あっちの世界ゾーン第十七夜「食欲の秋」

さんぺー さん談





こんばんわ。

Y君の結婚式のスピーチで、私自身があっちの世界へ行ってしまったさんぺーです。

うちの会社(某パソコンメーカの子会社)には変わった人がたくさんいます。

その中でもとりわけ変わった性格を持つS田さん。

今日はそのお父さんのお話です。



秋ですね。

みなさんは山菜は好きですか?

私はきのこが最近やっと食べれるようになりました。(昔は嫌いだったのです)

私のうちは田舎にあるので、近所の人が秋になるとキノコ取りに精を出すのです。


30年ほど前の秋。

S田さんのお父さんはお医者さんでした。

結婚してまもない頃に田舎の村の診療所で働いていました。

ある日、村のおじさんが診療所に駆け込んできました。

どうやら、隣の家の様子がおかしいらしいのです。

とりあえず、その家に行くことにしました。

その家に近づいていくと・・・・たしかに変なのです。

笑い声ともうめき声ともつかぬ声が時々聞こえてくるのです。

その家の引き戸をあけ、近所の人たちといっしょに家に入り・・・ 絶句。

誰もがその異様な光景に身動きすらできない。


いろりを囲んでくつろぐ家族。

ところが普通ではない。

部屋は薄暗く、壁には炎の影がゆらめき、夫婦と子供3人の家族のうち、

夫を除いた全員がいろりを見つめている。

そして時々笑うのです。

奥さんは火がゴウゴウと燃えあがり、なべが見えなくなるほどの炎にたいして

薪をくべ続け3人の子供は肩にただれる程のやけどを負いながら、炎を見つめたり、

母や近所の人たちに微笑みかけているのです。

ふすまの向こうからは「シャァッ、シャァッ・・・」という音。

恐る恐る覗いてみると、焦点の合わない目をした夫が包丁を研いでいるのです。

しばし、呆然。

誰もが恐怖で動けない。

そのうちひとりの人が夫に向かって呼びかける。

「○×さん!○×さん大丈夫ですか?」

返事もせずに振り返り、「ニヤリ」と笑い、また包丁を研ぎはじめる

・・・ もう、何も言えなかった。

その後ろから、近所のおばあさんが現れ、

「あぁ、またかい・・・」とつぶやいたかと思うと人を掻き分けて、

奥さんのほうへ向かっていく。

「何?また?何を言ってるんだ、このババァ?」

そう考えているうちにそのおばあさんが奥さんに話しかけた。

「奥さん、もう鍋は煮えてるよ。ほら火はいいから、外に行こう」

子供たちにも「ほら、あんたがたもいっしょに」

・・・というと、奥さんと子供は立ち上がり、外へ向かって歩いていきました。

「ニヤリ」と笑って

・・・ そして4人が外へ出たのを確認すると、おばあさんはふすまを開け、

「○×さん、もう、いいよ。包丁は研げたよ・・・」

そうなだめながら包丁を取り上げ、外に連れ出していったのです。


その後、家族全員病院に運ばれました。

呆然としている皆にむかって、おばあさんは

「毒キノコだよ」

そう言っておばあさんは帰っていきました。

家族は毒キノコをたらふく食べたらしいのです。

そのキノコの毒は水溶性だったため、最後の一滴のつゆまで飲んだ奥さんが特にひどく、

症状が約一週間続いたそうです。



これからの季節。

毒キノコの食べ過ぎには気をつけましょう。





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