あっちの世界ゾ〜ン第七十壱夜「私が怖れたタロットカード」

那由さん談


こんにちは、那由です。この間送れなかったお話をしに、またやって来ました。

RENさん、レス嬉しかったです。ありがとうございます。

ええ!熱く語らせていただきます。つまらなければお許しください。

さて、このお話は那由の恐怖と呪いと独断と偏見により、

すべての元凶をあるタロットカードにあると決めつけて語るものであります。

…が確たる証拠はありません。

すべては私の思い込みだったのか、あるいは、まったく別件の原因に

あったのかもしれません。(思い当たる事は他にもあったりする…)

しかし、少なくともその存在は私の精神を蝕む一つの要因になった事は確かです。

それは不気味でした。それはあまりにも私を不安にさせました。

長い話になる事を始めにお詫びします。 …それでは、聞いてください。


あれは、私が小学6年生の頃だったでしょうか。

5歳年上のいとこのお姉さんから、あるタロットカードを譲り受けました。


お姉さん「友達からもらったんやけど、もう使わんけんあげる。」

そう言って、彼女はおもむろに奥から

モノクロのエジプト壁画風に描かれてある占い道具を取り出してきました。

お姉さんは、女の子としてセンスのよい、健康的な美少女でしたが、

手に持つそれは、そんな彼女におよそふさわしくない、使い古された、

センスに欠ける、その上、異様な不気味さを漂わせているタロットカードでした。

(カードの背が星柄模様だったのですが、個人的にこれを古臭く思っていた。)

そして、ちょっとお姉さんの様子が妙でした。

というのも、お姉さん曰く。



お姉さん「これね、ちょっと気持ち悪いんよ。」

私「え?」

お姉さん「友達から(もらった人)から聞いたんやけど、いわく付きでね。

なんか、元の持ち主が分からんほど人から人に渡ったもんらしいんよ。」

私「ふうん…。」

お姉さん「占い道具ってね、使えば使うほど魔力がこもるんやって、やけん、

これもね、いろんな人に使われた分、相当魔力がこもっとるって言うとった。」

私「…………。」

お姉さん「そしてね…」


と、お姉さんは、なおも話を続け、その時私はある衝撃的ないわくを耳にした!!

……はずであるが、残念ながら記憶が曖昧でどうだったのかは思い出せません。

その時の私にしてみれば、どうでもいい眉唾話として聞き流してしまったんですね。

(お姉さん、私を怖がらせるの好きでしたから…)

けれども、次にお姉さんが「これ、見て。」と、中から一枚取り出して

私に見せた時、さすがに背筋がヒヤッとした事を覚えています。

そこには、深い赤色のペンで書き込みされて、

流血を彩っているTHE DEVILのカードがありました。

まるで尋常ではない意思と願いを込めて、そのカードに

生命を吹きこんだかのような、何者かの本気の気迫が、私を圧倒したのです。

………しばし沈黙。

けれども当時娯楽の乏しかった私は、ますます興味津津で、二つ返事でもらい受け、

(うわぁ…当たりそう〜)などと、占い三昧の日々を思い浮かべては、

涎を垂らし垂らし家路についたのでした。


さて、喜んでもっらって帰ったものの、しばらくほったらかしで、

初めて使ったときには、もう中2になっていました。いや、不精者で。

面白半分でクラスの友達に占いをして見せていたんですけど、

これがよく当たったんです。

といっても、探し物や身辺注意ぐらいの事だったんですが、

そのうち、みんな気味悪がるようになり、使うのをやめる事になりました。

その後、何事もなく高校生になり、占いブームがまた巡ってくることになりました。

華盛りの高校生活のこと、勉強やら、恋やらで、占いも再び活気ずく訳です。

けれども、楽しい占いブームの到来とともに、

私は忘れられない奇妙な出来事と遭遇することになったのです。


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高校2年の頃、

私は自分の悩みの解決手段に、そのタロットカードをよく使ったりしていました。

まあ、考えても解決しない問題なんかを、

手っ取り早く方向づける為だったんですが。

そうやって使っているうち、ある日、

何気なくそのタロットカードに手をかけようとした時です。

(今度使ったら、あなたの大事なものもらうよ。)

そんな突拍子もない思考が頭をよぎったのです。

それも、これは目の前にあるタロットカードから発せられた言葉であると、

なぜかはっきりと確信するものでした。

(!?…今のは一体なんだったのだろう。)

私は、なぜ自分がそんなことを考えてしまったのか、

さっぱり理解不能で、首をかしげてしまいました。そして当然。

(…気のせいだよなぁ。ばかばかしい。)

そう気を取り直してタロットカードに手をかけようとしました。

けれども、何か気が進みません。

結局、虫の知らせという事があるのかもと考えて、

私はそれからタロットカードに触れる事を避けるようになりました。

ところが、意外なところで、

またそのタロットカードを使う機会がおとずれてしまったのです。

こんな私にも偉そうに高校2年にして彼氏ができたんですが、その彼が、

家に遊びに来た時、タロットカードを見るなり、占って欲しいと言いだしたのです。

私は迷いました。

気の迷いとはいえ、あんな不気味な言葉を連想させた

タロットカードにもう一度触ってもいいものだろうか…。

そんな事を考えながらも、結局、断りきれず、

私は二人の恋愛について占う事になったのです。

私は気を集中し、カードをきり、タロットカードに尋ねます。

第三者の意見を仰ぐように、それが私の占い方でした。

そして、結果は…。

私は一枚一枚カードを開いていきました。ゆっくりと。

すると、信じられない現象が起こっていたのです。

タロットカードは大アルカナカード22枚、小アルカナカード56枚、

合計78枚のカードがあるのですが、

この時私はすべてのカード78枚を使っての占いを試みていました。

よくきり、よく混ぜ合わせ、よくきって。

そして、運命の15枚のカードをテーブルの上に置いたのです。

にもかかわらず、めくってみると、その15枚のカードは、

すべて、大きな意味を司る大アルカナカードだったのです。

普通、枚数の多い小アルカナカードが混ざるものなのですが、

まるで最初から大アルカナだけで占ったかのように、

実に22枚中15枚の大アルカナカードがテーブルの上にのっかっていたのです。

しかも、今まで見たことのない最悪のシナリオで…。

良いものなど一つもなく、

決別、裏切り、失恋、ふたまた、失敗、奈落、逆運命と逆世界…

一枚めくるごとに私の手が震えていきました。

そして、頭の中であの言葉が巡っていました。

「あなたの大事なもの、もらうよ。」

それでも私は得体の知れない不安を心の中でかき消しながら、最後の救済の

キーを表すカードに、自分の不安が当たらぬよう願いを込めて手をかけました。

しかし、そこに出たカードは DEATH …。死。

まさに、ジ・エンドと結ばれて、シナリオが終わらされたのです。

私は最後の、そのカードを表に向けることができませんでした。

この時ほど、何者かの意図的な悪意を感じた事はありません。

そして、当然彼には15枚のカードが表している意味を、

出た通りに言う訳にはいきません。

適当に話を作って、さっさとタロットカードをかたずけました。

(こんなもの、早く捨てなきゃ…。)

心の中でそう強く警告していました。……けれども、時すでに遅かったのです。

それからまもなくして、私はこんな夢を見ました。

巻き毛の西洋人形がいます。まわりは真っ暗です。

気がつくと彼女は私の寝ているすぐ側まで近づいてきていました。

そして、こう言いました。

「あなたの大切なものちょうだい。」

ファサ、ファサ、ファサ。何かが私の顔の上に落ちてきます。

私は、注意深くそれを確かめました。髪の毛だ…。

もう一度、彼女に目を移すと、

そこには、ズルズルと髪の毛が抜け落ちていく人形の姿がありました。

「ウフフフフフフフ…。」

そんな笑い声を聞きながら、私の意識は遠のいていきました。

そして、気がついたときは朝でした。

普通ならこんな夢、ありがちな単なる悪夢として、

さほど気にも留めることなく終わるのですが、

これから起こる悲劇を思うと、いまわしい符号を感じずにはいられないのです。


そう、抜け始めたのです。…毛が…。


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私はいつもと変わらず学校で授業を受けていました。

すると、後ろの席のクラスメートが

「Yさん……髪が……」

と言うのです。

彼女の目線が私の座っているイスの後ろに向けられていたので、

私はそこを見たのです。

そこには、抜け落ちた何本もの私の髪の毛が散乱していました。


「!!」(きゃあああああああああああああああああ!)


私はうろたえました。

しかし、クラスメートに不気味がられてはまずい。

私は平静を装って、さっさとそれを掃除してしまいました。

(…自分に何が起こっているのだろう?)

考えても知る由もありません。

結局、成すがままに、大きなはげを作ってしまいました。

いわゆる、円形脱毛症。

悩めるお年頃のこと、きっとなんだかんだ悩みすぎたのでしょうか…。

ともかく、しばらくして、私はあのときの夢を思い出しました。

そして、忌まわしい偶然の一致に愕然とし、

あれ(タロットカード)に違いない!と直感したのです。

私はすぐさまタロットカードをゴミ袋に捨ててしまいました。

しかし…次の日。


母「これ、捨ててあったわよ。ちゃんとしまっておきなさいよ。」

私「!!」(きゃああああああああああああああ)


それは母の手によって私の元に戻ってきたのです。

まるで私をあざ笑うかのように…

なぜ母は、そんなものをわざわざゴミ袋から

引っ張り出して私に戻そうと思ったのでしょうか。

(それは…それは捨てたんだあああああああ!)

私は、びびりまくりました。

そして、母の目の前で、タロットカードをばらし、

もう一度ゴミ袋に入れて口を閉じました。

そんな私の姿を見て、母もなんとなく感じ取ったのでしょう、

こう言ったのを覚えています。


母「…それ、ちゃんとどこかに持っていったほうがいいんじゃないの?」


それから、そのタロットカードは二度と私のもとに戻る事はありませんでしたが、

頭のはげの方は、それから3年経っても一向に治る気配を見せませんでした。

(もしかしたら、このままずっと治らないんだろうか)

そんな不安がよぎり始めた頃。

あの、いとこのお姉さんが、ある気功師を紹介してくれました。

お姉さん、3年間も不妊症に悩んでいたんですが、人から噂を聞いて、

その気功師さんに治療してもらったところたちどころに治ってしまったのです。

その上、浄霊もやっているというので、

私の中で、これは一石二鳥!と鐘が鳴りました。

さっそく、その気功師さんに診てもらうことになりました。


はじめの2、3回は何の効果もなく、これで治るのかと半信半疑でしたが、4回目、

気功師「何か痛いところがあったら言ってくださいね。」

そう言って、気を送ってくれた時です。

私はひどく息苦しくなりました。

胸からのどにかけて、何かが詰まっている感じです。

じわじわと体が熱くなり、だんだん息が荒くなっていきました。

ハア、ハア、ハア、ゼイ、ゼイ、ゼイ。

気功師「どうですか?」

私「…痛くはないです。ただ、息ができないほど苦しいです。

なんか、のどの奥に詰まってる感じ。」

そう言って、気功師さんのほうを見ると、彼の顔がみるみる青ざめていきました。

気功師「…もしかしたら…、私に治せるかどうかわからないかも…」

(!!えええええええええええ?)

気功師「…でも、いや、治しますよ!絶対に。」

(…そ、それって、どういう意味?)

その言葉の意味を、私は次の治療ではっきりと理解することになりました。

いつものように、気功師さんは私に気を送り始めた時、

私は、また、あの息苦しさに見舞われました。

そして、今回はその上、耳のすぐ後ろから

女性の叫ぶような、うめき声が聞こえてきたのです。

私は、まさか後ろにいる気功師さんのいたずら? 

…かと思い、横目で確かめました。

しかし、目をつぶって一生懸命気を送っています。

(ちがう…じゃあ、これは?)

その場にいる誰も、奇声をあげている人物は見当たりませんでした。

では、誰が?そして、その次の回。 

私はびくともしない気功師さんの道場の引き戸の前で、

途方にくれて座っていました。

やっと、気功師さんが道場にやって来て、

私を見るなり、その引き戸の向こうから言いました。


気功師「どうしたの、入っといで。」

私「鍵がかかっていて入れません。」

気功師「……鍵なんかついてない。開けてごらん。」

しかし、引き戸はびくともしませんでした。

では、建付けが悪かったのか、…いえ、気功師さんは、

私に「本当に開かないの?」というと、

いとも簡単に軽やかに引き戸を開けてしまったのです。

「………。」二人、しばし沈黙。そして、

気功師「ようし、今日はいつもより強力に気を入れてあげる。」

そうやって治療を始めると、また、女の声が聞こえてきました。

前よりも大きな声で。

どのくらい経ったでしょうか、しだいに女の声が遠のいていきました。

大勢のざわめきの気配とともに。

それが分かっていたのでしょうか、気功師さんは言いました。


気功師「何か、チカッとする光が見えたら言ってね。」

しばらくすると、やわらかいオレンジの光が目頭に浮かび、

パッパッと点滅するようになりました。

それは、しだいに目いっぱいに広がりまぶしく光り輝きました。

(ああ、終わった。)

私、この時、こう思いました。

そして、思った通り、それからは順調に回復し、すっかり良くなったのです。

心配してくださった方、ありがとうございます。

私は大丈夫でーす!ピンピンしてます。

ハゲが治ったのは、間違いなくこの気功師さんのおかげです。

しかし、疑問がひとつ残りました。

あの女の人は一体何者だったのでしょうか…。

別件でもらった霊なのか、それとも、

気功師にいじめられてしまった私の守護霊様なのか、あるいは……。

私はあのタロットカードに憑いていた何者かであったと思っています。

しかし、他に思い当たる事もあります。

それは、また今度にお話します。

さて、犯人は一体誰か、皆さんと一緒に推理できたらいいなあ。

長いお話ですみませんでした。ありがとうございます。


(…………あなたのタロットカード大丈夫ですか?)







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