あっちの世界ゾ〜ン第六十九夜「ノックをしたもの」

泉新一さん談



いやぁ、暇なもんですから「あっちの世界ゾーン」をダウンロードして見てます。

いつも楽しく読ませてもらってますよ、

久しぶりに見つけた自信を持って人に勧められるページですね。

俺は今まであっちの世界には無縁な男なんですが、

それでも兄貴がむかし怖い話の本に凝ってたもので、そういう話は大好きです。

それでも、友達にそういう話を聴く機会っていうのは幸運なことに恵まれていて、

今回は今まで聴いた中で一番怖い話をお話ししましょう。

もちろん「実話」です。


この話は僕の友人の喘息仲間(?)から聴いたんですが、

その友達は入院していたときに同じ歳の患者さんと仲良くなって、

その時にこの話を聞いたそうです。

その人は仮にHさんとしましょう。

Hさんは3歳の頃からの「小児喘息」です。

彼が喘息で初めて入院したのは小学4年の時でした。

2日連続で発作が起きて、

明け方に2度目の吸入をしても治らないHさんに医者は「入院してみる?」と言いました。

早く楽になりたい当時10歳の彼は即答で「うん!」と言いました。

それでそのまま入院。

小児科の患者が入院するのは5階でした。

5階にはエレベーターのすぐ前にナースステーションがあり、

左に一般病棟、右が小児科の患者が入院している所。

そして、ナースステーションのすぐ左には目に付きやすいように保育室がありました。

未熟児とか、体重は普通だけど何かの理由で

保育器に入らなければならない赤ん坊がいる部屋です。

(俺もたまたま同じ病院に入院したことがあり暇なときよく覗いてましたけど、

あれって見てると確かに心が和みますけど、

保育器がずらっと並んでる光景は結構不気味ですよ)

そして、そのすぐ左の部屋の、右の一番窓側がHさんのベッドでした。

そして、その日の夜にHさんはあっちの世界の扉を開いたのです。


入院して初めての夜。最終的には彼は3時頃まで起きていました。

もちろん相部屋なのでほかの患者さんたちは寝息をたてています。

Hさんは緊張のためか眠れなくて、ナースステーションの前に置いてある本箱から

漫画を2.3冊取ってきて、暇つぶしに読んでいました。

途中で看護婦が2回見回りに来て、「早く寝た方が良いよ」と言いましたが、

看護婦の笑顔で寝られるくらないらとっくに寝ています。

そのときは時計は1時半を指していました。

そして、Hさんはそのとき本箱から取ってきた怖い話の漫画を読んでました。

真夜中の病院、明かりは廊下に薄暗く光る電気と、手元のライト、そして患者の寝息。

怖い話の本を読むにはこれ以上ぴったりな環境はありません。

俺は次第に怖くなって、布団をかぶって寝たくなってきました。

その時です。

「コンコン」

Hさんのすぐ近くの窓からノックが聞こえてきたのです!

もちろんここは5階です。

人が上ってこれるはずはありません。

Hさんは背中に冷たいものが走るのを感じました。

そして、もう一度・・・・。

「コンコン」

Hさんは恐がりだったそうですが、同時に好奇心も人一倍あったそうです。

そして、彼は自分の好奇心に勝てず、

窓にかかっているカーテンを開けてしまったのです。


そこにはなんと無数の顔が貼り付いていました。

そして、どれもがHさんの方をじっと見ているのです。

顔はどれ一つとして人間の顔をしておらず、

みな元人間だったという顔の痕跡を残して、見にくくただれていたのです。

そして、Hさんに向かってそのうちの一つの顔が言いました。

「あけろ〜。あけろ〜。あけろ〜。Nを起こせ〜」

彼はその言葉を聞いたとたん、その場に失神してしまいました。


次の日、看護婦にベッドのすぐ横で失神してるのを発見された彼は

その夜のことを誰にも話せませんでした。

そして看護婦には「ベッドから落ちてそのまま寝てしまった」としか言いませんでした。

そして彼は思いだしたのです「Nを起こせ〜」という言葉を。

Nさんとは、Hさんのすぐ隣のベッドに寝ていた15歳の男の人でした。


「もしかしたら、あれは死神だったのかもしれない」とHさんは友人に話したそうです。

Nさんは、それから3日ほどたったある日に

集中治療室行きになりそのまま帰らぬ人になったそうです。

死因はよく思い出せないそうですが、

確かNさんは肝臓が悪かったとHさんは話していたそうです。


俺もこの病院に入院したとき、

よく窓の外から景色を見ていましたが足をかけられそうな物は全くありませんでした。

もちろん、そんな大勢がそこまで上ってこれるはずはありません。




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