あっちの世界ゾ〜ン第三十壱夜「日本に帰りたい」

RENさん談


肩凝りと戦いながら 昔話をひとつ。


その頃私は、とても小さな某旅行会社でブッキングのお仕事をしていました。

新入りの私はお昼休みも一番最後でしたから、

あれは多分午後2時過ぎではなかったかと思います。

小さなオフィスに女ばかりでしたので、そこはオフィス兼

お茶室兼化粧室になっておりました。(殿方が見たらギョッとするでしょうね。)

私のデスクは入り口に一番近く、調度ドアを背にして座るような位置で、

そこで化粧直しをしていた時のことです。

鏡に入り口のドアが映っていたんですが、

そのドアに凭れるようにして女の人が立っておりました。


今でもはっきり覚えています。

淡いピンクのポロシャツ、その当時の典型的な観光客ルックでした。

髪は当時流行りのボブ。暗い表情。20歳ちょい過ぎといったところでしょうか。

「お客さんが間違って奥のオフィスに入って来た」と思って疑わなかった私。

しかし後ろを振り返ると、そこには誰もいませんでした。

表に観光客用のカウンターになっている部屋がありました。

通常そこにエスコートのおばさんがいるんですが、お客さんがそこを

素通りして奥のオフィスまで来たのであれば、おばさん不在の可能性ありです。

「こういう時は新入りの私が出ていって 用件をきかなくちゃならない。

めんどくさー。」と思いながら立ち上がりました。

その時カウンターの部屋から声がしました。


『日本に帰りたい...』


「っかー。新婚さんの喧嘩かぁ。こんな所まで来て喧嘩するなよなー..(心の声)」

と表の部屋へ入ったら、エスコートのおばさんが

煎餅バリバリしながら一人仕事をしていました。

「すみません、今お客様がいらっしゃいましたよね。」

「来ないよー。〈バリバリバリ〉」

「.......」

そのカウンターのお部屋は通りに面して外から丸見えのガラス張り。

正面入り口はおばさんの目の前のガラスのドアだけ。


...真昼間なのに、出ました。







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