あっちの世界ゾ〜ン第八十参夜「盛り塩を忘れた雨の日」

さんがつうさぎさん談


うさぎは最近またアルバイトを始めました。

衝撃の告白。

実は新地でホステスのアルバイトを始めたのです。

いえ、特にお金に困っているわけでもなんでもないんです。

大阪に引っ越して早々、地元放送局にコネのある人から

地元放送局に売り込むシナリオが書けたら持ってきてもいいと言われたのですが、

私は大阪の地理は知らない、大阪弁もまともにしゃべれない(T-T)

そんな状況で大阪の放送局に持ち込めるシナリオが書けるはずがありません。

そこで手っ取り早く

大阪人と毎日しゃべれてネタも拾えるこの仕事を選んだわけです。

いわゆるシナリオハンティングってヤツですね。


前置きが長くなりましたが・・・(^-^;早速新鮮なネタを・・・。


新地というのは東京で言えば銀座とでも申しましょうか、

超高級クラブがずらりと軒を並べる街です。

座るだけで20,000円というお店もざら。

もちろん、そんなお店に自腹で呑みに来られる

お客さんなんかお医者さんか弁護士さんくらい。

大抵は交際費でのみに来る社用族のお客様ばかり。

ウチのお店も某一流電器メーカーさん他東証1部上場企業の御用達です。


さて、ある日のことです。

外は雨。

新地の街は駅からしばらく外を歩かなければならないので

雨が降ると途端に景気が悪くなります。

八千草薫にちょっと似たウチの美人ママも

「今日はボウズ(売り上げがない)ね〜・・・。」

とボックス席に深々と腰掛け、ため息をついていました。

「まあ、こんな日もありますよ・・・あ!」

その時、私は気が付いたのです。

「ママ、盛り塩忘れてる。」

水商売のお店では入り口に盛り塩をするのが習わしです。

しかし、最近の新地はビルの中に小さなお店が所狭しと並んでいるので、

盛り塩は邪魔になるせいかあまりしているお店はありません。

しかし、縁起を担ぐウチのママは小皿に中高に塩を盛り、ドアの両脇に置いています。

雨で気が抜けたせいでしょうか、その日に限ってその盛り塩を忘れていたようです。


「あ〜、うっかりしていたわ。うさちゃん、やっておいて。」

ボウズ確実に思えたその日、ママはすっかりやる気を無くしていたのか

いつもなら自分で必ずする盛り塩を私に任せました。

小皿に塩を盛って・・・あれ?

「ママ〜、塩が切れてる(^-^;」

「あっ!昨日、きゅうり揉みに使っちゃったんだったわ(^-^; 買ってきて〜!」


私は近くのお店まで塩を買いに行ってきました。

その間、5分くらいの物だったでしょうか、お店に戻ってくると

いきなり大音量で気持ちよく歌う下手くそなカラオケの音が耳に飛び込みました。

しかもTUBE!(おいおい・・・新地で歌う曲じゃないぞ)

どうやら私が塩を買いに行っている間にお客様が見えたようです。

お客様はウチの常連さんのAさん。

某1流電器メーカーの若き(と言っても40代)第2営業部長さんです。

Aさんが今年第4営業部部長になられたばかりの後輩のBさんを

初めてウチに連れてこられたのでした。


AさんとBさんはシャウトするような激しい曲ばかりを続けざまに何曲も入れ、

とうとう、声枯れして歌えなくなるまで歌い続けられました。

お酒の量も随分と多く、8分目まであったボトルが

終わり頃には底から3センチほどになっていました。

心配して、わざわざこちらが薄めに水割りを作る程でした。

二人でkinkikids(!)を歌い終えたAさんとBさんが

同時にどさりとソファーに座りました。

「はぁ〜!しばらく休憩!今日はこれから愚痴を聞いて貰うぞ〜!!!」

いつも明るいAさんが冗談めかして私に微笑みました。

でも、いつもとちょっと違う。何だか目がとても疲れている・・・。

私にはそんな風に思えました。

「本部長と支店長にこってり油を絞られてねぇ〜・・・ふぅ〜。」

Bさんがおしぼりで額を拭き拭き言いました。

「そうなんだよ。こいつはまだ第4営業部長になって半年にもならないだろ。

なのにあんなに言うことはないじゃないかと思ってねぇ。

あんなヤツが本部長だからCさんは・・・。」

Aさんはそこで言葉を詰まらせました。

ママが静かな声で続けました。


「そう言えばCさんが亡くなられたのもこんな雨の夜でしたね・・・。」


某1流電器メーカーの第4営業部長だったCさんはとても仕事熱心な人だったそうです。

お酒も好きな方で良くウチのお店にも来られていたようでした。

しかし、亡くなるしばらく前から随分と

お酒を過ごされるようになりママも心配していたようです。

仕事が忙しく、体調も悪いのに病院に行く暇もない。

そのストレスをお酒で紛らわすという悪循環の日々を繰り返していたそうです。

亡くなられるその日、Cさんは本部長と同行で得意先を回っていました。

Cさんは前の日から頭痛がひどく、医者に行かせて欲しいと訴えていたのですが、

本部長が大事な取引先との打ち合わせを優先させたのだそうです。

Cさんは得意先でろれつが回らなくなり、怒った本部長は喫茶店でCさんに説教をし、

そのままCさんを置いて他の取引先に行ったそうです。

Cさんはその後、帰宅してお風呂に入っている最中に脳溢血で亡くなられたのでした。

その晩は雨。

それからCさんの氏を悼むかのように雨はお葬式の日まで続いたそうです。


「あの時、俺が無理にでもCを病院に引きずっていけば良かったんだよ・・・。」

Aさんは悔やんでも悔やみきれない口調でつぶやきました。

「部長になって1年と8ヶ月でしたっけ・・・。」

Bさんがぼそりとつぶやきました。

「第4営業部長は2年持たないんですよね。

Cさんみたいに病気でなくなったり、自殺したり、辞めたり・・・。

俺、女の子に言われちゃいましたよ。

『Bさんは2年以上いてくださいね〜。』って(^-^;」

( ̄□ ̄;)!!

こ、こんなのどうフォローすればいいんだぁぁぁ(T-T)

新人ホステスうさぎに訪れた最大の危機!


「だ、だいじょーぶです!!(根拠無し)


何かあったらまたうさぎに会いに来てね〜(はーと)

さぁ!歌いましょー♪デュエットしましょ〜♪Bさんっっ♪♪」

「そーだね〜♪うさぎちゃんに会ったら元気になりそう(はーと)

よしっっ歌うぞ〜!」

AさんとBさんは私とママを交えて最後に

気持ちよく「銀座の恋の物語」を歌い、ご機嫌で帰られました。

うぅぅ・・・無事に切り抜けられたぁ(T-T)


ママがお見送りにでている間に私は片付けを始めました。

そして、その時にまだ盛り塩をしていなかったことに気付きました。

「あ、いかんいかん。盛り塩・・・。」

ドアの両脇に盛り塩を置きながら私は重大なことに気が付きました。

以前、ラジオ局であっち系番組を作っているときに

怖い話の実話集を読みあさっていたのですが、その中の短編エピソードに


『ウチの会社の第4営業部長は任期を2年務められません。

みんな、2年以内に自殺するか過労死するかします。

呪われているのでしょうか(某電気メ−カーOL)』

と言う投稿があったことを!


盛り塩を忘れた雨の日・・・。

その日に初めてくだんの『第4営業部長』さんが見えたこと。

これは偶然なのでしょうか?

私はBさんが無事に『第4営業部長』の任期を勤め上げて

昇進して下さることを祈らずにはいられませんでした。


長々とお付き合いありがとうございましたm(_ _)m







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