あっちの世界ゾ〜ン第二十参夜「ドッペル体験?」

千里さん談


7年前の話です。

当時僕は就職したばかりで、

海浜幕張にある大きな雑居ビルに事務所を持つ会社に毎日通っていました。

母は、叔父がそのビルで警備員をしているから会ったら挨拶しなさい、

などと僕に言いましたが、

僕は叔父の顔を良く知らなかったので、挨拶のしようもありませんでした。


ある日、帰宅をすると母が

「あんた、叔父さんに会ったんなら会ったって言ってよ」

と言い出しました。

僕は母に、幼い頃に会ったきりの叔父の顔なんて覚えてない事を説明しましたが母は

「だって叔父さんから電話があって、

『先週千里が挨拶してきたよ、随分立派な青年になったなぁ』って感心してたよ」

と・・・

僕は母に叔父に電話して、どういう状況で会ったのか詳しく聞いてくれと頼みました。

叔父の話では下記のようになります。


叔父がいつものようにビル内の見回りをしていた時に、

ダークグリーンでシングルのスーツを着た青年が近づいてきて

「西村さん(叔父の姓です)ですよね」

とにこやかに話し掛けてきました。叔父は誰か分からなかったそうです。

「ええ、そうですけど・・・」

「分かりませんか?・・・千里ですよ」

「ああ!千里かぁ。いやぁ、大きくなったね。全然分からなかったよ」

その後、2・3会話を交わすと、自称千里は

「じゃあ、仕事に戻らないと行けないので」

と言い、叔父と分かれてエレベーターの方へと歩いて行ったそうです。


その話を聞いたとき、母も少し顔色を変えました。

何故かと言うと、頑固者の僕は「スーツはダブル」と決めていて、

シングルのスーツは持っていないし試着したこともないのです。

一体誰なんだろうと、母と首を傾げていました。

週末になって、真偽を確かめるために母と一緒に叔父の家を訪ねたら、

叔父は僕の顔を見て

「うん確かに千里だったぞ」

と言っていました。

身長や顔、事故の後遺症で癖のある歩き方まで同じだったそうです。


それから1年くらい幕張の会社に勤めていましたがその間にも、

書店で週刊誌を買っていた同僚がレジの所で

「それ後でちょっと貸してよ」

と頼まれたとか、1Fのマクドナルドに昼食を買いに行ったら、上司が

「お前、よく食べるな」

と肩をたたくから何の事かを尋ねたら、

つい先ほど立ち食いそばの店内で挨拶しただろうと身に覚えの無いことを言われたりしました。


最近ではそんなことはありませんが、

あの時のもう一人の自分は誰だったのだろうと、今でも偶に考えたりします。


やっぱり僕がもう一人の自分に会っていたら、ご臨終だったのでしょうか?


三堂りあるさんの話を読んで思い出したので書きこんでみました。





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