あっち世界ゾ〜ン・第弐九「謎気功師(稲川淳二氏語り風バージョン)」

いたこ28号談



今年は百年に一度の怪談ブームらしいんだなぁ。

アタシがこんな事をいうのもあれなんですけどね、

最近思うんだけど胡散臭い霊媒師と多くないですか?

やれ、水子の霊が祟ってるだの、やれ、住んでる土地が悪いのだの。

あーでもない、こーでもないと、やたらと嫌な事を言うんだ。

そんなことわかりゃしないんだ。

でもね、そんなこと言われた方としちゃたまったもんじゃない。


アタシの仕事仲間の後輩にね、Bってヤツがいるんだけど、またこいつが胡散臭いヤツでね。

ヤツがね、友人に気功を使う面白いヤツがいるから連れて来るって言うんだな。

アタシね、昔サッカーやって左足のジンタイを切っちゃいましてね、

ヤツが言うには、中国で修行をして来た気功使いだから、やってもらったらどーだって。

ネットだから書いちゃいますけどね、アタシ気功を信じちゃいないんだなぁ。

嫌な想い出があるんだ―――

自称気功使いのロケコーディネーターと仕事をした事があるんですけどね。

ロケ地で途中から雨になっちゃってね、

そしたら、スーーーーーーッと、

現場から消えちゃったんだ。そのロケコーディネーター。

ロケコーディネーターが現場から消えるなんて、ありえないんだ。

そんな事はあっちゃいけないんだ。現場は大騒ぎですよ。

現場から少し離れたところでヤツを見つけたんですけどね。

空に向かって両手を上げてるんだな。雨の中でですよ。

気功のパワーで雲を蹴散らすって言うんだ。

もちろん晴れやしない。

アタシャ自分の脳味噌に気功パワーを送れぇぇぇって、つっこみたかったですよ。

で、―――

なんて言いながらも、今回もそんなナイスガイな気功師だったら、

イイのになぁ〜って期待はしていたんですけどねぇ。


後輩は自主映画を作っていましてね、アタシは殺人鬼役で出演してまして、

謎の気功使いの友人も出演するために来る事になっていたんだなぁ。

彼はアタシに虐殺される役でしたけどねぇ。


来た来た―――。でも期待はずれな―――、

見るからに真面目そうな―――、普通の青年なんだなぁ。

アタシとしちゃ、チャイナ服で太極拳を舞いながら来て欲しかったんですけどね。


でね。撮影も終り打ち上げの時に彼と話す機会に恵まれてね。

はじめは、油揚げがどーとか、こーとか、どうでもいい話をしてたんですけどね、

アタシがいるから、当然話は「あっち」系になっていく。

彼は酒に弱いんだなぁ。修行が足りないのと違うんかってねぇ。

そのおかげか?アタシの期待どおり胡散臭さ爆裂の素晴らしい話が続出ですよ。

彼の口癖がねぇ、

「 中 国 四 千 年 の 歴 史 」。

どんな現象も最後に「中国四千年の歴史」では―――って解決しちゃうんだな。

なんでも彼は秘密で―――と言おうかアルバイト?で、

悪霊退治の仕事をしているらしいんだ。

気功を元に独自で編み出した技で悪霊と戦っているって言うんだな。

力強くね、悪霊達と戦った素晴らしい激戦の日々を語ってくれましたよ。

「中国四千年の歴史」の素晴らしさをアタシに説きながらね。


そろそろお開きの時間に近づいた時に、アタシ、彼に質問したんだなぁ。

今まで一番厄介だった事件はなんですか?ってね。

彼は答えてくれましたよ。

まだ解決はしていない、未だに続いている事件だとね。



彼の叔父さんがね、土地を買って家を建てたんだなぁ。

そこには大きな沼と森があった。

そこをね、ブルとかでガーーーッと埋めちゃって宅地にしちゃったんだな。

さすがに叔父さん、沼が埋まっている上に家を立てるのは嫌なので、

―――元沼の上に家を建てると湿気が凄いらしいですよ。

そんな話を聞いていたんで、森を潰して宅地にした方の土地を買ったんだ。

沼の埋め立てた場所よりは少し値段は高かったそうですけどね。

叔父さん金もってる人だから、もう、柱とか凝っちゃって、それは立派な家が完成しましたよ。


叔父さんが言うには、怪異な現象が起こりだしたのは引っ越した日の夜からだったそうです。

まだ荷物等がゴチャゴチャしてますしね、余り気にしていなかったらしいですけどね。

少しづつ部屋の中も片付いてきて・・落ち着いてきたらね。

おかしいんだなぁ。なんかね、気になってきましてね。叔父さん。

―――部屋の外がみょーに騒がしいんだ。

それも真夜中にですよ。

布団の中でウトウトし始める頃になると、

ザワザワザワ―――外がザワザワするんだな。

五月蝿いほどでもないんですけどね。

大勢の人間のひそひそ話や、ザワザワ歩いているような―――

気になって目を覚ますとね、なぁ〜〜〜にも聞こえない。

引っ越しで疲れているし、環境が変わったせいで、

そんな気がしてしまうのかなぁ〜なんて思っていた。

叔父さん家族には悪いと思って言わなかったんだなぁ。

だって怖がるじゃないですか。

そんな事が何日が続いてね。

ある日、叔父さん気のせいかもしれないと家族にその話をしたらね、

「うぁ〜〜!!!」って叔母さんと娘さんが同時に声を上げた。

叔母さんも娘さんもその事に気付いていたんだ。

こりゃやっぱりおかしいって事になってね。

今晩皆で見てみよう、って事になってね。

その日は家族で真夜中まで起きていましたよ。


夜中の二時を少し回った頃にね。聞こえてきましたよ。

なんか人のザワザワする音、大勢の人間がヒソヒソ話をする声。

ほんとは相当怖かったって、でもね、家族の前だしね、

叔父さん気合を入れながら庭の外に飛び出しましたよ。


だぁ〜〜〜れもいない。


それどころか不気味なぐらい静かなんですよ。

でもね、部屋に入って庭側にあるサッシのカーテン閉めたらね、

ザワザワザワ―――って―――再び聞こえるんだな。

「うぁ〜〜〜!!!」ってなって、

家族全員部屋の真中で丸く固まって、明るくなるまでガタガタガタガタガタ震えてましたよ。

でね、

「謎の気功使い」の登場ってわけですよ。

昼間に彼、その家に着いたんですけどね。庭を見るなりすぐに分かったって―――

そこね、「 霊 道 」。

叔父さんの家の庭から、前の空き地に向かって、霊達の通り道だったんですよ。

元沼だった方角に向かってそうなっていたそうです。

でね、よ〜〜く見たら、その庭にね、小さな墓石みたいなモノが土に埋まっていたって。

その石かなり古そうで、文字みたいなものが書かれていてね。

彼には、そこに何が書かれているのかは理解できなかったけど、

―――たぶん昔誰かが、そういう場所だと示すために、置いたものだとは推理できたらしいですよ。

なにかしらの霊が家に取り付いているなら、

何とかなるかもしれないけど、流石の彼も霊道だけはどうしようないって。

遥か昔から、そこはそうなっているものだから。

中国四千年の歴史でも無理なものは無理だって。


不幸中の幸いか、霊道の上に家を建てはいなかったのですが。

―――でもね、やっぱりそこに住んでいたら、あまり良い事はないだろうって事になってね。

彼は引越しを進めたんだけど、―――しかし、現実的には簡単に引越しできるものではないしね。

まして新築ですしね。


その日はとにかく泊めてもらう事になった。


真夜中。

やっぱり怪奇現象は起こりましたよ。

「ズド〜ん!ズド〜ん!」

凄い物音で目が覚めたんだ。

普通ではありえない音なんだ。

その地響きに近い音ともに家が揺れるんだ。

彼慌てて下に降りたらね。

叔父さん達、青くなって部屋の真中で抱き合って

ガタガタガタガタガタ震えているんだ。

―――彼は何か得体の知れないモノの気配を庭から強烈に感じる。

ソレが庭から家の壁を叩いているんだ。

ズド〜ん!ズド〜ん!叩いているんだ。

―――ますます音と揺れが激しくなってきてね。

彼もね、覚悟した。

こんなに強烈な現象を伴うモノの戦うのは初めての経験だ。

彼もかなり怖かった。でもね、このままにしとくわけにはいかないって、

気合を入れてね、

うァァァァァー!!!て叫びながらね、庭に飛び出した。

庭の外には、その叩かれていた壁側にね、大きな塊が。

それ、良く見たら―――裸の男。

髷を結っていて―――

フンドシ姿の大きな相撲取りが壁に向かって張り手を入れていたんだ。

相撲取り?

相撲取り?

フンドシした裸の相撲取りの霊がですよ!


「何してるんだよ!やめろ!」って、そいつに向かって叫んだらね。

相撲取りの動きが止まってね・・・・一言。

「練習してるじゃ。邪魔するなぁ〜!!」

張り手を彼に向かって一発。

手が届く距離では無かったんですけどね、

ズドゥ〜ン!!って衝撃があって、彼、吹き飛ばされたんですよ。


「さすがにブチキレたよ。」


彼は妙に冷静な表情で、アタシに語ってくれましたよ。

その後、彼は中国四千年の歴史を駆使して、

相撲取りの大男の霊と壮絶なバトルを繰り広げるんですけどね。



―――壮絶なバトルの模様を熱弁する彼のおかけで、異常に盛り上がりましたよ。

最後の最後にこの話を持ってくるとは!おいしすぎるぞ!謎の気功使い!ってね。


結局、叔父さんの家族は、マンション借りて引っ越したそうですけどね。


イイ話も聞けたし、お開きにしようか?って事になってね。

そしたら、よせばイイのに、私の後輩がね。かなり酒が入っていたせいもあるんですが。

「嘘つくなよな、おまえ」って言っちゃった。

「いいかげんにしろ!!」ってね。

そしたら、その謎の気功使い君の顔色がサーッと変わってね。

アタシも確かに胡散臭いヤツだとは思いましたけど、話が面白かったから、いいじゃないのってね。

「まぁ、まぁ、」って感じで間に入ってね。でも、二人はなんか口論になっちゃって。

後輩が証拠見せろ!って言ったら、謎の気功使い君は、ああ!見せてやる!ってね、

立ち上がった。気功使い君。

でもね、なんかモジモジしてるんだ。

ほぉ〜ら見ろってもんで、後輩が高笑いしたらね。

いきなり気功使い君、服を脱いでね。上半身裸になって背中を私達に見せたんだ。


―――びっくりしたなぁ。


彼の背中にね。―――皆さんどーなっていたか分かりますか?

背中にね、大きな手形が付いていたんだなぁ。

ほんと相撲取りが付けたような大きな手形が。

―――あの時に受けた張り手が、跡になって未だに取れないそうです。

前から受けたのに、なぜか背中に出てきたそうですが。


静まり返りましたよ。

後輩はビビっちゃって

「洒落にならへん!洒落にならへん!」

とブツブツ呟いているし。

謎の気功使い君は、謎をますます謎にして謎のまま帰っていきましたよ。

正直な話ね、その手形が霊が付けたモノかどうかは、わからないですよ。

調べたわけじゃないんだから。

でもね、アタシ思うんだけど、世の中いろんな方が亡くなっていますから、

相撲取りの霊がいても不思議てはないのではないかってね。

・・・あるんもんですね。・・・・そういうのって。・・・・・・・。





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だったら原始人の霊もいるぞ・・と思いつつ次に