あっちの世界ゾ〜ン第百夜「山の牧場 北海道篇」

竈猫さん談




これは今を遡る事14年前、

私、竈猫がリアル厨房2年生の時に遭遇したちょっと不可解な出来事の記録である。


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『起』


当時の私には、高校受験に備えて家庭教師の先生が週に二日ほど家に来てくださっていた。

これがロングヘアー黒髪色白眼鏡っ子でおまけに病弱とかだったら

おそらくリア厨の私はケダモノと化しフランス書院の小説を地で行くようなことをしたかも知れないが

(なんせリア厨牡である)世の中そんなうまい具合にはいかないわけで、当然男性であった。


ある日、私の趣味趣向を半年の間に大体把握していた先生より一つの提案がなされた。

この問題が解けたら云々というよくある話である。

ただ普通と違っていたのは、その『云々』の部分だった。

これがまぁ常人なら「遊びに行く」とか「小遣いもらえる」とかそういう

ご褒美が並ぶところだろうが、前述した通り私の趣味は当時からかなり変わっていた。

軍ヲタエロ本ヲタ(森○塔先生の大ファン)そして

『怪談ヲタ』

違法猥褻ビデヲ収集はまだ行ってはいなかったが自分自身の事ながら書いててまったくしょうが無い。


閑話休題


先生のぶら下げた人参はその怪談ヲタという変態人格の琴糸に激しく働きかけてくるものがあった。

幽霊屋敷、廃墟 これらは私の大好物である。

当然のようにその設問を平らげ、現金なやつだ!という先生の皮肉にもめげず、

私と先生は、先生の愛車でその目的の場所へ出発したのだった。 


目的地は幽霊屋敷と、言われている廃墟であった。


すでに日も落ちた闇の中、北海道某市の高速道路に繋がる道路、

その入り口を超えたわき道の奥にその廃墟は佇んでいた。

ヘッドライトの先に浮かんだのは一戸建ての母屋と家畜舎だった。

暗闇の中ヘッドライトに浮かぶ二つの廃墟。

夜という言もあり、また基本的に大変な臆病者である私は

車から降りる気も度胸も無く、その日はその場を後にした。


翌日

やはり怪談、オカルト好きな友人に昨晩の話をすると、

皆私のヘタレ振りを一頻り糾弾した挙句、結論はそこに行き着いた。


『俺 た ち も 連 れ て 行 け』


こうして私とお馬鹿な友人たちは、あの場所に行くこととなるのである。


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『承』


私がはじめてあの幽霊屋敷(以後牧場と呼称)を訪れた週の土曜日の

放課後我々馬鹿一同は私の家を橋頭堡とし、牧場へ出撃することとなった。

ちなみに参加者は私(竈猫)とその友人の甲男(仮名) 乙彦(仮名) 丙太郎(仮名)の四人である。

自転車を転がすこと一時間ちょっとで、目的の場所に到着していた。

明るいうちならそれほど気味も悪くないだろう。と、考えていた私の目論見は見事に外れていた。

家でうだうだやっているうちに何かと時間を浪費してしまい、

現場についたころにはすでに夕焼けの一歩手前、黄昏時の時間となっていた。

誰そ彼 

逢魔が時

まさにそんな風情だったと思う。

彼の名作『悪魔の棲む家』のパッケージ(だったよな)を、想像していただきたい。

なまじ暗いより、よっぽど怖いのである。

内心びびりまくりながらも、今回は多人数ということもあり、

せっかく来たのだから!と、付近を探索することとなった。

とりあえず二階建ての一軒家の廃墟(以後母屋と呼称)に侵入することにした。

外見はしっかりとしてはいたが、窓ガラスは枠ごと無くなっており、なかなか良い具合に荒れていた。

内部に侵入を果たした私たちの目にまず入ったのは、古い大きな冷蔵庫だった。

奥に進むにつれ、やはりこの家でなにかがあったと

思わせるような痕跡がそこかしこに散らばって壊れていた。

放置されて残されている家財道具。

台所に洗ってそのまま残されていったとしか思えない食器、

風呂場に残された衣類の残骸、子供部屋と思われる部屋に散乱するノートや鞄の残骸。

よく聞く幽霊屋敷の風情そのままなのだった。

生活臭はそのままに朽ちつづけていた家。

私も友人たちも二階には行けなかった。 


なぜって?


そりゃ怖いから!

すでに空は毒々しい橙色に染まり、この牧場を覆う林に

最後の陽光も遮られ、一際暗さを増しつつあったからだった。

そろそろ帰ろうか・・・

誰からとも無くそんな声が出たとき、甲男が言った。


「地下室があるはずなんだが、入り口が無い」


正直一刻も早くこの場から離れたかったのは山々だが、そういわれてみると、興味が湧く。

甲男の話では、外から見たところ、基礎部分に

日取り窓が付いていたので地下か半地下の部屋があるはずだ。と、の事。

外に回ると確かに窓は有った。

甲男はすでにその入り口の場所の目星も付いているようだった。

その場所は二回に上がる階段の脇だった。階段の裏側に入れる小さな扉があった。

施錠されていたが、錠前が付いている金具が腐っていて容易にドアは開かれた。

一見するとそこはただの物置かなにかにしか見えなかった。

そして奇妙なことに気が付いた。

その家は、玄関先と風呂場以外はすべて板床か畳であるのに、

その空間の床だけは妙に真新しいセメントが塗られていたのである。

微かながら空気の流れも感じる。

甲男はその床を蹴ってみた。

床は少し撓んだように見えた。

「なにか板か何かを張って上からセメント塗って誤魔化したみたいだな」

そこが地下室の入り口なのだと全員が納得した。

しかしながら、そのときの私たちにはその床板を叩き割るような装備も時間もなかった。

夕闇は容赦なく迫り、私はすでにその日のぶんの度胸を射耗し尽くしていた。

友人たちも同様だったのだろう。

私たちは牧場から引き上げることにし、家路についた。


翌週月曜日

学校で件の牧場の話を甲男・乙彦・丙太郎と話していると

横で聞いていたA輔 B次も行きたいと言い出す始末。

結果2人を追加し、今度は早朝から、装備を整えて再侵攻するということで話がまとまってしまった。

決行日は日曜日。

人数が6人でまるで某RPGのパーティーみたいだな!などと盛り上がっていた。


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『転』


そしてその朝は来た。

北海道の11月である。朝はかなり寒い。おまけにその日は快晴。放射冷却で冷えまくっていた。

にもかかわらず、朝8時にはやはり橋頭堡である家を出発。牧場には10時過ぎに到着していた。

朝日が眩しい時間帯にもかかわらず、あの場所はなんとなく薄暗く感じられた。

牧場に到着後、私は前回手付かずだった家畜舎に向かった。

家畜舎の壁の上のほうに日取り窓があった。

自転車の荷台に上がればぎりぎり私の背でも覗ける高さだったので、

私は壁際に自転車を止め、荷台に上り内部を覗いた。

そこは私の想像とかけ離れた空間が存在した。

中にはまるでちいさな理科室のような部屋があった。

床にはガラスの破片が相当数散乱し、おそらくその中身だったで有ろう正体不明の物体が散乱していた。

私は自転車をずらし、その壁の向こう側の空間も見てみることにした。

そちらもやはり不可思議な空間が広がっていた。

何かはわからないが白い粉が大量につまっているのである。

私は友人の呼ぶ声に答え、その場を後にした。


母屋の前では、前回破壊できなかった地下室への入り口の板を引っぺがす

道具を持参した甲男と乙彦、なんに使うかわからない双眼鏡を手にした丙太郎、

金属バットと木刀を持参したA輔、B次のコンビが待っていた。

ここで手分けして付近を探索することが決り、私と丙太郎が二階へ、

甲男と乙彦は床板破壊、A輔B次凶器コンビは牧草地と決った。


早速私と丙太郎は二階に向かった。

二階には部屋は一つしかなかった。

丙太郎が暗い室内を懐中電灯で照らした。

その光の中に、なにか見覚えのある物体が見えた。

円筒形の蓋のついた白い陶器のような入れ物・・・・


「骨壷じゃないのか?あれ」


丙太郎は気持ちが悪そうに言った

おそらくそうだろう。と、私も彼の意見に同意した。

絶対に中身は見たくないとの私の主張に彼も同意してくれたので、そのまま一階に降りることにした。

階段の裏側からは派手な破砕音が響いていた。

甲男と乙彦は何か鬱積したものでもあるのか、まるで親の敵のように床破壊に専念していた。

そんな2人を尻目に私と丙太郎は凶器コンビはどうなったのか?とおもい、母屋を出て放牧地に向かった。

すると、凶器コンビがなにか手招きをしているのが見えたので私たちは凶器コンビと合流することにした。

凶器コンビの話は要約するとこのようなものだった


正面の林の向うに小川が流れている。

その川との間のススキ原があるが、そこに奇妙な獣道が出来ている、口で説明は難しいので見に来い。

私と丙太郎は凶器コンビと共にその奇妙な獣道にむかった。

たしかに奇妙な獣道だった。ふつう獣道というと、下草が踏み固められ地面が見えるものである。

しかし、凶器コンビがいうそれは明らかに異質だった。

草が、逆Uの字型に伸び、まるでアーチを反対にしたような形で道が出来上がっていたのである。

私は携行していたガスガンに弾丸を込め、ガスボンベを接続し、

試射を行い銃の作動が万全かをチェックした。

当然凶器コンビも準備万端。その獣道に侵入することにした。

母屋にいる二人にその事を伝えにいった丙太郎がこちらに戻ってくる姿が見えた。

するとなぜか丙太郎は立ち止まり、双眼鏡を構え始めた。

私と凶器コンビはなにやってんだあいつ?と言う感じで丙太郎の様子を見ていたが、

突然丙太郎が尻餅をついて呻き声を上げ、こっちを指差してあたふたやりはじめた。

私と凶器コンビはなんだありゃ? と、思いつつ丙太郎が指差す方向に目を向けた。

丙太郎の指差す先、その奇妙な獣道の入り口のところに『あれ』は居た。

冬枯れのススキの茶色い葉陰の影からこちらを伺うように見ている物体。


灰色の肌、黒目だけの大きな目がこっちを見ていた。


一瞬で恐慌状態に陥った私はこともあろうに『それ』に向かって銃口をむけていた。

セレクターをフルオートにすると(なぜかそういう動作は落ち着いていた)引き金を引いていた。

振り向くと接近戦担当のはずの凶器コンビはすでに逃走、

尻餅をついていた丙太郎よりも向こうに行っていた。

私も一弾倉撃24発撃ち尽して、途中腰の抜けた丙太郎を引っつかみ、母屋に向かって逃げ出した。

母屋では先に逃げてきていた凶器コンビがぜーぜー言ってうずくまっていた。とっとと逃げよう!

という彼らの意見には賛同なので床破壊中の2人を呼びに行くことにした。

(その前に私を見捨てたこいつらにBB弾のシャワーをプレゼントしておいた)

だが、結局怖いんで四人で階段まで移動。このへんがヘタレである。


階段のところに行くと、早速甲男と乙彦に先ほどあった事を話し、

とっととこの場から立ち去ろうと言うと、甲男、乙彦の様子もおかしい。

見ると、入り口を塞いでいた板は取り払われていた。

そしてその穴を覗いてさらに驚くこととなった。

穴がとてつもなく深いのである。しかも階段なんて物ではない。

まるで土管を斜めに挿したような、そんな穴がぽっかりあいていた。

甲男はここは普通じゃない。マジ引き上げよう。と、心なしか青ざめた顔で言った。

私たち6人はこうしてその『牧場』から逃げ出した。


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『結』


結論から申し上げて、この話に決着はつかないと思う。

あれから14年の歳月が流れ、あの『牧場』も今は無い。

今となっては、あれがなんだったのか知る術は無い。


最後に、あの『牧場』を知っていた第三者のお話をいくつか記しておく。


私の父の話

高速道路建設中、ちょうどその『牧場』の廃墟があるあたりに飯場が置かれていた。

当時父は石油会社に勤めており、その現場の重機に燃料を運んでいた。

昼休み、現場の作業員などが木陰などで昼寝をする姿を良く見たそうだが、

作業員の人たちが決して近づかない場所があった。

それがあの『牧場』だったそうである。

父は木陰だったこともあり、よくそこにタンクローリーを止め、昼寝をしていたらしい。

そんなある日、現場監督さんから

「よくあそこで平気で寝られるな」

と、言われ、何でどのようなことを言うのかと聞き返すと現場監督さんは

「あの家の上にはどんなに晴れてても絶対真上に雲が浮いている。

みんな気味悪がって近づかないのに

あんたは堂々と昼寝までしていい度胸だ!と作業員の間で話題になっていた」

と。

父はそれ以後燃料を配達に行くとき注意してその家を見たが、たしかに雲が浮いていたとの事。

以後そこで昼寝することも無かったそうだ。


元不動産屋の話(叔父の友人)

あの家でおきた事件は、表向き一家心中と行くことで処理されてはいるが、

実は父親が錯乱し家族を殺害した後、首を括ったというのが本当らしい。

また、あの物件を扱った不動産屋がある日を境に社員の姿が見えなくなった。

詳しくはしらないが、社長や社員のほとんどが死んだらしい。

ま、偶然かもしれないけど。

(※ この不動産屋の社員や社長が無くなったのは事実)

(※ 一家心中については私が14年前図書館で調べた際は確かに

記事が有ったと記憶しているが、此間再度検索した結果どういうわけか見つからなかった)


地元での噂

あの辺(牧場のあたり)で鉄砲もった自衛隊の人見たことがある。なにやってたんだろ?

(閉鎖された北海道のオカルトサイトの書きこみ)



後日談


私と丙太郎

「あの時銃で撃っただろ?あの弾みんなあのへんなのに当たる前にまるでガラスか

なにかに当たるみたいに弾かれてた。でペイント弾のインクがガラスに

当たった見たいに空中で下に垂れてってるの見たんだよ。俺双眼鏡で」


「窓ってさみんな壊されてて雨戸なんかもされてなかったよな?

じゃなんで俺たち二回に言ったとき懐中電灯なんか点けたんだろう?暗かったよな?」


私と甲男


(私がそういえば何で家畜舎の中見るのにわざわざ自転車の荷台なんかに

上がってわざわざ日取り窓から中覗いてたんだろう?という問いに)


「お前、忘れたのか? あの小屋、出入り口らしい所どこにもなかったじゃん」



以上でこの『山の牧場 北海道篇』の記述を終える事とします。

乱文乱筆ご容赦ください。





2002年 吉日

竈猫 筆



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