あっち世界ゾーン・第十一「憑依」

いたこ28号談



床はぬけるは、水道管は破裂するは、上の部屋に変な奴が引っ越してくるは・・・・。

こんばんわ、ゼビン星人に改造手術されるかもしれない、いたこ28号です。



きつい、汚い、危険、挙げ句の果てにギャラが安い。

助監督は、今の世の中では信じられないほどデンジャラスな仕事だ。

」と言う言葉で騙し、制作会社は若者達を働かしている。

昔はまだ良かった。

助監督から監督になれたのだ。

しかし今は違う。

助監督は助監督と言う職業になっているのだ。

一番最悪最低外道なのは「テレビドラマ」。

その極悪世界がもっも発揮されるのが、お昼の「オビドラマ」(連続もの)に付いた時だ。

今日の「あっちの世界ゾーン」は、そのオビドラマの助監督をやっていたY君が、

撮影現場に来なくなってから話が始まります。

今回の話も、もちろん「 実 話 」です。




チーフ、セカンド、サード。

テレビドラマの助監督(ADとは言わない)は、だいたいこの3人で構成されている。

Y君はサードの助監督。

四畳風呂なし、家賃が2万円のボロアパートに一人で住んでいた。

Y君の夢は、監督になりハリウッドで映画を作る事。


撮影は相変らず「金ない」「時間ない」「人手がない」「アイデアない」

と言う最悪の条件で進められていた。


撮影スケジュールも終わりに近づいたころ、突然Y君が撮影現場に来なくなった。

「・・・やっぱりダメか。」と、変に納得する監督。

怒り狂うチーフ助監督。

制作進行助手のA氏は、

何度も彼の部屋に電話をするのだがY君との連絡はとれなかった。

制作部では一番下っ端のA氏は、

立場が同じのY君がこのままこの世界から消えて行く事が悲しかった。

Y君が来なくなってから5日目の夜、A氏は電話でY君をやっとつかまえる事ができた。

「明日行く。」と、妙に明るい声でY君はA氏に告げた。

しかし次の日も、Y君は現場には現れなかった。



元お笑いグループにいた俳優のK氏は、大変気さくでいい人だ。

K氏は、Y君と「待ち時間」に良く会話をしていた。

苦労して何とか芸能界で生き残っているK氏は、

「夢」を楽しそうに話すY君を何かと気にかけていた。


その日のドラマ撮影は、深夜までかかった。

メインの俳優以外は「たくそう」(タクシー代)が出来ないので

マイクロバスや、ハイエースなどの車を使い、

スタッフや助演クラスの俳優達を送る事になった。

A氏は自分のボロ車で、K氏を送って行く事になった。

K氏とA氏の家は近かった。


帰る途中、

Y君のアパートの近くを通る事を思い出したK氏はY君を見に行こうとA氏に提案した。

A氏は地図を頼りにY君のアパートに向かった。


夜中の3時だった。

雪混じりの小雨が降りだしていた。

A氏は車から降りた。

Y君がA氏の手帳に書いた住所はこの辺りだった。

ただし、Y君の部屋に電灯がついていなければ後日もう一度たずねる事にした。

薄汚れたアパートは入組んだ路地の奥に建っていた。

Y君の部屋の窓から明かりがもれていた。

ドアを叩くA氏。

「どなたですか?」

部屋の中からY君の声が聞こえてきた。

鍵はかかっていなかった。

・・・小さな玄関、四畳半の部屋、その奥に小さな窓。

Y君はコタツに入ったまま彼らを見ていた。

・・虚ろな目。

・・玄関の壁には女性のポスター、下には薄汚れた運動靴。

散らかった四畳半の部屋の真ん中にコタツが置かれていた。

典型的な四畳半一間の薄汚れた独身男性の部屋だった。

A氏はY君の無関心な態度に少し腹がたった。

わざわざK氏が尋ねて来てくれていると言うのに・・・その態度は無いだろう。

A氏とK氏は部屋に入らず玄関からY君に話し掛けた。

A氏「どうしたんだよY!心配してたんだぞ。」

Y君「・・・すみません。」

K氏「心配しなくても大丈夫だから。現場に出ておいで。」

Y君「・・すみません。・・俺は出たいんだけど・・。」

K氏「・・・・・。」

Y君「彼女が駄目だと言うんですよ。」

K氏「君の気持ちはどうなんだ。」

Y君「・・・彼女が駄目だと言うから。」

K氏「彼女より君の気持ちはどうなんだ。」

Y君「・・・駄目だと言うんですよ。」

そしてY君は二人の方を見て意味不明の言葉を喋った。

Y君「なあ、・・・・駄目だよな。」

A氏とK氏は、Y君が喋った意味が理解できなかった。

・・・俺達二人に向かって何を言うんだ?

Y君「・・・やっぱり駄目みたいです。」

A氏の怒りが爆発した。

先程からの態度も気に入らなかったが、

わけのわからない言葉を繰り返すY君に対して、ついに怒りが爆発したのだ。

A氏「なに馬鹿な事を言ってんだよ!駄目かどうか自分で考えろ!」

Y君「だって、さっきから彼女が駄目だと言ってるから。」

A氏「彼女?」

薄汚れた四畳半には、女が隠れるスペースなど無い。

・・どう見ても、この部屋にはA君しかいない。

Y君「・・駄目だと言ってますよ。」

A氏「いい加減にしろよ!この部屋に女なんかいねえ!」

Y君「なに言ってるですか?・・・ほら、・・・そこに居ますよ。」

A氏とK氏は悲鳴を上げた。

彼らの横に貼ってあった女が動いたのだ。

それはポスターではなく、壁に女が張り付いていたのだ。

うすぺらの女が!

二人は悲鳴をあげながら逃げ出した。



次の日からY君とは連絡がとれなくなった。

しばらくすると電話も止まってしまった。

A氏とK氏が再びY君の部屋に訪れた時、

Y君が行方不明になっている事を大宅さんから聞かされた。

A氏は履歴書から両親の住所を調べ連絡をとったが、

やはり行方不明で、両親も警察に捜査願いを出そうとしているところだった。



一年後。

Y君の両親からA氏に手紙が届いた。

そこには、Y君が富士山にある新興宗教団体で修行している事が書かれていた。



そして・・・・、

その後も「夢」を追い続けたA氏は、

この話を私にしてくれた時、仕事のストレスから「夢遊病」に蝕まれていた。

先日A氏は業界から足を洗った。

34歳だった。



どうやらこの話しに出てくる俳優のK氏が、ある番組でこの話をしていたそうです。

・・・・やっぱり「 実 話 」だったんだ。

・・・・私には祟りがありませんように。 





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