あっちの世界ゾーン第五十七夜「深夜のサバイバルゲーム」

楯野恒雪さん談


学生時代サバイバルゲーマーだった友人OさんとKさんの体験談です。

彼らは学生時代、あるチームに入って一緒にサバゲーをやっていました。


ある日、彼のチームメイトのAさんが面白い話を持ってきました。

彼の父親の会社が持っている廃ビルで夜間市街戦をやろうというのです。

あと1週間で取り壊してしまうので、中でBB弾をいくらバラ撒いても大丈夫。

なんならドアを蹴破ろうが窓ガラスを破ろうが、何をしてもいいとお墨付きをいただいていたそうです。

こんなチャンスはそうそうあるものではありません。

当然、彼らはその話に飛び付きました。

その次の土曜の晩、仲間たち十数名を引き連れその廃ビルに行きました。


迷彩服を着て現場に到着したサバゲーチーム一行。

最初の一戦は中身を知らない方が面白いからと、2チームに別れて正門側と裏門側からビルに侵入し、

15分間の停戦時間内に陣地を設営、その後交戦開始というのが、彼らの設定したシナリオでした。


OさんとKさんはチームメイトがスチール机や本棚を使って陣地を設営している間に、

偵察に出ることにしました。

身を潜めつつ廊下を進んでいるとき、二人は非常階段の3階踊り場に人影を発見しました。

「いい位置だ。」

Oさんは思いました。

その位置からなら正面玄関から不注意に出て来た獲物や、

その付近の廊下を歩いている目標を狙い撃ちにできます。

しかも、エアガンで1階から3階の敵と闘うのは容易なことではありません。

二人はビル内の階段で屋上に向かいました。

そこからなら斜め上からその男を攻撃できます。

二人は、手摺りの下に隠れて戦闘開始の笛が鳴るのを待ちました。

笛が鳴ると同時に、二人は立ち上がって、先ほどの非常階段の踊り場にいた人影に

銃撃を開始しました。

現在のものほど高性能でないとはいえ、一応はフルオート・ガスガンです。

しかも二人は年季の入ったサバイバルゲーマー。

外すわけがありません。

サバイバルゲームでは、弾に当たったら自己申告で“戦死”を宣言し、ゲーム終了まで

その場に倒れているか、両手を上げて“安全地帯”に移動するのがルールです。

にも関わらず、常階段の男は彼らの方を一瞥すると、建物の中へ入って行ってしまいました

(暗くて顔は確認できなかったものの、彼らの方を向いたのは確かなようです)。

怒ったOさんとKさんは“タイム”の笛を吹き、両チームのメンバーを全員集めて、

今非常階段にいたのは誰かと問い詰めました。

ところが……誰もそこにはいなかったと言います。

嘘をついている様子はありません。

あれだけ弾を浴びせられて、痣ひとつないというのもおかしい話ですから。

よく考えてみれば、OさんもKさんも、踊り場にいた影は銃を持っていなかったような気がします。

彼らはため息ひとつつくと、再び5分間のインターバルの後、ゲームを再開しました。

社会人が多いために夜戦ばかりしている彼らのチームにとって、“本物のゾンビ”に

出会うことなど、日常茶飯事だったのです。

結局、彼らは夜明けまでそこでサバゲーをやっていたそうです。


そんな無神経な彼らをも恐怖に震わせる事件が起こったのは、それから数ヶ月経った頃のことです。

彼らのチームは性懲りもなく多磨の雑木林の中でサバイバルゲームをしていました。


例によって2人チームで動いていたOさん&Kさんの耳に、奇妙なうめき声のようなものが

聞こえて来ました。

辺りは真っ暗で少し霧も出ています。

さすがの二人も少々ビビリながらも、“こんな時のために”用意しておいた秘密兵器を持ち出しました。

正確な商品名は忘れましたが『密教御念弾』とかなんとか言う、梵字が書かれ、

御祓いをしてあるBB弾だったそうです。

彼らはマガジンをその弾の入ったものに入れ換え、うめき声のする方向へ近寄って行きました。

二人とも何度か幽霊らしきものに遭遇したことはありますが、わざわざ近づいて行ってBB弾を

ブチ込もうなどと考えたのは初めてのことでした。


「あの時、オレたちは霊に操られていたに違いない」


とOさんは私に語っています。

しばらくすると、うめき声が止まりました。

二人も足を止め、いつ“霊”が出てきてもいいように身構えました。

すると、

ガサガサっ

二人の傍の茂みが揺れました。

思わず二人はその茂みに向けて、その梵字つきBB弾を撃ち込みました。

二人はマガジンが空になるまで撃ちました。

Kさんによれば、

「少なくとも100発以上ブチ込んだのは間違いない」

ということです。

乾いたガスガンの発射音が止み、森に静寂が戻ります。

二人が耳をすますと、今度はさきほどとは違った、くぐもったうめき声が聞こえました。


「?」


Oさんはそのやけに現実感のあるうめき声を変に思い、勇気を振り絞って懐中電灯片手に

茂みの向こう側をのぞき込んでみました。

そこには……

レジャー用ビニールシートの上で半裸の男女が横たわってうめき声を上げていました。

なにしろ、厚手の軍用迷彩服やパイロットジャンバーの上から痣ができるような威力の代物です。

その全身には無数の小さな痣ができていたそうです。

もちろん、その周囲には梵字の書かれたBB弾が大量に転がっています。

二人はその凄惨な光景に背を向けると、“非常事態発生、全員撤収”の笛を吹き、

一目散にその場を後にしました。


その後、その不幸なカップルがどうなったかは解りません。

二人はいまだに「あれは霊の仕業だ」と主張しています。

もしかしたら、本当にそうなのかも知れません。

カップルの皆さん、外でする時はくれぐれも御注意を…… 





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