こっちの世界ゾ〜ン第八十夜「コンビニの珍客2」

三堂りある(9番)さん


「コンビニの珍客2(襲来編)」


コンビニの深夜をしている「三堂りある」です。


ここで何度も書いていることなのですが、夜のコンビニに来る客はロクなヤツがいません。

でもそんな奴らに長いこと接していると、アラ不思議、平気になります。

人間の環境適応能力の賜物なのか、大人になった証拠なのか・・・

だから、ちょっとやそっとのことではコンビニ店員は怒りません。

でもたまにキレます。

今回はコンビニ店員から怒りを買ったある男のお話です。


俺のバイトの先輩である「吉元さん(仮名)」は出来た人です。

仕事は早いし、真面目だし、接客も上手い、コンビニ店員の鏡です。

でも人間なので嫌いな客もやはりいるのでした。

それがこの男、仮に「マスオ」としておきますか、コイツです。


このマスオ、部外者なのに何かと我々の仕事に文句をつける。

我々が私語ではなく、仕事の打ち合わせをしていても、

「店員として自覚があるならちゃんと仕事しろっ!」と怒鳴ってきたり、

いや、だから、仕事の打ち合わせをしているんだってばさ。


店の指定された材料を使っている「おでん」に対して、

「ここのおでんのつゆ飲むと俺、なんか舌痺れちゃうんだよね。

材料変えてよ。客に買わせるものなんだら気をつけないとね。」

てめーだけが客じゃないだろうがっ!


レジに行列が出来ていて、

マスオの買ったカップラーメンに割り箸を入れ忘れたりすると、

「割り箸入ってねぇよ、ふざけるなっ!」

とカゴを投げつけてきたりします。

そいつぁー、悪かったね。

でもあの割り箸ってサービスの一環であって

本来はつけなくてもいいものなんですがね!


それでも俺らはコンビニ店員。耐えましたとも。

そんなある日、その日も店は混んでいてレジには行列、

俺と吉元さんの二人は二つのレジでかなり手際よくさばいていました。

マスオは吉元さんの方に並んでいました。

30分くらいたち、ようやくレジ業務から解放されて我々は「ふぅ」とした時、

マスオはレジのちょっと離れたところからじっと吉元さんを見ていたのです。

そしてつかつかと歩いてくると、

「さっきの応対はなんだ!ひょっとして俺のことナメてる?」と喚き始めました。


吉元さんのレジでの応対は俺より上手い。

俺が怒られるのはまだ分かる。

マスオが吉元さんに言っている内容を要約すると、

接客態度からマスオは吉元さんが自分を嫌っているのを敏感に感じたらしい。

なぜ、俺がお前に嫌われなくてはならないんだ!と怒っているのだった。

そういうトコロが嫌いなんだろ?


そして、吉元さんはキレちゃった。


                                       (逆襲編)につづく


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


●コンビニの珍客2(逆襲編)


<前回までのあらすじ>

俺のバイト先の先輩である吉元さんはとってもいい人。

よく働くし真面目だし、俺が失敗してもフォローしてくれたり、ホントに頭があがりません。

一方、マスオはムカツク客。

いままでいろいろとうちの店で横暴を繰り返してきた。

そんなマスオに吉元さんが切れる!


吉元さんの逆襲とはどんなものか?

「マスオを殴る」

いやいや、それは子供のケンカ。そんなことをしたら、どう見ても我々の負けになります。

「ハムラビ法典」ってご存じですか?

「目には目を。歯には歯を。」というヤツです。

つまり、ネチネチした攻撃に対して、ネチネチした方法で逆襲したのです。



その日も俺は吉元さんと組んでいました。

するとマスオが偉そうに店に入ってきました。

「ゲッ」と露骨に顔をしかめる俺。

すると吉元さんは

「三堂クンは倉庫整理お願い。レジは俺一人で十分だから」と言った。

俺は思った。

「この人はヤるつもりだ!」

そこで倉庫整理をするフリをしながらレジを見守ることにした。


マスオは一人暮らしらしくいつもカップラーメンを買う。

レジで応対する吉元さん。割り箸もちゃんと袋に入れる。

「ちゃんと忘れてないな。それほどバカでもないか。」

そんなマスオに対して「おかげさまで」と返す吉元さん。

マスオはレジの端にあるポットに向かう。

フタを開いてかやくを入れて、ポットからお湯を出す。


ジョロロロ・・・ジョロジョロ・・・ジョジョジョ・・・


ところがお湯はカップラーメンの1/3くらいでお湯切れになってしまった。


マスオ「ちょっとぉ!おニイさん!お湯!」(怒ってる)

吉元さん「お湯はそこのポットでお願いします」(トボけてる)

マスオ「ポットにお湯がないよ!」

吉元さん「すんませーん」(悪びれた様子もない)

マスオ「お湯他にないの!?」

吉元さん「もう一つのポットも今、沸かし始めたところなんですよー、すんませーん」


カップラーメンに1/3の量のお湯。

やったことがある人なら分かると思いますが、実に中半端な量。

食べるには少なすぎるし、捨てるには多すぎる湯。

かくしてマスオはカップラーメンを失った、買ったばかりのカップラーメンを・・・。


そして、俺は知っている!

吉元さんが、マスオの来店を確認したから、

ポットのお湯をそのくらいの量に調節しておいたことを!!


後日、マスオは学習能力がないのか、同じ目に三回くらい遭い、

店に対して逆襲のつもりだったのか、

おにぎりを万引きしようとしたところを店長に捕まって出入り禁止になったらしい。

(この場面は見られなかった) 


吉元さんは俺に語る。

「三堂クン。戦いにおいて必要なのは、

自分に何が出来て、それが相手にどう有効かを考えることだ。」

なるほど。

それで俺は迫り来るゲイに対しての攻略法を聞いてみた。

「三堂クン。それは逃げるしかないだろう?」

ぎゃふん!


吉元さんはとってもいい人。でも怒るととっても怖い人なのでした。



                                            <おしまい>




     戻る