あっちの世界ゾ〜ン・第八十夜「サープラスショップにて」

S本さん談


11年前の夏、

スキューバダイビングのライセンスを取りに沖縄に行ったときのことです。

教習日程も3日目。

その日の昼間の学科・実技講習も終わり、

私は食事をしてから夜の国際通りを散策しておりました。


沖縄は米軍基地が多いこともあり、国際通りには

サープラスショップ(軍隊の放出品を扱う店)が軒を連ねています。

買う買わないは別にしてその手のグッズが好きな私は、本土ではあまりお目に

かかれない迫撃砲の弾とか飛行機の増加燃料タンクなんかをぺちぺち叩きながら、

何軒かウインドウショッピング(?)をして歩いておりました。

私は時間をもてあましていたもので、

特に品揃えが豊富な3軒目のお店で、暇そうにしている店員と、

「こんなのどんなとこから仕入れるの?」なんて談笑をはじめました。


その時既に11時近かったので

「結構、夜遅くまで開けているんだね」と話題を向けた時です。

店員が、ちょっと困ったような顔になって

「いや・・・、ほんとは早く帰りたいんですよ」と答えてきました。

「兵隊とか沢山歩いてるから?」と聞くと

店員は「お化け出るんですよ」と言い出しました。

「・・え?」私はこの時、この唐突な話の流れが飲み込めませんでした。

店員は繰り返します「お化け出るんです」

私は聞き返しました「どこに?」

店員はレジのところで立ちながら、下を指差し「ここの店・・・」


つまり彼は、いま私がいるこの場所に「お化けが出る」と言っているわけです。

彼の話は続きます。

「時々見るんですよ。夜、店を閉めて出るまでの時間とか、

一人で店番している時とか。前にい、(奥を指差し)そこの古着吊るしてある

棚あるじゃないですか。そこの奥に黒人の兵隊が立ってたりしたんですよ。

あれっ?と思って見るともう居ないんですよね。」

こんな所で幽霊話を聞くとは思わなかったので、あっけに取られて

聞いていましたが、彼の話では店の奥に白人も出るそうです。

どの幽霊も風貌は米軍の兵隊で、体つきはがっしりしているそうです。

彼によると、米軍の放出品の古着(軍服)は店に来た時点では保存状態も

まちまちで、全て補修やクリーニングをして商品となるそうなのですが、

この中にかなりの確率で「血痕」が付いたものがあるそうです。

彼が見た一番激しいものは面積の2/3以上が血で染まった短パンで、

漂白するのにずいぶん時間が掛ったと言っていました。


ここまで読んで御解りですか?それをみんな店頭で売ってるんですよ。

どこの店でも事情は大体同じだそうです。

米軍では訓練中に大怪我をしたり死亡する兵隊も少なからずいるはずです。

面積の2/3が血染めの短パンの元の持ち主は、今どうしているのでしょう?

もしかしたら彼の見た黒人がその本人かもしれません。

店員もそれを否定しませんでした。

その黒人を見たのは件の短パンの入荷直後だったそうです。


話を聞き終わって私がその店を出る時、ほかにお客は一人もおらず、

彼はレジのところでちょっと寂しげな顔をして見送ってくれました。


先日購入した「新耳袋4巻」の58話に、これとシチュエーションがそっくりな

話が載っていて、あの店員が言っていた通りだなぁと思い出した次第です。


ではまた。


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「軍服の思い出」 猪ハンターさん談


S本様のお話を読んで私も昔のことを思い出しました。

現在浅草のROXというデパートのあるあたり一帯はその昔でっかいテントがあり、

その中でぼろ市というかまあ得体の知れないマーケットが常設されており、

うさんくさい骨董屋やインド雑貨の店に混じって古着屋があったのですが、

日露戦争中の軍服(映画の「203高地」に出てくるようなやつ)が

ずらりと吊してありました。百着以上はあったと思います。

状態のいい物があったらと思い、いくつか手取ってみましたがどれも裏地には

ドス黒い血の跡が・・・しかもほとんど全ての軍服は胸の当たりに

穴があいておりました(致命傷)。

一緒にいた友人達と思わず悲鳴を上げてしまいましたが、

こういう遺品を古着屋に売りに出さねばならなくなった

ご遺族の胸中はいかばかりであっただろうかと思いました。






やじるし指
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