こっちの世界ゾ〜ン第十弐夜「妨熱板」

信長波平さん談


さて、知り合いが務める某科学工業(創業100年以上)、

そこには妨熱剤の研究をする部署がありました。

つまりあれです、消防士の服とか家の壁とか作るときに使う薬です。


その部署の研究主任を務める林さんは、

透明な耐熱版(燃えないガラスみたいなもの)を研究していました。

しかし、何回実験しても成功しません!

燃えはしないのですが、溶けてしまうのです。

溶けてしまっては何の役にも立ちません。

林さんは何年も研究し続けました。


そのうち林さんは病気になり入院してしまいました....。

あまり長く無いと聞いた部下達は出来損ないの耐熱版をもって病院に行きました。


『主任!ついに完成しました〜!』


嘘も方便です。

やさしい部下達は主任を元気ずけようとしたのです。

....それがこっちの世界ゾ〜ンの入り口と知らずに..........


『そうか.....出来たか...』

林さんは涙を浮べて喜びました。

そして、

『俺が..死んだら...棺桶..に..入れてくれ...』、

『わかりました....。』

林さんが息を引き取ったのはそれからすぐのことでした。


部下達は言われた通り出来損ないの耐熱版を、棺桶に眠る林さんのまくら元に置ました。

林さんの死に顔は安らかというより笑顔で、たとえ嘘でも良い事をしたのだと部下達は思いました。

葬儀は順調に進み、火葬場に向かいました。

親戚や部下達が見守る中、棺は投棺されました。

しばらくして、焼き場の職員が終了した旨を伝えました。


『それではお骨を出します。』


遺族も部下も声を出してなきました....。

そして出てきたお骨を見て、泣き声が止りました。

そして

『ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜』

とか

『ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜』

という悲鳴に変わりました。


出来損ないの耐熱版は溶けて林さんの顔にこびり着いてしまったのです。

それでも、律儀な耐熱版君は、燃えない燃やさないという本分だけをまっとうしてしまったのです。

林さんの遺骨は首から上だけ笑顔のまま残ってしまったのです。


『どうやって燃やすんじゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜!』


遺族と喧嘩になったとさっ!





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