あっちの世界ゾ〜ン第二十壱夜「ついてくる」

楯野恒雪(渡し守)さん談


高円寺近辺は東京の裏鬼門だけあって、奇妙な話に事欠きません。

これはその近所に住む友人から聞いた奇妙な話です。


Sさんが中学生の頃のこと。

学校の帰り道、友人と3人で道を歩いていると、ふと後ろに妙な気配を感じました。

振り返っても何もいません。気のせいかと思って、また歩きだすのですが、

その気配は消えません。

しかも、気のせいか、どんどん気配が大きく……い

え、“多く”なっていくのです。

季節は夏とはいえ、夕暮時。

Sさんはだんだん恐くなってきました。

ちらちらと後ろを気にするSさんの様子に気付いたのか、友達のひとりが真顔で言いました。

「何かが後ろについてくるような気いしない? なんかこう……猫みたいなものが……」

猫かどうかは解らなかったものの、Sさんはその気配が気のせいでないことを確信しました。

気配は、歩いていくにつれてどんどん、どんどん増えてきます。

友人の言葉でSさんも暗示にかかったのか、猫が速足でアスファルトを歩くときの……

シヤリシャリシャリ……という音まで聞こえてきます。

しかも大量に。


Sさん「こういうのって、振り返っちゃいけないんだよな……?」

友人A「もう振り返っちゃったよ、どうする?」

友人B「こういうついてくるヤツってさ、人のいっぱいいる所に寄り道すると、

他の人についていくって話聞いたことあるよ」


というわけで、彼らは本屋に立ち寄りそれから一人ずつ、

時間を置いてそこから分れて帰宅することにしました。

一人目はAさん、二人目はSさん、三人目はBさんでした。

AさんもSさんも何事もなく帰宅しました。

しかしBさんは……その後その“猫”につきまとわれて、

真っ青な顔をしながらゲーセンや喫茶店をハシゴして、ようやく見逃してもらえたそうです。

なんでもBさんの話では、それは彼と入れ違いにゲーセンから出てきた、

見ず知らずの高校生についていったらしいです。

その途端、彼の背中から圧迫感が消えたので分ったのだとか。

高校生は自転車に乗って走り去っていきました。

しかし、その時Bさんは確かに聞いたそうです。

ものすごい数のシャッシャッシャッシャッ……という音と気配が、

高校生の後を追っていくのを……





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