あっちの世界ゾーン第九十参夜「バスの女」

岩崎淳一さん談


僕は高校1年生の夏休みに集中的に怪奇現象にあったのですが、

今日はその中の一つをご紹介したいと思います。


夏休みにはいると、僕はすぐにバイトを始めました。

もちろんこずかい稼ぎのためです。

僕の住んでいるところはかなりの田舎で、商店街は8時になると店を閉めるし、

ましてやコンビニなどはありませんでした。(今、建設中です。)

もちろんバイト先がなかったわけではありませんが、時給も安くてとても働く気にはなれませんでした。


そんなとき、うちの親戚の会社がバイトを募集していたので早速やることに決めました。

時給は安かったのですが、少し手心を加えてもらったので決めたのです。


仕事は大変でした。

たいてい昼過ぎから仕事を始めて夕方の6時頃に帰れるのですが、

正社員の人が休みだったりすると、夜の9時、あるいは10時頃まで働くこともありました。


怪奇現象は、そんな仕事が遅くなった日に起きたのです。

その日も10時頃まで働いて、ちょうど父と交代だったので(父はその会社に勤めています)

ちょっと話をしてから帰路につきました。

だいたい10時30分頃だったと思います。

その会社から家までは約30分かかります。

隣町だったので自転車で通っていたのです。途中の道は、ほとんど街灯もなく、真っ暗な道です。

いわゆる散居村を通るために、人影もほとんどありません。

でも、そこで起きたわけではありませんでした。


いつもの道を通ると、駅の近くに出ます。

そこは街灯もたくさんあり、いつもその通りに出るとほっとしたものです。

すーっと自転車を走らせて、坂にさしかかったとき、僕の横を最終のバスが通りました。

何気なくバスの中に目をやると運転手の他に、会社帰りと思われる中年男性と

僕と同じくらいの年の黄色い服を着た女の子が乗っていました。

バスが通り過ぎていく時に女の子がこっちをじっと見ているのに気がつきました。

結構かわいい子だったので、思わずにっこりとしてしまいました。


少し行くと、バスの停留所だったのでその女の子に声をかけようと思い、

急いでバスのところに行きました。

すでにバスは止まっていて、中年男性が降りてくるところでした。

僕はワクワクしながら女の子を待っていると、誰も降りてきません。

それどころか、女の子が乗っていた形跡はなかったのです。


そのときはっと気がつきました。

女の子が来ていた黄色い服というのはセーターだったのです。

いくら夜とはいえ、真夏の暑いときにセーターなど来ている人はいません。


僕は全速力で自転車を漕ぎました。

幽霊だという確信を持ったからです。

するとどこからともなく、不気味な声が聞こえてきました。

なんと言っているのかは分かりませんでしたが、この世のものではない声のようでした。

それは僕の後ろの方から聞こえているようでした。

「うわー!!」


僕は悲鳴とも叫びともつかない声を上げながら、全速力で逃げました。

しかし、その声は、いやその声の主はどんどん近づいてきました。

逃げても逃げてもどんどんどんどん近づいてきます。

「うー・・・・」

どんどんどんどんどんどんどんどん近づいてきます。

その声が真後ろに来ました。


「憑りついてやる」


その瞬間、僕は家の中に逃げ込むことが出来ました。

幽霊の気配は消え、何とか難を逃れました。


後日友達にこの話をしたところ、約20年前の冬にこの沿線のバスの中で、

少女が血を吐いて倒れたそうです。

その少女は卒業間近で大学に進むことが決まっていたそうです。

血を吐いてから1週間後、その少女は治療の甲斐なく亡くなったそうです。

その少女が倒れたときに来ていたのが黄色のセーターだったそうです。


他にもたくさん話があるのでまたの機会に・・・





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