真・あっちの世界ゾ〜ン・第六十壱夜「夏季合宿の怪談」
楯野恒雪(渡し守)さん談
ううむ、那須高原恐るべし。 子供の頃はよく芦ノ湖とか行ってたけど、幸か不幸か あの辺りでは何も怪奇現象に出会ったことはありません。 その代わりといっては何ですが、他の場所での体験談をひとつ。 学校の怪談ならぬ「合宿の怪談」特集というのも時節がら楽しいかも知れませんね。 では早速本題。 あれは浪人中、予備校の夏季合宿に参加していたときのことです。 その合宿というのは、鎌倉の海辺のホテルに3日間泊まり込んで ひたすら勉強するという悪夢のようなイベントでした。 とはいえ受験生とは名ばかりの不良浪人、 しかも親が最後の希望を託してこんなイベントに送り込むような連中です。 昼間に勉強時間があるのを除けば修学旅行と変わりません。 夜の自習時間(「自由時間」と読む)になれば 密かにトランプしたり雑談したりと遊びまくります。 そんなわけで最終日までには、 普段予備校では口も聞かなかった連中と仲良くなっていました。 最終日の夜。 夕食後の自由時間に部屋でしゃべっていると、 窓際で外を見ていた奴がしきりに外に向かって手を振っています。 なんだなんだと、みんなで窓の外をみると、ホテルの前の通りを渡ったところにある 防波堤の上に4人の女の子が並んで座って、こちらに手を振っています。 女の子たちは合宿に参加している生徒でした。 彼は大声で「今行くからそこでまっててねー!」と叫ぶと、 私を含む5人の男どもを誘って(今思えばいい奴であった)ホテルの外へ向かいました。 私たちが防波堤のところに着くと、女の子は3人しかいません。 私が「あれ? もうひとりいなかった?」と訊くと、女の子たちは「ううん。3人だよ」。 同室の男たちも「何言ってんだよ」と、 どうも3人しか見ていないような口ぶりでした──私と、もう一人を除いて。 確かに彼も(名を忘れたので仮に浪人生Aとする)、 もう一人水色と白の縦縞のワンピースを着た女の子を見ていたのです。 私とA君は全てを悟りました。 A君もあっちの世界の住人だったのです。 私たちはホテルのロビーに別の友人の姿を見つけたのを口実に、 「人数合わないから、あっちの友達の方に混ぜてもらってくる」 と言って彼と一緒にその場を離れました。 結局、私とA君はどこのグループにも混ざらず、 お菓子と飲み物を買っただけで部屋に戻りました。 窓の外を見ると、まだ6人は楽しそうに話していました。 しかし── 彼らのすぐ傍、ホテル前の横断歩道の前に彼女はいたのです。 こちらを見上げて。 「げっ」 私とA君は異口同音に驚きの声をもらしました。 その声が聞こえたのかどうか。 彼女は、すっと姿を消しました。 「見た?」 「見た」 私は昔のマンガのようなマヌケなリアクションしか返せませんでした。 当時は私も人並みに幽霊は恐かったのです。 結局、女の子たちと遊んでいた連中は何事もなく帰って来ました。 我々は下手に“見えて”、逃げたせいでかえって恐い目に遭ってしまったのです。 しかし…… 霊と出会って何事もなく済んだ後でよく思うのです。 あの時逃げずにあの場所に居続けたら…… もっとあの霊に積極的に何かをしていたら……いったい何が起こっていたのだろうかと。 |
戻る |