こっちの世界ゾ〜ン・第三十七夜「憑かれた関西人」
命知らずさん談
私にはただ一人、大阪人の友人がいます。 名前は………そうですね、あだなでヒバゴンと呼びましょう(^^ 彼は陽気で野生的でお調子者。 一緒に歩いていて恥ずかしくなることもしばしば。 周囲の関西人への偏見を一身に受け、ボケとツッコミを一人でこなす男です。 ちなみに誕生日は一月一日。 存在自体が何かの冗談のようなやつです。 ある日、私と友人二人の三人は、ヒバゴンの家に泊まることになりました。 一人は明日仕事があるので、酒を飲んで早めに寝ることにしました。 ヒバゴンの家には布団は一組しかありません。 我々三人は、快く承諾したヒバゴンからそれを剥ぎ取り、 横にしたその布団で川の字になって寝ました。 ヒバゴンは………裸で床の上に寝転がりました。 四人全員、安らかな寝息をたて夢の世界へ。 しかし、お約束です。私は夜中、誰かが暴れる音で目が覚めました。 誰か? いいえ、暴れているのはヒバゴンです。 私はすぐに思い当たりました。 布団を我々に取られて怒っているのか? と。 私の大脳が体の神経すべてに、寝たふりモードの発動を命じました。 不満をぶつけるなら、他の二人にしてくれ。俺は知らん。 しかし、彼は私たちの誰かを起こすような様子もなく、 さらに暴れっぷりはエスカレートしていきます。 その暴れ方のすさまじいこと。 低い声でうなりながら、すごい勢いで両手両足をぶん回しているのです。 何だか危ない………。 このまま寝たふりを続けていたら、 「何でおきんのじゃぁーーー。なめとんのかぁワレぇーーー」 と叫んで誰かを刺しそうな雰囲気です。 仕方がありません。 私は人柱になる気持ちで、実は自分のために半身を起こしました。 私に続いて他の二人もすぐに身を起こしました(^^ そこで三人とも初めて気がついたのですが……… どうやら彼は無意識に暴れているのです。 苦しそうな表情で、何かを追い払うかのように。 夢遊病でも、うなされているといったレベルでもありません。 どう見ても尋常ではないのです。 超常現象……… 「憑かれている」 三人とも同じ考えを持ったに違いありません。 なにせ暴れる彼の頭上には、彼が大切にしている「神棚」が置かれていたのです。 しばらくヒバゴンの狂態ぶりをびくつきながら眺めていましたが、収まる気配はありません。 ………一人は耐え切れなくなったのか、薄情なことに。 「家が近いから………」 などというふざけた理由で帰っていきました。 後に残された「朋、遠方より来たる」の私ともう一人は、 ヒバゴンをこのまま放っておくこともできず、 かといってどうして良いのかもわからず、部屋の片隅に寄り添っていました。 と、不意にヒバゴンがその動きを止めました。 一瞬にして場が張り詰めた糸のように緊迫しました。 何が起こるのか。 固唾を飲む私たちの目の前で、数瞬遅れて、 ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅ。 彼は屁をこいたのですっ! プッ、でも、ブッ、でも、プププッ、という連射でもありません。 あろうことか、そのすべてを超越する、 長い長い三秒は続くかという間抜けな屁をこいたのですっ! さすが関西人っ! こんな状況でも「笑い」だけは忘れんっ! おいしいっ、おいしすぎるぞっ、ヒバゴンっ! 一息ついたのか、彼は再び暴れ始めました。 その横では腹を抱えて苦しんでいる私たち二人。 予想外の呪いに呼吸困難、涙が止まりません。 「うおお、こんな形でエクトプラズムがぁーー」 「サリンが充満して目がみえんーー」 などと口走って、二人してのたうち回っていました。 うんっ、こいつは超常現象なんかじゃない。 仮にそうでも、とり憑いているのはお茶目なやつだ(^^ 我々は安心して朝まで眠りにつきました。 いやぁ、それにしてもすごい呪いでしたよ。 いろんな意味で窒息寸前、でしたから(^^)。 キツネ憑きならぬ、おなら付きの男の話でした。 |
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