカレーター式なので)学校を辞めて地元に戻ろうか、

それとも無理してでも残って卒業までは居ようか悩んでいました。

そんななか、徐々に精神的に憔悴していく自分がはっきりと感じられました。

相談できる人が誰も居なく、また人と話す機会も殆どなかった為です。


そんなある日の夜、うとうとしていると、いきなり金縛りにあいました。

今は全然金縛りはないのですが、その当時はよくあいました。

きっと不規則な生活がそうさせたのだと思います。

いつもなら、何事もなく時間が経てば金縛りが解けるのですが、今日のはいつもと何か違うのです。

なにかが・・・

「あれ?おかしいな・・・」

私はたゆたう意識のなかで、そう思いました。

すると、部屋の中に「何か」が居るのです。目を閉じていたので、見てはいないのですが、

気配ははっきり感じます。

でも、どうやら人間ではないような・・・動物(?)みたいな、そうとも言えないような感じなのです。

いきなり「何か」が、私に侵入してきました。

後頭部のあたりに、「何か」が入り込んでくる感覚がはっきりと分かります。

「いやだ・・・」

必至で抵抗しますが、徐々に頭の奥に入り込んできます。

「何か」がどんなものか、だんだん分かってきました。

それは、純粋な「邪悪」と表現できるような存在だと思います。

金縛りにあいながら、顔つきが変わって行くのが分かります。

目が釣りあがり、口が裂け(?)て、どうどん自分の表情が人間から離れていきます。

でも、どうすることもできません。

「もう、どうでもいいや・・・」

諦めの気持ちが私を満たします。

その時、ふっと金縛りが解けました。

こうしてようやく、私は開放されたのですが、今でも思うことがあります。


「そういえば、奴は私から出ていかなかったな・・・」





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