あっちの世界ゾ〜ン第八十四夜「除霊」

隣野ポチさん談


いつもの年よりはるかに暑苦しい夏の終わりかけの

夕方、

ひとりの男が現れた。

私は寺のそうじをしていて、かれの存在にまったく気づかなかった。

男は私のうしろから声をかけてきた。

「除霊して欲しいんですが。」

私は振り向いた。

そこには、ちょっと小太りのパンチパーマをかけた、眉をそった男が立っていた。

「どうぞ、お入り下さい。」

わたしは、平静を装って、男を寺の中に案内した。

私は男を座らせ、お茶を出し、訪ねた。

「どうされたのですか?」

男は答えた。

「私は仕事をやめました。

色々な宗教団体に相談し、除霊をしてもらいましたが、

なんの効果もありません。借金だけが大きくなりました。」

「なぜ、ここへ?」

「理由はありません。歩いていたら、お寺がみえただけです。」

「・・・・・・・・・・」

「なにも手に付かないんです。このままだとわたしは殺されます。」

男は顔色も悪く、目つきも定まらなかった。

私はさらに聞いた。

「どうされたんですか?」

「幽霊が見えるんです。」

「?」

「いまも、ここにいます。」

男は定まらない目線で自分の両手を見つめ、

「いまも、この手の上から幽霊が吹き出してきます。

助けて下さい。」

私の背中に寒いものが走った。

男は下を向いて、泣き出した。

どのくらい時が経ったであろう。日が沈んでいた。

私が言葉を失っていると、男が煙草をとりだし、口へはこんだ。

ところが、くわえようとしたその時、男が煙草を落とした。

それを拾おうとしても、うまく拾えない。

それを見て、私は声をかけた。

「君、頭痛くないか。」

「?」

男は私が聞いた意味を理解できなかった。

わたしは続けた。

「君、両手をまっすぐ、前に伸ばしてみなさい。」

男はキョトンとしながら、それを実行した。

「それを、少しづつ広げてご覧。」

男は除霊でもしてくれているのかと勘違いしたのだろうか、すなおに実行した。

私は言葉をつづけた。

「君の視界から両手が消えたら、手の動きを止めて。」

男の両手がとまった。

それを見て私は確信した。

人間の視界はどの位のものであろうか。かなり広いのではないか?

しかしその男の両手は、90度よりはるかに少ないところで止まった。

私は、男に言った。

「あんた病院いけ。脳腫瘍できているかもしれん。」

男はキョトンとした。

しかしその表情は、だんだん怒りに変わり、

「気違い扱いするんですか!」

私はその言葉を無視して、

「君が病院に行こうが、行くまいが、私には関係ないが、

君に何も手段が無くなっているなら、一つの方法だと思うけどね。」

男はだまって机をたたいて、暗闇の中に飛び出していった。

いつのまにか細かい雨が降っていた。

幾日経ったであろう。

私がそのことをすっかり忘れてしまった頃、男が再び訪ねてきた。

表情も明るく、あの時と同じ男であることに気づくのに、

かなりの時間が必要であった。

男が発した声に、私はおもわず微笑んだ。

「有り難うございます。手術も無事すみました。

もう少し後で行ったら手後れだったそうです。」

雪が降っていた。




ここに行けば幸せに!!・・・たぶん



宗教て哲学なのですね。
いろいろ考えさせられてしまったよ。
生きる事に疑問がわいたら(^^
隣野ポチさんのHPに行ってみよう。
 ここ!ここ!此処



     戻る