あっちの世界ゾ〜ン第九十八夜「わたしをゼビン星に連れてって(仮)」

むっちぃ零時さん談


読み始めるととともに背筋に走る悪寒。

たくみに構成された恐怖談、「あっちの世界」の真実。

いたこさん風に表現すれば

「うああああああああああああああああああああああ、

おやじ今日のネタはイキがいいね!!」ってな感じです。

いつも楽しく読ませてもらってます。むっちぃ零時(にっくねーむ)、です。


わたしにも皆無と言っていいほど「霊感」はありません。

けれども「あっちの世界」的雰囲気は妙に心を落ちつかせてくれます。

夜中のトイレで花子さんにトイレットペーパーめんぐんでもらったときなどこころが弾んでしまいます。

ゼビン星人にお会いできたら、きっと

「わたしをゼビン星に連れてって(仮)」ふうに恋に落ちてしまうと思います。

ある意味わたしは「あっちの世界」の住人かもしれません。

そんなわたしの身近で起こった「あっちの世界」のお話です。

今ではこれが「実話」だったのだと改めて思います。

そしてきっと誰もが関わっている話なのです。


まず、話の発端は4・5年前までさかのぼります。

友人Hとわたしは当時おなじ大学に通っていました。

アメリカはミシガン州の小さな田舎町の大学です。

わたしは友人Hをはっきりいって嫌いでした。

自慢話が好き

金持ち

ハンサム

かなりの逸物の持ち主

というサイボーグ原田的に反則に近いやつでした。

だからこそやつには不幸が待ちかまえているはずだとわたしは常々思っていたのです・・・


ある週末わたしたちは数人の仲間でパーティーを開いていました。

場所はHのアパート。Hは自腹でワインや高級ウィスキーを出してくれる。

日本のたばこも分け与えてくれる。

もう、みなHにラブラブ♪

わたしは忠犬ハチ公のようにしっぽをふりふりしてました。

そして話のネタもつきかけた頃、Hがふいに話し出したのです。

ことの発端となる「あっちの世界」の出来事を・・・


それはHが日本で会社員をしていた頃の話。

ある年の冬、Hは友人数人とスキー旅行に行ったそうです。

もちろん女付きでないと盛り上がらない。

Hは彼の美顔と逸物を武器にスキー場で女の子3人をなんなくゲットしました。

スキーにいったらいやでも盛り上がるのがナイタースキーの時間。

この時間はおのおのがちょっとした自由な時間を過ごすのが常なのだといいます。

Hは3人のうちの1人、K子を誘って、車で40分ほど走った違うゲレンデへ向かいました。

そこで2・3時間滑った二人がホテルへの帰路についたのは、もう10時近かったそうです。

Hは帰りの車の中で、はじめから何か異質な雰囲気を感じていた、と言います。

K子の方もそんな雰囲気を感じていたのか車の中でじっと黙ったままでした。

「どうしたの? 疲れた?」

とそのときHはそんな沈黙に耐えきれずK子に話しかけました。

しかし、K子はずっと黙ったまま。うつむくように座席下を見つめていたそうです。

「寝てる?」

とHがもう一度訪ねると、

「わたし死ぬかもしれない・・・」

と半ば諦めのこもった声でK子は答えました。

そう、K子はすでにいっちゃってたのです。

「わたしかあなたかどちらかが死ぬかもしれない」

と彼女ははっきりとした口調で言いました。

「わたしときどきそういうのがわかちゃったりするのよ」


きたよおおおおおおおおおおおおおおお。


Hは傲慢で自分勝手なくせに、女の扱いがうまく、無類の話好き。

だから女にももてる。Hはきっとゼビン星人でしょう。根拠はありません。

そう、Hは話し上手、聞き上手なやつでした。

しかも「あっちの世界」にはちょっとうるさいやつだったのです。


「なにがわかるの?」

とHはK子に尋ねました。

「わたしたちを見てるの」

と彼女は言いました。

しかしHにはもちろん何も見えませんでした。

「いい? わたしの話をよく聞いて・・・」

そして彼女はようやくHの方に顔を上げると、こう言いました。


わたしはこの話をあなたに伝えなければならない、

そしてあなたもまた誰かに伝えるの。それが「彼女」の意志なのだと・・・。

そして彼女はゆっくりとその話をし始めたのです・・・


今わたしたち二人に恐ろしく強烈な怨念が取り巻いている。

しかしその怨念は恨むべき相手を忘れ、いまここでわたしたちを通してその相手を探している。

わたしたちは怨念をひきついでいく媒体になった。

わたしたちにはこれからきっとその怨念により不幸が続くことになる。

しかし、怨念はわたしたちという媒体を通していることで今抑制されている。

だから、その怨念はそれほどの力を持っているわけではない。

でもかりに、恨むべき相手を見つけたとしたら怨念は

つもりつもった恨みを降り注ぎとてつもなく恐ろしいことが起きることになる・・・


Hには始めK子の言うことがまったく理解できなかった。

というか、なんとドラマチックな展開なんだああああああああ。

そんな話を即座に考えたK子もすごいが、

まじめ顔にある意味メルヘンチックな話をするK子に心底惚れたあああ。

今日の夜食はスペシャルエキゾチックフルコースだあああああ、

とHはわくわくしていたとのことです。


しかし、それは「あっちの世界」への入り口にすぎなかったのです・・・


K子のそう語る表情ははっきりいって

白鳥沢レイ子(ツルモク独身寮参照)よりも不細工だったらしいです。

考えるだけで恐ろしい。

しかし、HはK子の様子がどうもおかしいことに気がつきました。

そう、その表情は語り終わったときに一変し

まったくの無表情というべき顔に変わっていたと言います。

そしてHはどうもおかしなことに気がつきました。

足下に感じられるはずのアクセルが全く感じられないのです。

そしてK子のその視線。

じっとHの足下の方を無表情で見つめています。

道は除雪されているとはいえ、

夜の10時も過ぎればところどころにアイスバンができあがってしまいます。

滑り出せば、ひとたまりもないことはHにもわかりました。

そして右足にひんやりとした感触。

明らかに誰かが自分の右足首を掴んでいる、とHは思いました。

しかし、Hは自分の足下を見る勇気が出ませんでした。

Hは結局あの足首にあった感覚が錯覚だったのかどうか今でもわからないと言います。

しかし、K子は明らかにその足首の方を見つめていたらしいです。


K子の話にはまだ続きがありました。

K子はその怨念の主の名前を口にしたのです。

もしその名前がHの知っている人の名前だったとしたら・・・

Hの足首は強い力で迷わず引っ張られていたに違いないと彼は言いました。

あれは「彼女」の手だったのだ。

そして無表情のK子の瞳に映っていたものは

白い手につかまれたHの足だったのだろう、とHは言いました。。

その名前をK子はHに告げました。

しかしその名前にHは聞き覚えはなかったらしいです。

名前を聞いたと同時に足首をつかむ感覚はなくなっていました。


Hはそのスキー中に骨を折り、K子も体調がおかしくなり病院に運ばれたらしいです。

それからも数々の不審な不幸に見回れたらしいです。

Hはこの話を数人の人たちに話してきたと言いますが、

彼が話した中ではその時まではその名前を知っている人は現れなかったらしいです。


わたしたちもその怨念の主の名前を聞きました。

いつしか仲間は皆黙り込み、じっと無表情に顔を見合わせていました。

中には話を聞いて泣き出す女の子もいました。

恐怖が突然身近に迫り来る感覚をわたしも覚えました。

もし知っている人の名前であったら、わたしが恨みの張本人かもしれない。

どこからかのびてくる怨念の手につかまれる感触。

わたしも酔いで研ぎ澄まされた神経の中で感じました。

確かに、首筋につかまれる感触があったのです。

そして今これを読んでいるあなたの背後にもその怨念の手が伸びてきているはずです。

恨むべき相手を求めて・・・


しかし、ここで名前を公表するのは如何なるものかと思われます。

わたしにもこの話が真実であるのか作り話であるのか判断しかねているのです。

それは今現在その名前を知らぬ人はいないと思われるからです。

Hがわたしたちに語った名前

そう最近になって脚光を浴びた某有名人と同姓同名なのです。

もちろんその名前を聞いたのは、

彼女が有名になるずっと前の話ですが偶然と言えばそれまでのような気がします。

それがどういう結果を生むことになるのかはわかりません。

しかし今その名前を知らぬ人はほとんどいないと思われます。

誰もが知っている名前。

誰もが恨みの対象となり得る。

HはK子の言葉を借りてこう言っていました。

「その恨みがいつどこで生まれたものかはわからない。

過去かもしれないし未来かもしれない。

少なくともわたしたちに関係のあるどこかで生まれたの」


この話は今ようやく始まったばかりなのかもしれません。

K子のその後はHにもわからないと言っていました。







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