あっち世界ゾーン・第十七「特別篇」

いたこ28号談





★夏休み限定恐怖体験談「あっちの世界ゾーン」特別篇




大阪の淀川沿いに、スイセンの花で有名な公園があります。

其処には大きな池が有り、季節になれば沢山の美しい花を付けます。

今ではオフィスビルが周りを囲んでいますが、戦時前は木造平屋の下町でにぎわっていました。


大空襲。


そうです、大空襲で焼けてしまったのです。

焼夷弾(しょういだん)をばらまかれ、下町は焼き尽くされてしまったのです。

焼夷弾とは、アメリカ軍が全てを焼き尽くすために作られた発火生の爆弾です。

地上近くで爆発し、粘着状の発火物をばらまくのです。

人体に着くと悲惨な状態になることは想像できると思います。


・・・地獄でした。


猛火に追われ人々は川や池の方に・・・。

焼夷弾が体からとれず、炎に包まれた人々が逃げまどていたそうです。

人々は水の中に飛び込み次々に亡くなりました。

とくに公園の池の中はまるで地獄絵巻でした。

黒く焼けただれた死体が折り重なるように浮いていたそうです。


・・・・あれから数十年。

今では、その悲惨な出来事の体験談を語れる人は殆どいないでしょう。

唯一、池の横に立てられた小さな石碑が、

その悲惨で悲しい出来事を語っるだけです。

しかし、その「苦痛」と「恐怖」は人々から忘れ去られる事はありませんでした。


なぜか?


幽霊が出るのです。


焼けただれた人々の幽霊が現れる事が、未だに語り継がれているからです。

あの焼け苦しみ死んだ人々の怨念が、今もそこに存在するのです。

形となって。


・・・特に冬の日の夕方、

・・空襲があった時刻に、目撃談が多くありました。

近所の子供たちは、けして冬の夕方にそこを通ることはありませんでした。


運が良いのか?


近所だというのに、私は一度も恐怖の体験をせずに大人になれました。

あの日までは・・・。


恐怖体験は、ある冬の薄暗くなってきた5時頃に起こりました。


友人の自宅に向かう私は、

その公園を通ると近道なので、夕方の五時にもかかわらず通り抜ける事にしました。

子供の頃信じていた「幽霊伝説」をけして忘れていたわけではありません。

しかし、社会に出てはや数年、

それなりに現実を見つめてきた私は、「幽霊」より怖いモノ達を知ってしまったのです。


私は薄暗くなった公園の中を歩きました。

夏ならアベックの数組でもいそうなモノですが、さすがに寒さのせいか誰一人いません。

それとも、まだ「幽霊伝説」は生きているのでしょうか?

私はあの池の方に向かって歩いていきました。


そこに人影が。


・・・・・人が池の縁に立って何かしていました。


近ずくにつれて、それは老婆であることがわかりました。

一瞬恐怖を感じましたが・・・。

「ちゃんと足はある。」

今思えば笑われそうですが、その時はそんなことで少し安心したのです。

落ち着いてよく見てみると、その老婆の行動は少し変でした。

・・その老婆は、池に向かって何かを投げていたのです。

・・・・なにをしているのだ。

私は少し恐怖を感じましたが、好奇心の方が勝ちました。

老婆に気付かれ無い様に近づきました。


・・・水中に黒い固まりが・・・。


・・・老婆は、水の中にある黒い塊に向かって何かを投げていました。

その塊は1メートル以上はあるようです。

「なんだあれは?」

わたしは注意深く、それを見つめました。

黒い塊が・・・・動いた。

それは鯉でした。

鯉の大群でした。

その鯉達に向かって、老婆は必死で何かを投げていました。

10円玉?

・・・・老婆はなんと鯉に向かって「10円玉」を投げていたのです。

なぜだ!

なぜ10円を!

「怖い!怖すぎる〜!」

老婆の横に看板がありました。

そこには

・・・・鯉の餌10円。

と、黒いマジックでデカデカと書かれていたのでした。


・・・・・お〜、まい、ごっと〜!




だから今日は・・・特別編。




意味分からんから戻る 次の話は怖いぞ!!進む。