こっちの世界ゾ〜ン第五十壱夜「研究室の鍵」

奥村紀子(真名)さん


研究室に入る前のことでした。

学生実験で、モンシロチョウを育てていました。

このモンシロチョウ、毎日餌を代えてあげないと、死んでしまうという代物(みんなそうだって)。

そのため、土曜日は自宅生の私が、日曜日は下宿生が餌をやることいなったのです。

ちなみに、下宿生は二人いるのに、一人は怠け者でした。

なのに、自宅生の私が車で学校に来るなんて、理不尽すぎるぞー!

ともかく、毎週がんばって学校に来て、モンシロチョウに餌をやると帰っていくという、

ガソリンの無駄遣いをやらされてしまいました(単位をよこせー!)

そんなある日のことでした。

いつものように、研究室に入ってモンシロチョウに餌をあげている時でした。

誰かいるだろう、と思っていた私は、気にせず作業をしていました。

そんな時、ガチャ、という音がしました。

あんまし気にしていない私は作業を続けました。

飼育室のモンシロチョウに餌をやって、さあ、帰ろうか、と帰る準備をしました。

そして、出ていこうとドアを押しました。

「? 開かない?」

もう一度おします。

やっぱり開かないではないですか。

さっきの音を思いだしました。

あれは、外から鍵をしめた音なのです!

(うそだー!

じゃあ、私の存在を誰も気付いてくれなかったのかー!)

焦りました。

外に出ることはできましたが、中に人がいないので、待っていかなければいけません。

困ったぞ。

時計を見ると、もうすぐお昼。

午後から用事があるんだよー。

悪人になるしかありませんでした。

私は、ばっくれました。

鍵をあけたまま、しかし、鍵がしまっています、みたいにドアを締めて。

そうして、逃走しました。

ああ、私は悪人になってしまったー!


それから、半年後、何事もなく研究室に入ることになりました。

そして、鍵の在処を知りました。

教授の部屋のドアの上にあったのでした。

ちゃんちゃん




     戻る