あっちの世界ゾ〜ン第九十六夜「弟」

TAGさん談


仕事もようやく一段落し、暇になりました。

ずいぶんHPも見に来てなかったので、話の量が増えててビックリしました。

ランキングも決まったのですね……でも、何に投票したのかさえ忘れてしまった。


で、暇になったというわけで、ついに私も話を書かせてもらおうと思います。

会社のパソコンを利用してますので、掲示板に書き込むのは控えました。

なんか初めてなのでドキドキします。

ペンネームはTAGでお願いします。題名は「弟」でいいです。


脚色は一切なしで、事実をそのまま書きます。

読者を無理に怖がらせようとしないでありのままを書きますね。

これは、私と私の実の弟に同時に起こった話です。

いまから十数年前、年末から年明けにかけて、私の実家(大阪の堺です)であったことです。

私は中学3年、弟は中学1年でした。


当時、私と弟の部屋は、本来2つの部屋だったものを、壁をぶち抜いて1つの部屋のようにしてありました。

貧乏でクーラーが1つしか買えなかったので、苦肉の策です。

で、私の部屋の本来の入り口は、タンスでブロックしまい、

いったん弟の部屋を通ってから自分の部屋に出入りするようになってました。

文章では間取りが説明しにくいですが、ぶち抜いた壁を通って自分の部屋に入るわけです。

壁をぶち抜いたところは長いノレン(よく覚えてないけど、ミッキーマウス柄の

布製のやつだったと思います)をかけ、2部屋のようにし、手前が弟、奥が私の部屋です。

一応、互いのプライベートが保てるようにしてありました。

そのぶち抜いた壁を通って自分の部屋にはいると、すぐ向かい側に私の机がありました。

机に向かうと、そのノレンに背を向けて座るかたちになります。


大晦日が近くなり、弟は恒例の大掃除のついでに部屋の模様替えをしました。

弟は、中央にあったベッドを私の部屋とは対照の反対側の壁際に移動しました。

普通に時間が過ぎ、いつものように夜が来ます。メシを食います。風呂に入ります。

さて、私は高校受験に向けてお勉強、弟は寝ようとしてます。


ここからの話はとても複雑で、前後が入り組んでしまいますので、

私の視点からの話と弟の視点での話に切り替えます。


@まず、私の視点から

私は机に向かって勉強していました。時間はちょうど10時半くらいだったと思います。

ラジオを聞きながらの、ながら勉強でした。

多分、聞いてたのはヤングタウンという大阪毎日放送のラジオ番組だったと記憶しています。

ふと、異様な音に気付きました。

私はヘッドホンでラジオを聞いていたのですが、それを通り越して聞こえてきたのです。

背後からうめくような声が聞こえます。ヘッドホンを外し、後ろを振り返りました。

弟の部屋の電気が消えているのが見えます。うめき声は弟のようです。

私は、弟がきっと一人エッチでもしてやがるなと邪推しました。

勝手に決め込み、弟を驚かせようと、ノレンをくぐり、弟の部屋の電気をつけました。

壁スイッチでつけるのでなく、垂れ下がっている紐を引っぱってつけるタイプのやつです。

弟は、案の定、ベッドの上でハアハア言ってました。

でも、なんだか様子が違います。えらい汗だくなのです。

ちょっと変だなと私は思いましたが、

「オレ勉強してんやから、変な声出すなや、はよ寝え」

と弟に捨てぜりふを吐いて、電気を消し、自分の机に戻りました。


それから数十分後、

今度はカセットの音楽を聴きながら勉強していた私は、再び、弟の声に気付きました。

私は舌打ちして、弟の部屋に入り、さっきと同様、電気の紐を引っぱりました。

ベッドの上の弟の様子は、さっきよりひどくなったようでした。

顔色がすごく悪く、目が明らかに動揺してます。

でも、私は、弟の身の上に起こっていることを知り得ないため、

「はよ寝えて言うてんじゃ」とまた叱りつけて、電気を消して自分の机に戻りました。

今度はさすがに、自分の机に戻っても何も聞かずに、しばらく弟の部屋の様子をうかがってました。


数分後、…きました。弟がうめいてます。

私はすぐに机から離れ、弟の部屋に入って電気をつけました。

と、途端に、弟がベッドから跳ね起きて、ベッドの前にいる私を突き飛ばし、部屋から出ていこうとします。

入り口を開けて、両親の部屋に飛び込み、なんだか泣きわめいているようです。

私は仕方なく、電気はつけたまま、ノレンをくぐって自分の部屋に戻り、寝支度を始めました。

ベッドに横になると、両親に諭されたのか、弟が部屋に戻ってきたようでした。

その後、私は、眠り込むまで、

ノレンの方に何度か虚ろな目をやってみましたが、ずっと電気がついていました。

朝起きてみると、すでに弟の姿は部屋になく、電気も消えていました。


で、この間、弟に何が起こっていたのか、これは翌日になってから弟自身に聞きました。


A弟の視点

弟は、私の部屋からノレンを通して光が漏れるのをぼんやり見つめながらうとうとし、

いつの間にか眠ろうとしていましたが、急に「カキン」という感じで目が冴えてしまったそうです。

で、何かいやな感じがするなあと思った矢先、体が動かないことに気付いたそうです。

「これが俗に言う体が動かなくなるっていうやつか」と弟はすぐに思ったそうです。

楽しんでいる余裕は当然なかったそうです。

結構、そういった類のものを待ってましたとばかり、

楽しみにしてらっしゃる方も多いようですが、

そうなった本人は、とてもそんな気ではいられないらしいです。

それでなくても、なにか得体の知れないものすごい恐怖感があるようです。

その後、私も、いわゆる金縛りではありませんが(自慢じゃないがいっぺんもなったことがない)、

似たような体験をしているので、こういった恐怖感はよくわかります。

で、弟はなんとか体を動かそうともがきました。声も出そうとしました。

どうにもならないそうです。

自力でどうしようもないことを悟り、「誰か助けて」と叫んだそうです。

その途端、私が部屋に現れて電気をつけたそうです。

瞬間、弟の体はふっと自由になったそうです。

私には叫び声さえ聞こえてませんが…。


で、私は、暴言を吐いて戻ります。電気が消えます。

再び、弟はベッドに縛り付けられたようになったそうです。

さらに今度は、ベッドの足下の方に、黒い人影のようなものが立っているのが見えるそうです。

言葉では表現できないほどの威圧感があるそうです。ものすごく恐かったと弟は言ってます。

私も弟も、ワイドショーの「あなたの知らない世界」フリークでしたが、

その出演者の霊能研究者・新倉イワオさんの発言に

「そういうときは、『あっちに行け』とか強い意志で拒絶すれば、逃れることができる」

というのがあったのを、弟はそのとき思いだしたそうです。

で、心の中で「あっち行け!オレは関係ない」とかって念じたそうです。

そうすると、黒い人影が、「ノー」と言いたげに、ゆっくりと首の辺りを横に振るのだそうです。

何度念じても、黒い人影は首を振り続けます。相変わらず、体も動かない。

「もうダメだ、兄ちゃん、助けて!」と思った瞬間、再び私が現れて、電気をつけたそうです。

こんなことになってるとは私は思いもしません。

私は可哀想な弟を残して、また自分の部屋に戻ってしまいます。


3回目は、さらにエスカレートしたそうです。

頭を置いてある壁の方から、長い布のような、手のようなよくわからん、

長く黒いものが2本、弟の肩に向かって延びてきたそうです。

足下の人影は、そのまま立ってます。

弟はパニック状態になってたそうです。叫んでも声にならない。体も動かせない。

2本の長い手のようなものが弟の肩を掴み、上から押さえつけるようにしました。

でも、弟はベッドに抑えつけられてのではありませんでした。

体がベッドを通り抜けたそうです。逆のけぞりみたいな感じです。

腰のあたりまでのけぞるようにしてベッドの下に潜り込んだとき(?物理的に説明するのは無理なので

感覚で理解してください)、3度目に私が姿を現し、電気をつけたそうです。

その瞬間、弾かれるようにして体が元に戻り、

あわててベッドを飛び起きて、部屋を駆け出したのだそうです。

両親に話したそうですが、信じてもらえるわけが無く、

泣く泣く自分の部屋に戻り、電気をつけたまま、朝まで起きてたそうです。


こっから、私と弟は合流します。

朝起きてから、そういうことがあったことを知らない私は、弟の顔を見るなり、ビックリしました。

目は落ちくぼんで、唇は土色、頬もこけたような感じで…。

確かに睡眠不足はありえますが、あまりにも憔悴しきってます。

同じような経験を今したら、一晩で白髪になるかもしれません。

気になったので弟にいろいろ聞いてみたところ、

弟は「兄ちゃん、信じてくれるか?」と前置きしてから、さっきのような内容を話してくれたのです。


でも夜は、その日もまた次の日もやってきます。

夕方頃、電気の消えた自分の部屋に入ると、うっすらと人影が立っているのが見えるそうです。

それから、弟の戦いの日々が始まりました。

夜になっても電気を消さず、ベッドにあぐらをかいたまま座り込んでます。

でも人間、何日も連続で寝ないわけにはいきません。

ある日、買い物から帰った私は、弟のベッドを見て驚きました。

ベッドサイドや足下にかけて、ベッドの周りが、「お守り」だらけなんです。

どっから集めたのか、何十個もありました。

友達からももらってきたと弟は言ってました。

でも、消えないそうなんです。夜、電気を消せないそうなんです。

いま考えてみれば、そんなもの効果無いのは分かり切ってるのですが、

中学生の智恵ではそれが限界でした。

弟も体力の限界に来てるようでした。


正月を過ぎたある日、私はあることに気付きました。

弟、北枕で寝てたんです。

大晦日前に大掃除で模様替えしたときから、北枕になってしまってたのです。

まさかなとは思いましたが、弟に言ってみました。

弟はその日から、ベッドの位置は動かさずに、足と頭を反対にして寝ることにしました。

ベッドに逆さまに寝転がるわけです。


その日の夜から、弟はぐっすり眠れたそうです。

あれがなんだったのか、いまだに分かりません。

北枕はいけないっていうのは、昔からの言い伝えですが、言い伝えってバカにできないのですかね。


もはや実家は完全に建て直されて、その部屋はありません。ベッドもありません。

でも、私と弟は、あのときのことをはっきり覚えています。

弟のおびえ方は、尋常じゃありませんでした。

弟が本気かどうかなんて、兄弟だからすぐにわかるんです。


でも、これをきっかけに、弟は心霊現象に悩ませられることが多くなったそうです。

社会人になるまで、弟は恐い思いをたくさんしたようです。

ところが、大学で実家を離れてしまった私がたまに帰ると、

ピタリと私がいる期間だけ、妙なことが起こらなかったそうです。

弟は不思議がってました。

そう聞いていたので、私は、きっとそういうのを打ち消す能力があるんだと、自分で思いこんでました。


ところが、「20過ぎたら見ない」とかそんなものうそっぱちだということが分かりました。

弟と私、逆転してしまったのです。

今度は私が見るようになってしまいました。社会人になってからです。

ようやく自分でそういう経験をするようになって、

この北枕のときの弟の恐怖感を理解できるようになりました。


弟にまつわる話は、まだ他にもあります。私自身の話もあります。

またメールで送ります。







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