こっちの世界ゾ〜ン第五十弐夜「オレ死んじゃうんだよ……」

楯野恒雪(渡し守)さん


深夜にかかってきたとっても恐い電話のお話。


私にはOさんという友人がいます。

強者です。

どんな人かは『新あっちの世界ゾーン』の第五十七夜と五十八夜を見て頂ければ解ります。

私は昼間寝て夜仕事をするという吸血鬼のような生活をしてますので、彼も私の家には

夜中でも平気で電話をかけてきます。

ある夜、午前2時を少し回った頃。私の家の電話が鳴りました。

私は受話器を取り「はい、楯野です」と言いました。

「楯野……」

Oさんの声です。

その声はいつもと違ってどこか疲れたような、絶望したような感じがしました。

「助けてくれよ。オレさあ、どうしても死んじゃうんだよ」


「はい???」

私の脳裏では、あっちの世界の扉が大きな音を立てて開いていきました。


Oさん「何回やってもさ、どうしても死んじゃうんだよ」

楯野 「はあ……」

Oさん「XXちゃん(名前は忘れた)がさ、落ちてきたダンプに潰されちゃうんだよ」


その当時、Oさんはいわくつきの幽霊アパートに住んでいました。

私の頭に何がよぎっていたかは説明するまでもないでしょう。


楯野 (そろそろ背筋に寒いものが走り始めている)

「な……あの、事情が今一つ飲み込めないんですけど……」

Oさん「そっかあ……楯野なら解ると思ったんだけどなぁ」

楯野 「あの〜……一体何が起こってるんです?」

Oさん「いま、トワイライトシンドロームやっててさあ……」


私はその場に突っ伏しそうになりました。

そういえば、この前遊びに行ったとき、そのゲームをクリアしたって話したっけか。

しかし……


楯野 「ちょ、ちょっと待って下さい。まさかと思いますけど、

今、この時間に、あの部屋で、プレイしてるんですか……一人で?」

Oさん「そうだけど?」 

楯野 「…………」



“人間の最大の長所にして最大の短所、それは慣れるということだ”

私はその格言の実例を目の当たりにしたような気がしました。




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