あっちの世界ゾ〜ン第六十五夜「お化けとデッドヒート」

スズケンさん談



初めまして。

スズケンと申します。いつも楽しく拝見しております。


さて、かく言う私は幽霊とかお化けとかいうものの存在にははなはだ疑問を抱いております。

というのも、私は確実に「それ」と確証のあるものを見たことがないからです。

だからと言って存在を否定はしません。

見たこともないのに「いない」と言い張るのもバカですし

だからと言って見たこともないのに「いる」と信じて疑わないのもまた愚か者です。


そんな私にも一つだけ不思議な体験があります。

あれは私が中学校3年生の頃、受験勉強のために隣町の塾へ通っていた頃のことでした。

その時はちょうど夏休み。

典型的な熱帯夜でひたすらチャリンコを漕ぐ私の頬に汗が伝います。

塾が終わって帰路に就いたのはちょうど10時、

件の場所に差し掛かったのは10時15分を過ぎていたと思います。


その場所は線路と工場の敷地に挟まれた少し大きな通りで

昼間は隣町に出られるため、けっこう人通りはあるのですが

夜中ともなると畑に囲まれているということもあり、さすがに人通りはなくなります。

私は一人、そこに差し掛かりました。

それでも少し大きな通りであるということもあり、街灯は約50mおき程度にあります。

疲れていた私はただひたすらペダルを踏んでいましたがふと、

後ろから付いてくる足音に気が付きました。

足音は非常にゆっくりと、こつ、こつと、そして口笛を伴って確かに聞こえます。

何となく嫌な感じがしたのでやり過ごしてしまおうと

街灯の前で自転車を停め、後ろを振り返りました。

しかし、そこには大方の予想通り、誰もいません。

しかし足音は口笛を吹きながらゆっくりとこつこつと聞こえます。

私は急に恐ろしくなり、チャリンコを急発進させ、家路を急ぎました。

しかしなおも足音はつかず離れず、ゆっくりとしかも口笛を吹きながら付いてくるのです。

どんなにスピードを上げても引き離すどころか歩調を早めることもなく、口笛も確かに聞こえます。

私はお化けと、工場の前から家までの約1キロを激しくデッドヒートし、

勉強道具を放り出して布団に潜り込みました。

しかし足音は家の中までは追ってはきませんでした。


聞けばあまり怖くはないでしょう。

勿論、私もこれが「幽霊だ」と言い張るつもりは毛頭ありません。

しかし、私が体験した唯一の不思議な出来事です。





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