あっちの世界ゾ〜ン第六十参夜「会いに来た仲間」

ニコニコトシチャンさん談


この話は、今まであまり人にもしたことが有りません。

思い出すと辛い気持ちになるものですから。


今から10年ほど前の事でした。

当時私は自宅の1階の、庭に面した部屋を自室としておりました。

しかし、親父が家を改築すると言いだし、親父と私で資金を出し、

足りない分は私が銀行に借金をして改築しました。

新しく私の部屋を2階に2部屋作り、こっちで暮らす様になってから、

下の部屋に居た時は、月に2〜4回は金縛りに会ったり、奇妙な体験をしていたのが、

ピタリと無くなり快適に過ごしておりました。


有る冬の晩、ベッドで寝ていると、久しぶりに金縛りが来て目が醒めました。

しかしいつもの金縛りとは違い、奇妙な感じなのです。

恐怖や不快感をまったく感じないのです。

身体には、右肩と左手首を掌で押さえられている感覚がはっきりと有ります。

目を開けてみると、難なく開いたので、何者が押さえているのだろうと、

目を凝らしてみましたが、黒いシルエットしか判りません。

ただ、じっと上から、私の右肩と左手首を押さえて見下ろしているだけでした。

私はそのうち、眠りに落ちました。


その数日後の日曜に、小学校の頃からの仲間の田辺の家に遊びに行きました。

そこには同じく仲間の岡村と山崎がおりました。

雑談をしているうちに田辺が「そういえばNが自殺したって言う話、聞いたか」と言い出しました。

私は驚き詳細を聞いたのですが、田辺達が数日前に、小学校の頃の同級生が

やっている居酒屋に飲みに行った時に、昔の仲間達と久しぶりに会ったそうです。

何故かみんな暗い顔をしていたとの事ですが、

聞いたら、Nの葬式の帰りだとの事で、そこでNが自殺したと聞いたそうでした。

その後、Nの近所で仲が良かった柏に詳しい話を聞いたところ、

Nは奥さんの親御さんとの折り合いが悪く、五頭山の山中で首を吊って自殺したそうです。

しかし冬の五頭山に行く人は少なく、数日間はそのままだったそうです。


Nは、模範的な生徒では無く、どちらかと言えば、いつも我々と夜中に遊び

歩いていたりしていた仲間ですが、仲間思いで筋の通ったやつでした。

剣道が好きで、最初は武道具屋に就職したのですが、もっと剣道をやりたいと言う事で、

勉強し試験を受け、刑務所の刑務官になっておりました。

そこでも、昔の中学の先輩が(我々の中学は市内でも

有名な悪い方達が多い学校でした)度々入所して来た時にも

「いつまでこんな事をやっているんだ。」と諭した様なやつでした。


私は子供の頃から幽霊話や不思議な事に興味を持っており、奇妙な体験もしておりました。

多くの本も買い集めており、よく仲間とそう言う話をしておりました。

中学3年生の時にNと小池(テントの話に出てきた仲間)と3人で死後に霊魂は残るのか、

つまり霊魂は存在するのかと言う話になった時にでは、それではこの3人のうち、

誰かが死んだら、他の2人になんらかの方法で知らせようと言う約束をしました。

Nとは20の頃まで良く一緒に遊びましたが、その後は殆ど会う事も無く、

「結婚した」とか「子供が生まれた」とか「刑務官になった」とか言う話を仲間伝いに聞いており、

がんばっているなと思っている程度でした。


田辺の話からすると、丁度私が金縛りに会った時は、Nはまだ発見されず、

遺体は五頭山中に有った頃です。

彼は中学生の時の約束を忘れず、会いに来てくれたのです。

田辺達にはその不思議な体験を話しました。みんなあいつらしいと納得しておりました。


数ヶ月後、久しぶりに帰ってきた小池にこの話をしたところ、小池も丁度その頃、

東京の雑踏を歩いていて、突然Nの事が思い出されたそうです。

私は通勤には電車を利用しているのですが

(天気が良い時は単車ですが)駅に向かう途中にNの実家が有ります。

その前を通る度に、あの不思議な体験が思い出され、Nの冥福を祈らずにはおられません。





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