あっちの世界ゾ〜ン第五十弐夜・夏の夜の恐い話 しょにょ14 「ナンパ」

おやじ32号さん談


私の青春時代、あれは忘れもしない19の夏の夜だった

今から18年前の話だ

ああ、、年はとりたくないもんですな

私は気の合う相棒を連れ、夜な夜な自分の改造車を乗り回し、

待ちゆく若い女性達をナンパしまくっていた時の話だ

当時の女の子達は近代社会の若い女史達と違い

なんか、恥じらいとか、かわいらしさがあった気がする

ナンパしても、主導権は男の方にあったし

うまいメシを食わさなくてもそこらのマクドナルドで事足りた

当時の女の子達は、なにからなにまで新鮮なような気がする

まあ当時あまり社交場なるものがなかったからに他ならないが

今の若い女史達は男達をうまい事使い分け選別して

カテゴリー別に用途によって使い分けるフシがあるように感じるが

そのことに非常に悲しく思う筆者は、もう年をとってしまったのか

はたまた時代錯誤なのかは定かでないが

世の若い男性諸君に私は言いたい

「一人二人の女でうろちょろすんなよ」と

何ちゃってそんな筆者も娘が5歳になるなんて

今だ信じられないくらいだが、

相変わらず、かあちゃんには、頭が上がらないのはなぜだろう?

おっと!!すぐに話が変な枝の方に伸びがちな筆者はどうもイカン

取り留めのない話題はさて置き本題に戻るとしよう

とにかく筆者は相棒を引き連れナンパをしていたんだな

今の港北ニュータウンのあたりは、当時はまだ、野っぱらや

畑ばっかしですっきりしてたもんだが

横浜の青葉台周辺に若い女の子が集まりだした頃だった

我々は一路青葉台に車を疾走させ、

東急線の駅あたりを重点的に責めていたが、

その日は小雨そぼ降るじっとりと湿気の漂う陰湿な日だった

いつもならナンパのひとつやふたつヒットし意気揚々とするはずが

その日はさっぱり我々の毒牙にかかる姉ちゃん達はいなかった

3時間ほど駅の周辺でがんばってみたがどうも日が悪いらしく

てんで女の子が引っかからなかった

時計を見るともう終電間近の12時過ぎだった

終電は12時半頃だったがそれに期待を掛けアタックしたが

どうもいい女が見つからない

とうとう終電も終わり、駅のシャッターが閉まってしまった

あきらめ顔の我々は落胆しつつ家路に就いた

もちろん帰りは港北ニュータウンを中山方面から通り抜け

地元川崎に帰る予定だった

不満を残しつつ口の中であふれ出る罵声をガムのように

かみ捨てながら今の港北ニュータウンの中を走っていた時だった

砂利道が小さな山に差し掛かり車のスピードを落とした時

300メーターほど前方の路肩を二人連れの女が歩いているのが目に入った

「おっラッキーーーいたぞいたぞ」

私はすぐさま彼女たちの脇に車を寄せ

「お姉さん達こんなに夜遅く危ないから乗ってかない?」

「もちろん何にもしないから大丈夫ダヨ」

私はいつものようにあふれるさわやかな笑顔を満面にあふれさせ

ナンパしちゃっていたが、その二人は終始下を向いたまま

トボトボと歩いている

「ちょっとお姉さん達歩いてる方向からして横浜から?」

取り留めのない話を助手席の相棒ごしに身を乗り出し

話をしていた筆者だったが

ちょっと無理な体勢で話をしていたのがいけなかった

一瞬クラッチから足を滑らしてしまったのだ

「ギュルルルッ!!」

タイヤが濡れた路面を滑る音がし

雨に濡れていたのもありエンジンを吹かしていたのもあって

車は一瞬彼女たちを追い抜き6メーターばかり進んでしまった

「ごめんごめんやっぱ車はオートマがいいよな」

なんて照れ笑いに相棒に話していた私は一瞬あまりの驚きで

全身が冷水を浴びせられたように凍り付いてしまった

となりの相棒は私の態度の一変に驚いたが私は凍り付いたまま

必死で相棒に目で合図した

相棒ごしに話をしていた私はクラッチを踏み外した瞬間

それをまの当たりに見てしまった

エンジンを吹かしていた事もあり一瞬車が勢いよく前に

進んでしまった時、移動した車に合わせるようにナンパしていた

二人連れの女の子が[すうっ]と横に動いたのだ

人間歩けばどうしても体が上下するが、それがなかった

女の二人連れは、すっと車といっしょに横についてきたのだ

その時まだ、相棒ごしに見えていた女の二人連れは

うつむいたままだったので顔もまだはっきりと見えなかったが

やっと私の仕草を察知した相棒はおもむろに脇の女の子に

振り返った

悲鳴こそ上げなかったが相棒の全身がビクンと動いたのが分かった

震える小さな声で私はやっとの思いで言った

「でっでた!!」

「うっうわーーっつ!!」

「窓を閉めろっ窓をっ!!」

当時の車はパワーウインドウなんて高級なものなんて皆無に

等しく相棒と必死でキコキコと窓を閉め、

二人で必死で下を向いていた

こんな時得てしてエンジンでも止まりそうなもんだが

私の車のエンジンだけは実に絶好調だった

フロントガラスさえ見るのが恐くなって震えていた筆者だったが

こんなことしていて取り憑かれでもしたらえらいことになる

と思った筆者は勇気を振り絞り片目を開けた

フロントガラスに全身を貼り付けニッと笑う怨霊を

想像していたが運良く暗い闇がライトに浮かんでいた

「いっいくぞっ!!」

筆者はガソリンが減るのもかえりみず、

アクセル全開でどこをどう走ってきたのか覚えていないが

何とか繁華街の街路灯らしき周辺にたどり着いていた

相棒はまだ下を向いたまま目をつぶっていた

しばらくその場で停車していたが恐怖で後ろの席も

振り返る事が出来ず私は固まっていた

振り返った後部座席に女達が座っていたらと考えたら

そのうち先ほどの恐怖が波のように押し寄せ

全身に冷や汗が吹き出してきた

「もっとひとけのある所に、、」

そう思った筆者は新城のと言う駅の飲み屋の繁華街を

思い出し、すぐさま車を走らせた

その日新城の駅前のタクシー乗り場では

酔っ払った客達が30人ほど列を作り騒いでいた

思いついた筆者はこいつらに観察してもらおうと

わざとゆっくり30人のタクシー待ちの酔っ払いの前を

子どもが歩くような速度で車を転がした

下を向いている相棒をわしづかみに揺り起こすと

「おまえタクシー客の顔を見ろっ」

と言った

相棒は小さく悲鳴を上げイヤイヤと体を横に動かしたが

無理矢理体を揺さ振ると決心した相棒は車窓に顔を向けた

みんな何事かと私の車を見ていたが

驚きの声を上げる者は幸いいなかった

タクシーのりばの外れで車を停めた筆者は

自分の車を降り、くまなく車のまわりから

トランクの中まで調べ上げたが何の変化も無かった

しばらくそこで一休みしていたが、不安が音を立て膨張していったので

思わず公衆電話で友達を呼び出した

しばらくすると友達が車を2台ばかりひきつれ集まってきた

初めてそこで何かに救われたように気が楽になった筆者だった

はっきり言ってコレが筆者の今までで一番恐かった事だ

思い出しただけで今でも鳥肌が立つ思いだ






     戻る