真・あっちの世界ゾ〜ン・第二十弐夜「あいつ」
楯野恒雪(渡し守)さん談
高円寺在住の友人から聞いた話、第2弾。 Sさんが高校を卒業してしばらくした頃。 一人の友人から電話がかかって来ました。 友人「なあ、A(仮名)知らないか?」 Sさん「あいつなら、近所のアパートで独り暮らししてるはずだよ」 友人「ここんとこ、あいつバイトに来なくてさ。いくら電話しても連絡つかないし」 Sさん「実家には?」 友人「友人だって名乗った途端にガチャン」 Aさんは勘当同然で家を飛びだして独り暮らしをしていたのでした。 友人「悪いんだけどさ、様子見てきてくれないか? オレ、今バイト中でさ。あいつにこれ 以上サボるとマズいって言ってやってくれよ、メモ残すだけでもいいからさ」 Sさん「しょうがない奴だなあ」 実家の電器店を手伝っているSさんは、 その日の夕暮れ、仕事で近くを通ったついでにAさんのアパートへ寄ってみました。 部屋は真っ暗で、いくらノックをしても返事がありません。 留守か……と思いつつドアノブを捻ると、開きます。 中からは生暖かい空気がスーッと漏れて来ました。 Sさんは不用心だなあと思いつつ、一応、「おーい、A、いないのか〜?」と声をかけました。 すると…… 「S……助けて……」 という、か細い声が聞こえて来ます。アパートの部屋はロフト型で、 声は柵のない細い階段を上がったロフトスペースの方から聞こえて来ました。 Sさんはその声にただならぬものを感じて、部屋に上がり込みました。 Aさんはロフトの上で頭から布団を被って震えていたそうです。 別人のようにやせ細って。 Sさん「おい、どうしたんだ!? 病気か? どこか悪いのか?」 Aさん「S……あいつが、あいつが……」 Aさんはうわごとのように繰り返すばかり。 Sさん「しっかりしろ、電気もつけないで! なんでこんなになるまで連絡しなかったんだ!」 Aさん「だって……だって、 電話に行くにはあいつが……あいつがいるんだよ……降りられないんだよ……」 Sさん「しっかりしろ! あいつって誰だよ!?」 Aさん「目が、目だよ……冷蔵庫……お前の後ろ……」 Sさん「後ろ? 冷蔵庫?」 その時、Sさんはロフトの階段を半ばまで上がった所でAさんと話していました。 階段の上がり口には冷蔵庫がありました。 その脇にあったのは…… “目”でした。 そこには暗闇がありました──Sさんが部屋に入ったとき明かりを付けたにも関わらず。 その中に目がありました。 瞼も、まつげすらある巨大な、30センチほどもある“目”が。 あまりのことにSさんが凍り付いていると、 それは文字通り“目”を細めて笑ったような気がしました。 「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」 Sさんはその後何がどうなったのか憶えていないそうです。 “それ”の前を通らないと 下には降りられないはずですから、階段の途中から飛び降りたのかも知れません。 ともかく、何を踏んだのか、どこにぶつけたのか、 足を打ち身切り傷擦り傷いっぱいにしてSさんはアパートを逃げ出しました。 どこをどう車を運転して帰って来たのかも思い出せないそうです。 Sさんは、二度とあそこへは近寄らない、と堅く心に誓ったそうです。 その後、電話でAさんの様子を見に行ってくれるよう頼んだ友人からも何も連絡はなく、 自分から連絡を取るのも、恐くてできなかったそうです。 それから10年近く経った今でも、 Aさんからも、その友人からも連絡は途絶えたままだそうです。 ■余談 この話を聞いたときのこと。 私がいつものように 「恐がるから連中、図に乗るんだ。なにかしてみろ、ブッ殺す!って気魄があれば絶対負けないって」 と言ったら、本気で怒られました。 「おまえは現場にいなかったからそんなコトが言えるんだ!」って。 どうやら結構信憑性の高い話のようです。 つるかめつるかめ…… |
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