あっちの世界ゾーン第九十九夜「香川県在住「たつや」さん38才の体験談。」

さんがつうさぎさん談


掲示板でお目にかかりました、さんがつうさぎです。こんにちは。

お約束通り、FM番組の中で紹介したリスナーの体験談をお送りします。

放送したときは粗筋だけだったのですが、電話オペレーターの子が、

後から話の全部を聞かせてくれました。


香川県在住 「たつや」さん 38才 の体験談。


20数年前、たつやさんはバリバリのヤンキーでした。

パンチパーマに特攻服。

角のような剃り込みに、糸のような眉。

45度のサングラスを決め、ロケットカウルのRZ250を乗り回す。

そう、俗に言う「族」だったのです。(さっむ〜)


彼のチームのヘッドはA君、たつやさんの2つ年上のお兄さんです。

A君は伝説の人物で、

「パトカーにチキンレースを挑み、50センチでアクセルターンをかまして逃げた。」

「20人相手に木刀1本で勝った。」

など、嘘かホントかわからない噂が沢山ありました。

噂を総合すると、

「Aの辞書に怖いものはない」ということだったようです。


夏休みのある日、

彼等はいつものように市街地を暴走し、山奥の集合場所に再結集しました。

いつもなら花火をしたり、酒を飲んで騒いだりと普通の若者と変わらない遊び方をするのですが、

夏休みに入って連日のように同じパターンが続いていたため、みんな少々飽きて退屈していました。

そんなとき、サブ・リーダーのB君が口火を切りました。

「なぁ、五色台トンネルいこや。」


五色台ドライブウェイ。そこは香川でも有数の心霊スポットです。

細く曲がりくねった道は鬱蒼とした森の中。

昼なお暗く、夜となれば街灯一つないため真の闇に包まれます。

その五色台ドライブウェイに一つだけあるトンネルは

「入ったものは必ず心霊体験をする。」といういわく付きの場所でした。


「怖いものはない」はずのA君にも怖いものが一つありました。

”お化け”です。

小さい頃から夜のトイレは兄に起こされ、2人で手をつないで行っていた

たつやさんはいつかメンバーにそれがばれるのではないかとひやひやしながら思っていました。

たつやさんはそっとA君の顔色をうかがいます。

案の定、A君の小鼻が膨らんでいます。

我慢して、空元気を出すときの癖です。

「おぅ、いこや。やけど、あそこはバイクでは危ないんちゃうか?」

いつになく慎重なA君の発言にB君は弱みをかぎました。

B君は喧嘩も強く、メカに詳しいのですが、いまいち人望が薄く、A君にヘッドの座を譲っていました。

隙あらばA君の寝首をかこうと狙っていたのです。

B君はニヤリと笑って言いました。

「俺もお前も車やんか。2台で交代で行ったらええんや。」

墓穴!自爆!あんちゃんの阿呆。

たつやさんは思いました。

メンバーは10数名。

車の運転が出来るのはA君とB君のみ。

つまり、A君は2回はトンネルに行かなくてはならなくなってしまったのです。

どうしよう、どうしよう。

たつやさんが見守る中、A君の小鼻はますます膨らみました。

「おぅ。肝試しやけんの、一台づつで行こや。」

あんちゃんの阿呆。そんなに強がらんでもええヤン。

なんで、あほらし〜、やめよや。って言えんのや。

そういうたつやさんも実はメチャメチャ怖かったのです。

B君は余裕の笑みをかましました。

「なら、俺が先に行くけん。トンネル出たところに旗置いてくるわ。お前、次行って、とってこいや。」

そういい残すと、彼はチーム旗を掴み、車に向かいました。

取り巻きの女の子が2人、チームで一番可愛い女の子のCさんと

それなりのDさんが後に続き、彼等はトンネル方面へ、暗い道の中を消えて行きました。


たつやさんは、えらいことになったなぁ、と思いつつ、

少々の時間稼ぎが出来たことにほっとしていました。

でも、Cさんを連れて行かれちゃったのはちょっと惜しいな。

B君はかなりの男前。

これがきっかけでCさんとB君が・・・。

いや、でも、B君は結構Cさんにはつれない態度だったし・・・。

B君のの本命はDさんなのかなぁ。たつやさんの頭の中はいろいろな想像でぐるぐるしました。


ふと気付くと、メンバーがざわざわと落ち着かなくなっています。

「おい、もう一時間も経っちょるで。」

え?

仲間の談笑にいい加減な相づちを打ちながら色々な想像を張り巡らしているうちに

一時間もの時が経ってしまっていたのです。

ここから五色台トンネルまで車なら10分程度。

往復して帰ってきたところで30分も掛からないでしょう。

ところが、あれから一時間・・・。

メンバーの一人がふざけた調子で言いました。

「Bのヤツ、別のトンネル探検しよるんとちゃうんか?」

え〜、B君とCさんが!いや、Dさんも・・・ということは・・・。

さ、さ、さ、3XXXX(ぴー)?

たつやさんの頭の中にまたいけない想像が渦巻きました。

「あ、あんちゃん・・・。」

たつやさんはA君の顔を見上げます。Cさんが・・・、Cさんが・・・。

「やかまし!黙ってろ!」

A君の額にはじっとりと汗がにじんでいます。そして、また小鼻が膨らみ始めました。

A君はすっくと立ち上がりました。

「おい、たつや、こい。探しに行くぞ。」


たつやさんは怖いのも忘れ、意気揚々と車に乗り込みました。

Bのヤツ、一人でいい思いしやがって、現場を見つけたら・・・、

俺も仲間に入れて欲しい・・・。

気持ちと股間が熱くなっていたたつやさんはうっかり、A君の小鼻が膨らんでいたことを忘れていました。

「なぁ、あんちゃん、Bのヤツ許せんよな。」

A君は返事をしません。額にじっとりと汗を浮かべたままきつくハンドルを握っています。

五色台ドライブウェイは漆黒の闇の中、車のヘッドライトの

作る2つの輪すらも闇に吸い込まれていきそうでした。

やがて、トンネルのオレンジ色の照明が夜の中にぽっかりと口を開けるように見えてきました。

さすがにたつやさんも気味が悪くなりました。

この世界とは別の生き物に飲み込まれるようなそんな寒気を感じたのです。

「なぁ、あんちゃん、Bさんここにはおらんで。きっと、女の子達と・・・」

「Bはホモや。女には興味ないんや。」

・・・サブリーダーはさぶ!

余りの衝撃にたつやさんはしょうもない駄洒落を思いついてしまいました。

でも、・・・と、いうことは・・・。

・・・あっちの世界。

「いくぞ!たつや!」

「わぁぁぁあぁぁあ!いややーっっ!あんちゃん!」

「俺かていややーっっ!わぁぁぁぁぁぁあっっっっっっ!」

二人は恐怖を紛らわすために絶叫しながらトンネルに突入しました。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「わぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」

トンネルの終わりが近付き、オレンジ色の照明がとぎれるところが見えるようになった頃、

叫び疲れた二人の声は段々と小さくなってきました。

その時、

ドスン!

車の天井に鈍い衝撃が走りました。

二人は声にならない叫び声を上げました。

そして、A君は泣きながら強くアクセルを踏み込み、

たつやさんは助手席で目を固く閉じ耳をふさぎ胎児のように膝まで抱えました。


強いブレーキの音と前のめりの衝撃で、たつやさんははっと目を開きました。

トンネルの出口。そのすぐ脇にガードレールにぶつかって停まっているB君の車がありました。

「・・・あんちゃん、事故りよる。」

「見たら分っかるわ。阿呆。いくぞ。」

二人はおそるおそるB君の車に近付きました。


運転席のB君は気を失っているようでした。

口から白い泡をぶくぶくと吹いています。

助手席のCさんは泣きながら高笑いしています。

後部座席ではDさんが目を見開いたまま膝を抱えてぶるぶると震えています。

A君は、後部座席のドアを叩きました。

「おい!どしたんや!開け!」

Dさんはぶるぶると震えながら、何回も失敗してようやくドアを開け、外に転がり出ました。

そして、A君にしがみつき、

「手が!手が!」

と叫ぶと、高笑いを始め、完全に正気を失ってしまいました。

たつやさんは呆然と立ちつくしていました。

「あんちゃん、どうする?」

「とりあえず、みんな俺の車に乗せ。Bの(車)は牽引してくけん、お前がハンドル取れ。」

「え゛〜!!!俺、いややーっっっっ!!」

たつやさんは泣いて抗議しました。

しかし、伝説のA君の一睨みであっさりとそうしなければならないことを悟りました。

「なら、お前、置いてくけん。」

・・・それだけは絶対にイヤだ。


なんとか3人をA君の車に積み込み、

B君の車をA君のバンパーに繋いだときには夜が、白々と明け始めていました。

たつやさんは、B君の車の運転席に乗り込み、

A君の車のナンバープレートだけをじっと見つめ、ハンドルにかじりついていました。

涙と鼻水をだらだらとこぼしながら、

「あんちゃんの阿呆、あんちゃんの阿呆、・・・。」

と呪詛のように繰り返しながら。

やがて、2台の車はゆっくりと元来た道を、・・・そう、トンネルを進み始めました。

たつやさんは何も考えないように、ただ、A君の車のナンバープレートだけを見続けていました。


トンネルを抜け、まばゆい朝の光がフロントグラスに降り注ぎました。

「助かった。」

たつやさんは安堵のあまり全身の力が抜けて行くのを感じました。

でも、その時、彼は気付いてしまったのです。

フロントグラスの上部に何かがあります。


それは、くっきりと、


逆さについた両手の手形


でした。


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病院に運ばれた3人のうち、

B君は意識不明のまま亡くなり、Cさん、Dさんは精神を病んで、未だに病院にいるそうです。

あの時、B君達に何が起こったのかは誰も知る由がありません。


あの日以来、たつやさんとA君はきっぱりと暴走族をやめました。

肝試し程度で意地を張らなければならない仲間と付き合うのが怖かったからだそうです。

今は兄弟で運送屋さんを営み、たつやさんは元暴走族だなんて、

言われなければ(言われても)信じられないような、やさしい2児のパパです。



さて、リスナーからの体験談はこれ以上に怖いものはありませんでした。

けど、スタッフの体験談、放送中の謎の事故。など、

これより怖い話はまだありますよ。続きはまた、おいおいと。





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