あっちの世界ゾーン第八夜「壁の穴」

 育美 さん談




 今夜はライトなお話しを。


 小学生の時の話です。

 当時は名古屋に住んでおりまして、

 修学旅行で京都・奈良二泊三日の旅行に行きました。

 ことは初日の晩、奈良で泊まったホテルでの話しとなります。


 私たちは5人で8畳くらいの部屋に泊まりました。

 まぁ、お決まりのように消灯時間までは女子の部屋まで遊びに行ったり、

 こっそり抜け出したりなどしていましたが、消灯時間を過ぎる頃には

 ちゃんと5人とも部屋に戻っていました。


 さぁ、布団を敷いて寝る準備をしようということになり、

 部屋を片付けて布団を敷きました。

 でも、そのまま寝る訳はありませんよね。 (^^;

 当然、こっそり持ち込んだお菓子を食べたり、トランプしたり、遊ぶ訳です。

 さてお菓子を広げる段になり、何か台が欲しいと思ったところ、

 部屋の押し入れの前に立てかけてあった座卓に目が行きました。

 こたつより一回り大きい、かなり大きな重たい座卓でした。


 それをどけて持って来ようとした時に、ドキリとしました。

 どかした後の壁にちょうど15cm 位の大きさの穴が空いていたんです。

 場所は畳から10cmくらい上の低い位置でした。

 みなで、あの穴を隠す為に置いてあったのかなぁ、

 小学生だから、重いものはどかさないと思ったのかな、

 などと話しましたが、何だか妙に無気味です。

 壁は土壁だったので、乱暴な奴が蹴り開けたんじゃないの?

 なんて話しで決着しました。


 当然、その位置に布団も敷いてあるのですが、

 そこに寝るのは皆嫌がりました。

 じゃんけんの結果、一番恐がりのS君がそこに寝ることになりました。

 暫く遊んだ後、話しは自然とお決まりのように怪談になりす。

 ましてや、すぐそこの壁には変な穴がある訳です。

 それだけでも余計に盛り上がりました。


 S君はそういう話しが嫌いなので早々に、寝るよ、

 といって布団に入ってしまいました。

 当然というか、壁と反対側に枕を置いて、壁に足を向けた形で布団に入りました。

 消灯時間は過ぎていましたので、部屋の電気は予備灯の

 薄暗い明かりだけで、四人は次々に怪談を続けました。


 最初のうち、S君も嫌がりながらそっぽを向いて聞いていたようでしたが、

 さすがに30分もすると昼間の疲れか寝入ってしまいました。

 その時、ふと一人の奴が「悪戯」を思いついたのです

 (ごめんなさい、白状します、それは私です)。


 四人はそうっとS君に近づきました。

 そして寝息が本物なのを確かめると、布団をゆっくり壁の方に引きずって行って、

 掛け布団から彼の右足だけを出しました。

 それから更に慎重に、右足首を真直ぐに伸ばして、

 壁の穴の中に足首の部分だけ入れてしまいました。


 しかし足首は人の手を離れれば元に戻ります。

 ちょうどエル字型になる訳ですね(笑)。

 そして、私たち四人はS君の身体を揺さぶりながら、

 「大変だ、大変だ、Sちゃん!足が!足がぁ!」

 と口々に叫びながら起こしました。


 彼は、目が覚めた途端、私たちのただならない様子に驚き、

 自分の足元を見て、やがて言葉の意味を理解した時、

 泣きそうな顔で叫び出しました。

 「足がぁ!足が抜けないよぉぉ!!」

 その後はもう、爆笑の渦でした。


 まんまと引っ掛かったS君は、

 それこそ死にそうな位の必死な形相で泣き叫んでいました。

 さすがにやばいと思い直して、急いで部屋の電気を付けて、

 彼に謝りながらなだめました。

 先生が来たら大目玉ですからね。 <そうじゃないだろう!


 とにかく彼を落ちつかせようと平謝りでしたが、彼はなおも泣いています。

 足が抜けない、足が抜けないを繰り返しました。

 大丈夫だから、落ち着いて足首を伸ばして抜いてごらんと言っても、

 彼の右足は抜けませんでした。


 そのうちに一人が、事の重大さに気がつきました。

 おい、変だぞ、この穴、こんなに小さかったか?...

 彼に言われて、私たちは冷静に穴を見ました。

 確かに、その穴はS君の足とちょうどぴったりの大きさになっていたんです!

 誰もが顔を見合わせて、何も言えなくなってしまいました。

 ゾーっとした、言い様の無い恐さが襲って来ました。


 その後は、泣きべそをかいているS君の足を、四人で少しずつ、

 痛くないように気をつけながら抜きました。

 入れた時はすごく簡単だったのに、S君の足は擦れて赤くなってしまいました。


 やっとの思いで足を抜くと、S君に全員で手をついて謝って、

 それから布団を寄せて壁の穴の位置を避けてみなで眠りにつきました。

 もちろん、座卓で元どおりに穴を隠したうえで。


 翌朝、恐る恐る穴を見ると、何だか元の大きさになっているようでした。

 思い切って手を入れてみましたが、楽々入ったので、

 元の大きさだったと思います。

 昨夜の現象がなんだったのか、誰も説明は出来ませんでしたが、

 悪戯半分にああいう事をしてはいけないのだと、それだけは肝に銘じました。


 幸いな事に、S君の足はちょっと擦りむいた程度で無事でした。

 先生にも言わないでくれると言う事になり、

 そちらの方に安心したように思います。

 それにしても、気のせいにしては、穴が縮むって話しは妙だと思いませんか?

 それ以来、土の壁に穴があると、妙に恐さを感じます。

 こういうのをトラウマって言うんでしょうかね。

 え?お前が悪いんだろうって...その通りです。

 S君ごめん。 (^^;




 以上です。

 「あっちの世界」の話しかどうか、良く分かりませんが、

 私が悪人だというのだけは確かです(笑)。

 全員がパニック状態になったので、

 穴が縮んだように感じただけかもしれません。

 真相は、まさに穴の中です。


 この他に、「木曜の夜」、「トンカチの音」、「空白の四時間」などがありますが、

 あまり恐くないものばかりです。

 私は直接に何かを見る、経験は一度もありません。

 一度くらい見てみたいんですけどね。

 前回の髪の毛くらいのものでしょうか。



 強烈な心霊写真はありますけど。


 ではまた!