こっちの世界ゾ〜ン第十七夜「・・・血」

命知らず(しつちょー)さん談


こんにちは。命知らずです。

これはつい先日あった話しです。間抜けなことに実話です。そして、恐い。

幸か不幸か。何も考えずに歩いていれば、自然とぶつかるものなのですね、こっちの世界というものは。


私の実家は、すごい田舎。果てしなく海と畑が広がり、その間をJRが横切っています。

もちろん住居もあります。道路沿いにあっちにごそり、こっちにごそり。

集団住宅も旅館もなく、全て庭付き一戸建て。

かたまって存在しているのに、ほんの少し歩いただけで周りは畑だけになってしまいます。

そして田舎のお約束。夜になると暴走族が出没し、近所に排気ガスと騒音を振りまいて行ってくれます。

そういえば、このあいだ旗を立てた二人乗りの単車に、歩いて追い付きそうになってしまったなあ。

吹かすのもいいですが、どうせなら走り屋になってもらいたい。

追い付いたらどうしようかと本気で心配しましたよ。

時々近所の小学校で乱闘をしているらしいですし(なんで小学校?)。

ま、とにかく田舎なんです。

そんなわけで、コンビニエンスストアも家の周りにはまったくなく。

行こうとしたら、二キロほど歩かなくてはなりません。それでもあるだけ幸せなのですが。

その日、私は夜食でも買いにいこうかと、家を出ました。

愛犬が散歩に連れて行けと脅すので、仕方なしに鎖を引っ張りてくてくてく。

のんびりと歩いていき、コンビニにようやく到着しました。

犬を外につなぎ、買い物篭を下げて店内をうろつき、品物を選んでレジへ。

代金を払おうと手元を見て、はっとしました。

………血がついている。

両手の人差し指の甲に、一筋ずつ。

右手にははっきりと。左手には薄く。まるで何かの印のように………

怪我したのかと思いましたが、どこにもそれらしきものはありません。

ひょっとしたら犬がどこか怪我していたのだろうか。それが鎖について私の手に………

うちの犬は今年で一三才。立派な老犬です。少しの怪我が命取りになるかもしれません。

大慌てで私は会計を済ませてドアの方に向かいました。

びびりました。

マジで、一瞬動きがとまりました。

ドアのガラスの向こう。暗がりの中に、女性の生首が、ぼうっ と浮かんでいるのです。

あっちの世界か!?

まさかこんな突然に、何の脈絡もなく!?

立ちすくむ私に向かって青白い顔は段々近づいてきて、ドアを押しました・・・


なんだか思ったよりも長くなっています。そんな訳で…以下続く。


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書き終わってみたら、前編がちょっと短い・・・

もうちょっと切る場所を考えればよかったかな?とにかく後編です。


えーとどこまでだったか・・・そうそう、生首がドアを開けたところですね。

ん、なんでドア?

よく見るとそれは黒い服を着て、化粧を顔に塗りたくったおばはんでした。

よっぽど私が珍妙な顔をしていたのか、

おばさんは胡散臭げに私の顔を覗きながら、入り口ですれ違いました。

人騒がせな。

もう少し化粧の厚みを落とせ。クイーン・エリザベスかい。

「こっち」の掲示板に書き込むぞ、こんちくしょー。

でも書き込んだら、女性のほとんどを敵にまわすんだろうなあ。化粧は乙女心の象徴だし………

などと考え、少しばかり鼓動の早くなった胸をなで下ろし、私は年老いた愛犬のもとに向かいました。

犬はどこも怪我などしていません。

ではこの血は何なのか。

やっぱり「あっち」なのか?しかし、呪われるような心当たりはまったくないぞ。

首をひねりながら家の門をくぐり、犬をつないで洗面所に向かいました。

もう真夜中なので、両親は寝ています。

散歩の間は愛犬が一緒でしたが、家の中に入ると逆に孤独が感じられました。

さらに、鏡にまつわる「あっち」の話はよく耳にしており、洗面所には鏡があります。

真夜中に一人で血の着いた両手を洗う。

ホラー映画のワンシーンのようで、それだけに何かが起こりそう。

こんな状況で鏡を覗き込んだら、余計なものが見えてしまいそうです。

なるべく鏡を見ずに手を洗おう。

しかしそう考えれば考えるほど、好奇心が「チャンスチャンスぅ〜」と邪魔をするのです。

ついに私はちらっ、と鏡を見てしまいました。

そしてあることを発見し、殴られたような衝撃を受けました。

「ああっ!」

思わず声が出ました。

続けて稲妻のごとくひらめく、芸術のような論理的思考。

両手についた二筋の血。すれ違った化粧の濃いおばはん。

文中には書いていないが、ぐずっていた鼻。

これらの鍵から導き出される、真実の扉はただ一つ!


謎はすべて解けた!


犯人はおまえだぁっ!

私は鏡を指差しました。

「鼻血が出てる!」

そう、私の右の鼻の穴から、タリッ と一筋の血が流れ出ていたのです。

しかもぬぐったような跡まであります。

間違いない、血の正体はこれか!

私は鼻血を流しながら散歩をし、会計を済ませ、おばはんとすれ違っていたのです。

ああ、なんてこった。

気がつけよなこんちくしょー。

店員さんもおばはんも、さぞかし反応に迷っていたんだろうなあ。

血をぬぐい、顔を洗いましたが、私の心は晴れませんでした。

近所のうわさで、いったい私のことがどう話されているのか………


田舎だけに心配です。





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