こっちの世界ゾ〜ン第三十九夜「子供好き」

爆裂ももちゃんさん


皆様、はじめまして。私、爆裂ももちゃんと申します。

昨年の一夏の経験について皆様に聞いていただきたいと思います。


昨年の夏、友人のBirthdayPartyで出会った彼。

日に焼けた肌、短く刈り込んだ髪、

ちょっとお腹は出始めていたもののホモと見紛うばかりの筋肉・・・。

褌好きのお兄様がたと趣味が一部バッティングする私にとって、

彼の外見はどちらかといえば好みの部類でありました。

…けれど、おいしい話に裏があるのは世の定め…、

そう、彼は「こっちの世界の住人」だったのでございます…。


外見に騙され、うっかり電話番号を教えたのが運の尽き。

翌日からのお電話攻撃。

「ふ〜ん結構気に入ってくれているのかしら、会ってみようかな…。」 

注意一秒怪我一生。

思いあがった女に愛の女神の鉄槌が下るまで、長い時間はかかりません。

…そして、「お友達から始めましょう…」と言ってお互いの出方を窺う

“お友達期間”もまだ始まらないうちにそれは起きたのです。


彼は何故か妹の子供達の写真を数枚持ち出しました。

そしてそれらの写真を執拗に私に見せたがるのです。

…なんでそんなに甥っ子の写真を見せたがるの? 

と疑問を感じながらなんとなく写真を眺めていました。

やがて1枚の赤ちゃんの写真で彼の手が止まりました。 

彼「この子がさぁ、俺の子供の頃にそっくりなんだよ…。

……ももちゃん、この写真欲しい?」

(彼、上目遣いに私を見る。媚を含んだ、しかし期待に満ちた眼差し。)

私「………ほぇ?」

彼「俺の子供ってこんな感じなんだろうな…。」

(優しく包み込むような声、夢見る眼差しで見つめる。)

私「…はへ?」(何かに気づいているが、

気づいていることを悟られまいと必死で隠す。とぼけよう。

私に残された手段はそれしかない。気づいたことを悟られたらおしまいだぁ。

そう、あっちの世界の人を町で見かけたときのように…。)

彼「だからさぁ…。」

私「……」

(お願いだぁ…、最後まで言うなぁ(爆)!!! と心で叫びながら話題を

変えようと必死…。しかし、そういうときに限って話題が見つからない。)

彼「早くこんな子供、欲しくない?」

私「…いらない(爆)!!!!!」


そうです、彼は結婚願望の権化だったのです。

今まで色々な口説き方をする人にあいましたが、こんなに寒気がしたのは初めてです。

男性から見ればまじめで純情な、いい奴かもしれません。

また、なぜ怖いのか男性に納得して戴けるか自信は有りません。

ただ、彼の頭の中では「ももちゃんは人格を持った人間である」という認識が

あまりなかったように思えます。

ただ、一緒に食事をしただけで、彼の思った通りに喜んで彼の子供を産みたがる、

物語の脇役と思いこまれてしまったようです。 


もちろん、以後のお付合いは謹んで辞退させて戴いたのはいうまでもありません。

しかし、彼が本領を発揮するのはこれからだったのでございます…。 

(続く)


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さて、オリジナリティ溢れる口説き文句を力技で捩じ伏せ、

私は、つかの間の平安をむさぼっておりました。

…しかし、それは長くは続かなかったのでした。

敵は思っていた以上に強かったのでした。 


それは、蒸し暑い夜のことでございます…。

PPP、PPP(携帯電話)

私「はい」

彼「ももちゃん、すぐ電話して。(ガチャン)」 (なんだか只ならぬ様子)

そう、あの彼です。

電話の向こうから伝わる切迫した雰囲気、

もしかしたら、共通の友人に何か起こったのかもしれない…。

ちょっと危険を感じたものの、電話をかけなおしてしまいました。

そのときの私は好奇心に負けて、スカンクの巣に鼻を突っ込んだ猫と同じだったのです。

(今でも不思議なのですが、なぜ家にいるにもかかわらず

“すぐかけ直して”なんて電話をするのだろう。そのまま用件を言えばいいのに…。)

私「もしもし、どうしたの?」

彼「…大変なんだよ…。俺の部屋に何かいるんだよ。

一人でテレビを見いていたら誰かが後ろを何度も通るんだ…。

今でも誰かに見られているんだよ。俺、今からももちゃんのところに行こうかな…。」

どうやらバランスをとって“こっち”と“あっち”の豪華二本立てで攻めるつもりのようです。

私「…私の所に来るよりも、お寺か神社に行ったほうがいいと思うよ。」

彼「俺ももちゃんち知らないから、迎えにきてよ。泊まってあげてもいいんだよ。

ももちゃんも恐いでしょ。……うふふ…いっぱい愛してあげようかな…。」

(なぁんで、おまえの家に幽霊が出たからって私が恐がらなきゃいけないのよ。

泊まってあげるだぁ?迎えに来いだぁ?…愛してあげるだぁ?

幽霊よりおまえのほうがっよっぽど恐いぞ…激怒!!!)


私「迷惑です。来ないで下さい。(怒り炸裂)」


と、電話を切った後、その日は携帯の電源を切って事無きを得ました。

しかし、その後、彼のみならず、彼の親友なる人からも電話は続くのでした…。


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幽霊騒ぎの後も彼からの電話は続きました。

「家の鍵を盗まれた」

「お給料を下ろしたその日に財布を落とした。」

「熱が出て4日も寝込んでいる」

「指の骨が折れたらしい」等、彼は不幸のピンポイント攻撃を受けているようでした。

どうやら本格的に何かに取り憑かれている様子です。

その上で、私に取り憑こうとしています。全く困った奴です。

電話を受ける度に、私は警察や、病院等の専門家に相談することを奨め、

迷惑だから電話しないで欲しいと言い続けました。

更に彼の親友でAさんという女性

(私とは顔を知っている程度の知り合い)からも電話がかかってきました。

私の電話番号は彼から聞いたそうです。

Aさんの話によると、私と彼は付合って(憑き合って?)いるらしいのです。

私本人も知らない大スクープです。

Aさんはしきりに彼との結婚を私に勧めました。

誤解だと説明しても、私が照れて隠していると思いこんでいます。

そして、私は彼と正面対決をし完膚なきまでに殲滅することを決意したのでございます。

その当日、私は彼の誤解を解こうと必死でした。

彼は黙って聞いていました。

私が話し終えると

彼「俺がももちゃんに望むのは、まずちゃんと働いて欲しい、

そしてももちゃんの両親と早くわだかまりをなくして欲しい。

そうでないと、結婚はちょっとね…。」

私「ぱぴ?」

名誉の為に言いますが、私は世間で名前の通っている某外資系企業で働いているし、

両親ともわだかまりはありません。

それに、彼に家族の話もしたことはありません。

彼とは手もつないだこともありませんし、まして結婚などもってのほか。

つまり、彼の中では勝手に物語が創作されてしまっていたのです。

こうなったら正面対決をしても無理です。

ひたすら逃げるのみです。

逃げて逃げて逃げまくりました。

幸いなことに彼は私の住所も知らないので、友人達全てに緘口令を敷きました。

携帯の番号も変えました。…全てが終わった…。と思ったのです。

それはあるパーティーの席でした。

現れたのです、奴が…。

私は当然無視しました。

何時の間にか彼の姿が見えません。

実はその間奴は、私の友人を捕まえ

「ももちゃんは俺のことが本当に好きだった。けれど彼女は定職がなくて

ぶらぶらしていて、両親とも仲悪い上に酒乱だから俺は別れた。」

と言うような意味のことを言っていたそうです。

そうか、私は酒乱だったのか〜。

本人も知らなかったぞ!!!んな訳ないだろ〜〜(爆)!!!

その後どうなったかと申しますと、

パーティーも終わる頃、彼が近寄って私の手を握りました。

切れた私は深く低い声で思いつく限りの脅しをかけました。

どうやら、悪霊退散の呪文が効いたようで、

彼の煩悩も消えてくれたのか、ここ数ヶ月は彼からの攻撃はありません。

けれど彼が今どんな物語が創作しているか考えると恐ろしいのですが…。

ま、人の心の中までは変えることはできないし。

彼の中ではそれは真実なのでしょうから・・・。(でも、巻き込まれると困るけど)





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