こっちの世界ゾーン第四夜「都市伝説製造機」

いたこ28号談


事件は麗らかな春の日差し刺す気怠い午後に起こった。

地獄の徹夜が続いた仕事も一段落した。

代休をとった私は、六畳一間のボロアパートの窓から射す

太陽の光を浴びながら心地よい睡魔に身体をゆだねていた。

「・・・幸せだ。」

なんでもない日常に「幸せ」を感じるのは小市民の悲しい性なのだろうか。

ここに可愛い彼女の膝枕があればなぁ。

可愛くなくてもいい、女の太股があればなぁ。

あ〜〜、女子高生の太股が欲しい。太股、太股、太股、ふくろはぎ。

妄想と白日夢に身をゆだね興奮する私を

現実の世界に突き落としてくれる者たちが現れた。

それは叔母ハン。

午後の暇な時間をもてあます彼女らは、

アパートの裏にある駐車場に集まり囲炉端会議をひらくのである。

意味不明に吠える小型犬の様な五月蠅い叔母ハン達の声が響いてきた。

うざい。ウザすぎる。

しかし、好奇心が私の怒りを直ぐに抑えてくれた。

噂話にこっそりと聞き耳を立てる快感。

川崎市○○区○○14丁目の叔母ハン達はどんな噂話しているのだろうか?


残念な事にどーでもいい味気ないブログの挨拶レスの様な会話。

本人以外笑えないギャグ等、ちょっと期待はずれな。

それにしても叔母ハン達のパワーは凄いな。

脈絡もない会話達が強引に繋がっていくのだから。

連想ゲームのように成り立っていく驚異。

ある意味これは会話のマジックショーだよ。

素晴らしい自己中心的会話の数々が披露されていく。

そろそろ叔母ハン達の会話に飽きてきた私の脳味噌に、こんな話題が飛び込んできた。


A「さいきん野良犬とか野良猫を見かけなくなった理由を知っている?」


叔母ハンAの質問に答えられる者はいなかった。

この叔母ハンAは、私と同じアパートの隣に住んでいる。


B「私も不思議に思っていたの。野良犬とか野良猫とかいなくなったよね。」

A「どうして居なくなったか理由を知りたくない?」


私もその理由には興味がわいた。

みんなの注目を浴びている叔母ハンAは、自信たっぷりにもったいぶりながら語った。


A「実はね。・・・・中国人が食べているの。」


叔母ハン達は興奮の歓声をあげた。私は爆笑した。

おい、おい、あんたそりゃ差別でっせ。

なんで中国人が、この当りにいる野良犬や野良猫を食べ尽くすんだよ。(笑い


B「もしかしたら、あの中国人も食べているの?」

A「そうよ。きっとあの中国人も。」


驚愕の事実を知った叔母ハン達は、近頃外人達がこの街にも増えているから

治安が悪くなっているという、独断と偏見に満ちた会話を長々と始めるのだった。

私はヘッドホンから流れる音楽で会話をシャッタアウトし再び眠りについた。

しかしその後、私はとんでもない事実を知るのである。

「あの中国人」の秘密を知って、この会話に隠された恐ろしい真実に驚愕するのである。


それから数週間後、私は会社に向かうために部屋の扉を開けた。

そこに隣の叔母ハンAが私に向かって歩いてきた。

私は明るく挨拶をした。

私「おはようございます。」

叔母ハンAは、何故か驚いた顔をしている。

そして、私にこう告げた。

A「中国人じゃなかったの?・・・日本人なのね。たまに聞こえてくる電話の声が

早口で何を言っているかわからないのから。・・・そうなんだ。日本人なんだ。」

私は地元に電話をする時は関西弁で喋る。それも早口で喋る。

おまけにハスキーボイスである。

早口で聞き取りにくい関西弁は中国語に聞こえる・・・ような気もしないこともない。

しかし、この叔母ハンは聞き耳を立てていたのかよ。

そしてやけに驚いている叔母ハンを見ていて全ての謎がとけた。

あの会話に出ていた、あの噂の中国人は私だ。

私が犬猫を喰っている事になっていたのだ。

なんだか隣人達の私を見る目が変だと思ったよ。

つうか、こないだ警察が部屋に職務質問にきたよ。通報したのはお前か!!


こうしてまたひとつ、叔母ハン達の噂話よって「新たな都市伝説」が作られていくのである。





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