こっちの世界ゾ〜ン第二十五夜「うはうはバリ島」

命知らず(しつちょー)さん談


ひょっとして連続になるかな?

こっちの掲示板に書き込んでも何なんですが、「真あっちのゾーン」開店祝いです。


私の友人に鯉のエサを作る会社に勤めている男がいます。

名前はT。

空手二段で体格がよく、甘いマスクの男です。

入社二年目の夏、彼は会社の慰安旅行でバリ島に行けることになりました。

バリ島、それは男のロマン。

バリ島、そこはパラダイス。

T君はバリ島に向かう国際機の中で、早くも期待に、胸とその他を膨らませていました。

バリ島に降りたち、初日は移動でばたんきゅー。

二日目は観光その他でぐーすかぴー。

三日目の夜。

彼はついに上司とともに己の欲望を満たすため、動き出しました。

現地のタクシーを呼ぶと、上司は貫禄をもって運転手に告げました。

「オンナを抱けるところに行ってくれ」

彼らは、現地の言葉はそれしか勉強していませんでした。

運転手は頷き、タクシーは走り始めました。

二人は心ウキウキ、胸ワクワク。

局部は肥大してパンパンです。

それ関係の話をしては、二人車内でバカ笑い。

恥じ丸だしの、まさにエコノミックアニマル。

嫌われる日本人の見本そのもの。

穴があったら入りたい。

客観と主観は違えど、彼らの姿はまさにその一言につきました。

T君の心配事といえば、

・・・上司とオンナの指名がバッティングしたら、やっぱ譲らなきゃいかんだろうな・・・

ということだけだったのです。

二人は車内でしばらくの間、桃色の夢の世界に漂っていましたが・・・

ふと、T君は気が付きました。

車の向かう方向がおかしいのです。

彼は中心街(この表現が正しいとすれば)に向かっているものだとばかり思っていました。

しかし、車窓から見られる道は木々が目立ち、通りは少なく、暗くなっていきます。

上司も気がついたらしく、時節外をうかがっては不安そうな表情をのぞかせるようになりました。

一体どこに向かっているのか。

運転手に聞こうとしても、二人は言葉がわかりません。

はじめの頃は冗談やバカ話を続けて、不安を紛らわせようとしていた二人でしたが、

だんだんと口数は減っていき、車内は思いムードに包まれ始めました。

そうこうするうちに、車は山道のような道に入りこみました。

既に街灯など一つもなく、道は未舗装。

リアガラスからは街の明かりが遠くに見えていました。

シャレにならない。

もはや運転手に対する不信感は決定的なものになり、

T君の頭の中で物騒な単語が手を取り合い、マイムマイムを踊りだしました。

誘拐、強盗、臓器、殺人、埋葬、行方不明・・・

彼の息子も行方不明。

先程まで胸を張っていたものが、小さく震えて縮こまり、顔をだそうとしません。

上司も同じ思いらしく、青い顔をしています。

間違いであってくれ。

ただの「ぼったくりタクシー」であってくれ。

そう願っていると、目的地に着いたらしく車が止まりました。

うながされて車を降りると、そこにはタージマハールのような、宮殿のような建物が建っていました。


また入りきりませんでした。

すみませんが・・・


以下、後編に続く。


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それでは短いですが、後編です。


その宮殿の入り口には、映画に出てくるような、いかにも的な悪人顔の男が立っていました。

運転手はその男に近づいて何か伝えました。

そして車にもどると、二人を置いて走り去ってしまったのです。

残った上司とT君は、もう心臓は破裂寸前でした。

そして追い討ちをかけるように、悪人顔の男が合図をしました。

するとどこにいたのか、二人の背後で何人もの気配が入り乱れました。

軽く見積もっても十数人。

T君がいくら腕に自信があっても相手に出来る人数ではありません。

恐ろしさのあまり振り向くことができず、足が震えました。

物騒な二字熟語達はラップダンスを刻み、

何人もの見知った顔が走馬灯のように頭の中を横切っていきました。

同僚達、友人達、父、母、兄貴・・・

ごめん、みんな。もう日本に帰れない・・・

彼は本気で、死を覚悟しました。

「後ろをむけ」

悪人顔の男は、なまった日本語でそう命令しました。

T君はマシンガンを持った男達を想像して後ろに向き直りました。

そこに立っていたのは・・・

な、なんと!

十数人の女性の団体でした。

右から左。

少女から妙齢まで。

一列に並んで二人に微笑みかけているのです!

想像外の出来事にぽかんと立ち尽していると、

「好きなのを選べ」

また男が声をかけました。

恐怖に凝り固まっていた頭が、ようやく事情を飲みこみました。

はやとちり。

タクシーの運ちゃんは、自分達が望んでいたところに連れてきてくれただけだったのです。

安全確認した息子が、隠れ家から飛び出してくるのを彼は感じていました。

恐怖が生存本能を刺激したのか、

彼はその日、暴走する遺伝子の使者と化して、三人を相手に頑張ったそうです。

運ちゃんは、事が終わった頃を見計らって迎えに来てくれたとのことでした。


皆さんも、外国に不純な目的で出かけるときには十分に注意して下さい。

それと、この二人の行為は決して褒められることではない事もお忘れなく。

深く考えればブルーになるはずです。

でもちょっとうらやましい・・・かな?

なお、文中で実際の地理その他と食い違うところがあるかもしれませんが、

T君の供述をもとにして書いておりますので、あしからず。


私はバリ島になんかいったことありませんからねぇ。





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