こっちの世界ゾ〜ン第三十四夜「おねがい........2」

Ether von Seinberg こっち大教授さん


中央線は、速度が速いせいか、飛び込み自殺に重宝しています。

あれは私が大学に入りたての頃でした。

その日、私は入学してから速攻でナンパした同級の女を連れて

小田急線から中央線に乗り換えようとしました。

地下の通路からホームに出たとたん、それは起こったのでした。

日曜日の午前9時、どんな事情があったか知りませんが

どうしてこんな時間に飛び込みなんかするのでしょう?

あわただしい怒号と構内放送の飛び交う中、私たちはホームを追われ、

向かい側のホームで復旧するのを待たざるを得なくなりました。

こともあろうにこの女とは今日が初めてのデートの日だったのです。

しかも彼女は自殺には滅法うるさい、カトリックの信者ときています。

この頃には既に、何となく険悪な空気が流れていました。

たのむって!何もこんな日に死ななくたっていいじゃないかぁ!!

総武線緩行に乗っても上野方面に行けるということすら思い浮かばず、

頭の中には

「俺の東京デビューが・・・デビューが・・・ビューが・・・ューが・・・」

という文字が,ぐるぐる回っていました。

そうこうしているうちに、これまでホームの上でわらわらたかっていた駅員たちが

一斉に軌道上におり、飛び散った肉片の確認を始めました。

みんなその手に白いシーツのようなものを持っています。

うまく飛び込んだのか、かなり広範囲に飛び散っているようで、

線路のあちこちに白い布が置かれていきます。

すると、みるみるうちにその中心には赤い日の丸が・・・。

もう私たちの前途を打ち砕くのには十分でした。

結局その日のデートはどこに行っても、何をしても、

あの日の丸が目の前に割り込んできて・・・。


そしてトドメは,お約束のあの手の休憩所に入ってから襲ってきました。


もうこれ以上の説明は必要ないでしょう。

その女とは次の日に別れました。

私は今でも呪われたと思っています。





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