あっち世界ゾーン・第弐壱「感染する憂鬱」

いたこ28号談


電波系の「あっちの世界」に住んでいる人々を近ごろよく見かける。

別に増えているとは思えないのだが・・・・

彼らと遭遇し、驚いたり、怖かったり、おかしかったりする事はあったが、

それ以上の事をその時感じた事はなかった。

そこから想像力をかき立てられる事がないのだ。

見たままの存在だった。

その女は違った。

女は何もせず、そこに居るだけだった。

しかし、女のその存在自体が不幸の想像力を爆発させるには

十分すぎるぐらいのインパクトとショックを与えてくれた。


それは悲しい憂鬱・・・・・。



暮れは憂鬱な季節だ。

倒産。倒産。倒産。倒産。吹き荒れるリストラ。

暮れは憂鬱な人達で溢れかえっていたのではないだろうか。


ユダヤの陰謀によるサブリミナル?

テレビや新聞で憂鬱なニュースで溢れかえた今年、憂鬱が感染しなかったひとは、

本当の幸せものか明るい電波さんだけかもしれない。


当然私も憂鬱だった。


暮れは憂鬱が爆裂しそうだ。


ある程度の年齢すぎたてしまった私。

・・・・・独り者には寂しい季節。

うぁぁぁぁぁ〜!憂鬱だぁぁぁぁ!誰か私に愛をくれ!(注・97年の暮れの叫び)

そんな甘い憂鬱な気持ちを一発で女は吹き飛ばしてくれた。

愛に救いを求める私の心を簡単に地獄に落とした。

ブルーな、いや、ほとんどグレーに近いブルーに、それはまさに心は「グレーとブルー」。



私は働き者だ。


今年も30日まで働いた。

・・・帰郷するのが31日になった。


帰郷ラッシュがすぎた東京駅。

妙にだだぴろく感じる構内には寂しさが漂っている。

私の荷物は小さな緑のバックが一個。

・・そこにはお金とThinkPadのみが入っている。

私はこのスタイルで帰郷するようになって10年近くになった。

旅行ではないので着替えを持っていく必要はないのだ。

いつも出勤する姿そのままで東京駅の構内を歩いていた。


白い女が立っていた。


八重洲中央・新幹線切符売り場の近くに女は立っていた。

妙に広い空間の真ん中に女は立っていた。

人形のように動かなかった。


絶句。


ウエディングドレス。

女はウエディングドレスを着ていたのだ。

数秒後、駄目押しに私の心に強烈な「憂鬱」を突き立てた。

それはスカートの裾の異常な汚れだった。

薄汚れ黒くシミになっている裾。

あああああ、なんてこった。

汚れた純白のウエディングドレスなんて。

やめてくれ。

彼女の不幸の歴史が私の身体全体に感染した。

そこからは不幸の憂鬱以外想像できない。

楽しい想像の世界に逃げさせてくれない、強力な陰のパワーが溢れていた。


幸せのロジックからの落差。

極端な対比。

愛と憎悪。

これほど憂鬱にさせてくれた恐るべき人物には初めて出会った。


・・・・ウエディングドレスとは反則だ。


彼女の事は一生わすれないだろう。

これからウエディングドレスを見るたびに絶対に思い出してしまう。

この年齢でトラウマを経験させてくれるとは・・・。


憂鬱は感染する。


彼女の横を通り過ぎた人間は、すべて憂鬱になったと思う。

しかし彼女は天使のような微笑みを浮かべていた。

幸せの絶頂期の夢の中で生きている彼女は幸せなのかもしれない。

ある意味では私より・・・・。


私は、ますます憂鬱になった。





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