新・あっちの世界ゾーン・第十一夜「木曜の夜」
夢育美 さん談
確か中学生の時だったと思います。 その頃はまだ「ザ・ベストテン」という番組をやっておりました。 ちょうど3位の発表の時でしたから、21:40過ぎだったはずです。 二階から、母の私を呼ぶ声が聞こえて来ました。 結構大声で呼んでいました。 母は当時鞭打ち症の後遺症で床に臥せっていて、 特にその日は風邪をひいて寝ていましたので、 何事かと慌てて二階へ行きました。 どうしたの?と尋ねてみると、 布団の上で起き上がって、窓の方を指差していうのです。 「ベランダに大月の叔父さんがいるから、早く呼んで部屋に入ってもらいなさい」 え?...私は熱が酷くて幻覚を見たのだろうと思いました。 外ではシトシトと雨が降っていましたし、 二階のベランダですからそんな筈はありません。 何寝ぼけてるの、と言うような事を言って下に戻ろうとすると、 先程より強い怒ったような口調で、 「放っておいたら風邪ひいちゃうでしょ!早く呼んで!!」 と言うのです。 私は不思議に思いながらも、母は冗談を言ったりする人ではないので、 窓を開けて外を見ました。 やはり真っ暗なだけで、細かい雨が部屋からもれる光にきらきらしていました。 誰もいない事を告げるとしきりに、さっきはいたのに、と言っていました。 私は少しなだめてから寝てもらって、不思議な事もあるものだと思いました。 その日はそれで終ったのですが... 翌朝、大月の叔父の家から電話がありました。 昨夜の9時半頃、叔父が駅の階段で転倒して頭を打って、 そのまま昏睡状態だ、という内容でした。 それを聞いた瞬間、昨夜母が見たのは、 確かに叔父だったに違いないと思いなおしました。 幸い、叔父は一月ほど入院して退院して来ました。 くも膜下出血だったそうですが、どうやら命は取り留めたようでした。 母は小さい頃に叔父には特に可愛がられていたようで、 結婚後も何かと良くしてもらっていました。 私も可愛がってもらった事を覚えています。 そんな母に叔父が挨拶に来たのかもしれないね、と母は話していました。 でも、さよならの挨拶じゃなくて良かったね、 と言うと笑っていましたが、本当に良かったと思います。 その叔父も5年ほど前に、再び襲ったクモ膜下出血でこの世をさりました。 今思うと、あの晩、昏睡状態の時に叔父はどんな夢?を見ていたのか、 聞いておけば良かったと思っています。 きっと、母に会っていた、と言ってくれる気がして。 |