あっちの世界ゾ〜ン第五十八夜「テントの外の声」

ニコニコトシチャンさん談


みなさん始めまして。いつも興味深く読ませていただいております。

新潟市に住む者です。

いつかは私の体験も書き込ませていただこうと思いながら、

文章を作るのが苦手なもので、時間ばかりが経ってしまいました。

今回は、昔佐渡へツーリングに行った時の体験を書かせていただこうかと思います。


今から20年ほども前の事でした。まだ私が20歳そこそこだった頃だと思います。

夏季休暇に、私は仲間2人と佐渡へツーリングに行こうと計画を立てました。

仕事を終えてから、仲間の若杉の家へ、ツーリングに間に合わせるよう慣らしを

終えたばかりのヤマハMR50で行き、キャンプの道具やフィンやマスク、

シュノーケル等を満載して、若杉のDT125と2台で夜中に出発しました。

もう1人の仲間の小池はDT125のタンデムシートです。


佐渡汽船から夜中の3時過ぎのフェリーに乗り佐渡へ向かいました。

佐渡には朝の6時前に到着しさっそく大佐渡の二つ亀の方へ向かいましたが

二つ亀のキャンプ場はテントでいっぱいで、またどうせキャンプするなら整備された

キャンプ場ではなくふつうの海岸でやりたいと言う事でいい場所を捜す事になりました。


大野亀に行く途中に海岸に降りれそうな道が有ったので行ってみると、

思ったように海岸まで行く事が出来ました。

左側は数メートル下が砂浜、右側は田圃と言うコンクリートの防波堤の上と言った

案配の幅50cm程の通路を荷物満載のバイクでフラつきながらもゆっくり通過すると、

そこは石がごろごろしていて妙な雰囲気の場所でした。

友人達と「此処ら辺でどうかな?」と言う事でそこに単車を置いて奥の方を見に行くと、

そこらには卒塔婆が何本も立っていたり石が積み上げられた塔がいくつも有りました。

友人は、卒塔婆に気づかず、積石を蹴り崩したりしていましたが、

さすがに「ここはキャンプなどしてはいけない所では無いのか?」と思い、

慌ててそこを逃げ出しました。

実はそこは「霊場賽の河原」と言う死んだ子供達の供養を行う有名な場所だったのです。


そして結局テントを設営したのは風光明媚な大野亀を過ぎてしばらく行った所の、

小さなトンネルの手前に駐車場と公衆便所が有りその下の海岸に、

石だらけですが少し平らな所が有る場所でした。ここは「海中公園」と言う所で

海には幾つも奇岩が有り、その間に遊歩道が通っており

あくまで透明で美しい海を見て歩く事が出来る所でした。

我々のテント設営場所はここの外れに位置しまており、

大野亀の景観も楽しめる素敵な場所でした。

トンネルを抜けた所には小さな集落が有りましたが、こちら側は公衆トイレと数台の車が

置ける駐車場しか無く、道路の向こう側は鬱蒼とした山肌が迫っており、静かな所でした。


その日は昼間は雨が降ったりやんだりでしたが夜になるとずーっと雨が降り続き

フライシートをかけていないテントの中まで湿ってくる嫌な天候でした。

テントは最近のグランドシートが一体になっている様な便利な物では無く、

2ポールの家型の一応6人用と言う物でした。

良く山岳部やワンゲル部などで使っていた様なものです。

グランドシートとテント本体の間には隙間が有り、下は20cm程も有る石が

ゴロゴロしている様な場所でしたので、数十匹のゲジゲジが石の間から沸いてきて、

天井をはい回り、あまり快適では有りませんでした。


私達は7時過ぎには蝋燭の明かりで食事を終え話をしていましたが

8時半頃だったでしょうか、外の方で人の話声がしてきました。

その様子からすると4〜5人位の男女が話している様でしたが最初のうちは

すぐ上の駐車場で誰かが話しをしているのだろうと思っていました。

しかし、いつまでたっても話し声は聞こえてきます。

それどころかテントのすぐ回りで声がする様な感じになり

しかも大勢の人々がかってに話しをしている様な様子が感じられました。

子供が「きゃっきゃ」と騒ぐ声や女の人が「あーー」と叫ぶ声や男の人が

「おーい」と呼ぶような声まで聞こえてきました。

その声も遠くから聞こえて来る様で有り、

同時にテントから1mと離れていない所から聞こえて来る様にも感じられました。

さすがに私達は「これは普通じゃない!!」と言う事で、とにかくテントの回りを

確認しようと、3人で懐中電灯を持って小雨が降る中、テントを出てみました。


するとそこには誰も居らず、しかもついさっきまであんなにしていた

人の気配もまったく無く、我々は近くの岩の陰やトンネルの方やもちろん駐車場や

公衆便所の中、道路までも調べてみましたが誰もいませんでした。

30分も見回っていたでしょうか、私と若杉はあきらめてテントに入りましたが、

どうしても納得の行かない小池はしつこく外を調べ回っていました。


それから10分位経ったでしょうか、小池が真っ青な顔で頭からテントに飛び込んで来ました。

私達も驚き、いったい何があったのかと聞くと、彼が言うには後ろの山の中から

お遍路さんが鳴らす様な鈴の音がし、それがだんだん近付いて来たと言う事でした。

私達はその晩、ラジオを付けっぱなしにして、すぐに寝ました。


キャンプを終えて帰る時、

私達は「賽の河原」によってお参りをして死者の冥福を祈ってから帰りました。

この時に洞窟の様にえぐれた岩の中に有った、お地蔵様を納めた

小さな祠の写真を撮影したのですが、いくつかの顔の様な物が写っておりました。





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