あっち世界ゾーン・第十二「言霊?」

いたこ28号談




「人って簡単に死んでしまうんやな。」

友人の浅野(仮名)が、あの時に骨折した右腕を触りながら呟いた。

私は何も答えられずテレビに目をやった。

テレビモニターには、事故で亡くなった吉田(仮名)さんが映し出されていた。

吉田さんが殺人鬼役で暴れ回る自主映画。

あの事故から2年が経っていた。

「・・・あんなぁ、あの事故の時になぁ、・・・」

私は浅野の顔を見た。

「・・・吉田さんの最後の言葉が、いまだに忘れられへんのや。

・・・恐ろしくってよ。」

私の脳味噌と違う別の所からの命令で微笑みが・・・。

やはりな。

彼も「あっちの世界ゾーン」体験者だったのだ。

アドレナリンが吹き出した。

「あっちの世界ゾーン」の話を聞く為に・・・・。



こんばんわ、いたこ28号です。

皆さんは、「言霊」(ことだま)を知っていますか?

・・・ことばにこもるふしぎな霊力 。

言葉には、「言霊」が宿る時が有るのでしょうか?

言葉は凶器になる事も有ります。それは「言霊」の力によってかもしれません。

今回は自分の言葉で、もしかすると自爆した男の話。

もちろん、・・・・「 実 話 」です。



吉田さんは大学の先輩だった。

浅野にとっては寮の先輩でもあった。


吉田さんには、不思議な特技があった。


タロットカード占い。


特に未来の予言?が当るのだ。

噂を聞いた女子大生達が、校内にある食堂などで彼を捕まえては、

占ってもらっている光景をよく見かけた。

私も占ってもらった事が有るのだが、不思議な感じがした。

・・・正式なタロットカード占いとは少し違う。

自己流らしい。

それに彼の「○○○した方が良い。」と言う予言?助言?が、特に恐ろしいほど当った。

浅野も占ってもらった事があった。

それいらい、彼は絶対に占ってもらわなかった。

吉田さんに占ってもらうと「暗示」に懸るようで恐い・・・。

その予言どうりしなければならないような気がして恐い・・。

何かに操られているようで恐ろしい・・と。

しかし吉田さん本人は、そんな大それた気持ちは全然無いようだった。

「口からでまかせを言ってるだけや。」と、笑いながら私に話した事があった。

・・・彼は自分のパワーに気付いていないのか?

・・・私も浅野が恐れてるモノが理解できた。

あれは占いや予言や助言では無い異質のモノのような気がした。


吉田さんには、もうひとつの特技があった。


運転テクニック。


吉田さんの運転テクニックはかなりの物で、

A級ライセンスを取るつもりだと言う話にはリアルティーがあった。

土曜の夜は、

自分で改造した中古車に寮の後輩達を乗せて走りに行く事を日課としていた。



事故の日の夜、

いつものように吉田さんは寮の後輩4人を乗せて峠に走りに行った。

浅野は助手席に座っていた。

スピードをあまり落さず、コーナーを鋭く曲がるたびに彼らは歓声をあげた。

吉田さんの運転テクニックを信頼しているが、やはり恐い。

吉田は全員が恐がっている事を知ると、ますます危ない運転をした。

いや・・・危ないというよりも、より高度なテクニックを披露した。

歓声も何時しか悲鳴に近いモノになっていった。

しかし何故かその後、必ず笑いが起こる。

楽しかった。

彼等はいつもスピードと恐怖とスリルに酔いしれた。

峠最後のコーナー。

歓声!悲鳴!爆笑!

危険なコーナーが終わり直線の道路に車は出た。

恐怖とスリルの時間は終わった。

緊張から浅野達が解き放された時・・・・突然、本当に突然、吉田さんが叫んだ。

後輩達に叫んだ!

その言葉を叫び終わると同時に車が!

衝撃!

横転!

浅野が今起こった事、全てを理解した時、車は既に大破していた。


車は壁に激突。

浅野の胸にシートベルトが身動きできないように強く食込んでいた。

ガソリンとこげた匂いが充満する車内には吉田さんは居なかった。

吉田さんは運転席にはいなかった。

そこから動けない浅野は、吉田さんを目で探した。

砕けたフロントガラス越しに、地面に叩き衝けられた吉田さんの裸足の足が見えた。

そして浅野は自分の右腕が、妙な方向に曲がっていることに気付いた。

痛みは無かった。

・・・しかし意識が遠くなって行くのに、さほど時間はかからなかった。



浅野以外の後輩達は奇跡的に軽傷ですんだ。

・・・吉田さんは内臓破裂で、病院に運ばれる前に息を引取っていた。

事故は何の変哲もない直線の道路で起こった。



・・・・・あの事故から2年が経った。

「俺達さすがに吉田さんの最後の言葉、・・・・家族に伝えられへんかった。」

浅野は煙草に火をつけた。

「自分自身に暗示を?」

私は独り言のように呟いた。

吉田さんが彼らに叫んだ最後の言葉。

死の寸前に叫んだ言霊。

それは、



「・ ・ ・ も っ と 恐 い も ん み せ た ろ か。 」





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