あっち世界ゾーン・第十八「浜野君の怖いモノ」

いたこ28号談




人間には必ず一つぐらいは、恐いモノがあります。

ヘビ、蛙、毛虫、幽霊・・・・etc。

浜野(仮名)さんは、妙なモノが恐いのです。

何故彼はそんなモノが恐くなったのか・・・・。

今晩の話は、彼が怖がるモノに付いての「あっちの世界ゾーン」。

・・・もちろん、今回の話も「実 話」です。




キャンプ場からその場所に行くのには、1時間もかからないと言うことだった。

そこの断崖は自殺の名所。

浜野達10人は3台の車で其処に行くことになった。

大した理由からではなかった。

「幽霊」がでると言う噂を聞いたと、誰かが言ったからだ。

ほろ酔い加減の浜野も深く考えずに断崖に向かって車を走らせた。

そこが「あっちの世界ゾーン」とも知らずに・・・・・。


深夜の2時を少しまわったころ現場に着いた。

たしかに1時間もかからなかった。

少し開けた場所があり、そこに車を止めることにした。


・・・山道を少し歩かなければ、断崖には出られないようだ。

車から降りた浜野はびびった。

闇。

車のライトが消えたとたん、そこには闇が広がっていた。

都会では味わうことのできない闇がそこにあった。


獣道だった。

草が生い茂げった中にある獣道を歩いて行かなければならないなんて・・・。

恐怖からか全員がためらい獣道に入ろうとしなかった。

一番酔っていた山岡が、奇声を上げながら草むらの中に入っていった。

しかたなく後に続いて歩きだした。

浜野もしぶしふ後に続いた。


不思議だ。

夏なのに虫の声一つしない。

岩に叩きつけられている波の音だけが聞こえてくる。

少し湿った土を踏みしめながら、獣道を登っていった。

生い茂った草むらの向こうにかすかな光が・・・・。

其処は広場になっていた。

街灯が一つ其処に立っていた。

よく見ると舗装された階段が下に向かって続いている。

こんな獣道を歩いてこなくても此処にこれたのだ。

緊張の糸が切れたのか、自分達の行為に誰とも無く笑いがおこった。


広場の奥が断崖。

錆びて古くなったフェンスが見えてきた。

ここからは立入禁止なのか・・・・。

これくらいのフェンスの高では、彼らの興味を遮断する壁にはならなかった。

彼らは簡単に乗り越えて行った。


其処はまさしく断崖絶壁。

海風が浜野の顔に痛いぐらいに吹きつけてきた。

「自殺にもってこいだ!」

山岡が大声で叫んで笑った。

自殺者にとって生と死の境界線になる

地上と眼下に暗く広がる岸壁の、そこには、立て札が立っていた。

お決まりの自殺を考え直せというような文書が・・・・・。

この立て札を見たにもかかわらず、何人の人間が飛び降りたのだろう?

浜野は自分が今立っているところがとんでもない場所だと理解した。


霊感が強いという女の子が泣きだした。

「この場所は強烈すぎる、耐えられない。」

他の連中もヤバイ事を感じていたらしい。

・・・・帰る事になった。


あの階段を使うと車の場所からかなり離れたところに出るようだった。

怖いがしようがない・・・・・。

とにかくこの場所から立ち去りたかった。


闇の中に続く獣道。

草が生い茂る獣道は、先程にまして無気味だった。

早く草むらから出たい。

と、浜野が思った瞬間。

前を歩いていた女の子が立ち止まりうずくまった。

「・・・へんな声がする。」

耳をすます浜野達。


確かに波の音とともに・・・・。

「・・・う、う、う、う、」と、途切れ途切れに女の声が。

右側の闇から彼らに近づいて来る。

「う、う、う、う、う、う、」

闇の向こうから、彼らに向かって・・・・・

悲鳴!

浜野はうずくまる女の子を引きずるようにして逃げ出した。

転げるように獣道から出て来る浜野達。


泣いている女の子達を無理矢理車に押し込めその場から走り去った。


闇が広がる峠を走る3台の車。

浜野の車は二番目を走っていた。

後ろの席で泣いている女の子を見て、浜野は少し後悔した。

「・・・・ああゆう場所には遊び半分で行かないほうがいいんだ。」

独り言を呪文のように何度も呟いた。

突然、先頭を走っていた車が急ブレーキ!

浜野も慌ててブレーキを踏んだ。

衝撃!

衝撃が浜野達を襲った。

浜野らの後ろを走っていた車は、

ブレーキが間に合わず浜野達の後方に追突してしまったのだ。


シートベルトが食い込み、外そうともがいている浜野に、

先頭を走っていた車から男達が浜野達に向かって走って来るのが見えた。

後ろに座っていた女の子には、ケガが無いようだった。

しかし、走ってきた彼らは何故かドアを開けようとしなかった。

それどころか、浜野のドアの横で呆然と立ち尽くしていた。

やっとシートベルトをはずせた浜野は、ドアをあけ外に出た。

浜野は何かを踏んだ。

足の下にあるものを見て気絶しそうになった。

それは、赤いハイヒール。

赤いハイヒールが二つ、奇麗にな並べられて置かれていたのだ。

事故で止まった車のドアの下に・・・・。

飛び降り自殺する時に、そろえて置かれた靴のように・・・・。




先頭を走っていた運転手は、

黒い影が飛び出してきたのでブレーキを踏んだそうです。

運が好い事に誰も肉体的なダメージをうけませんでした。

しかし、浜野の脳の中に赤いハイヒールの恐怖が、

トラウマとなってすりこまれてしまったのです。


彼は「赤いハイヒール」が恐いのです。





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