あっちの世界ゾーン第五十八夜「強者な友人たち(その1)」

楯野恒雪さん談


真「新・あっちの世界ゾーン」チャットルームで話した、

私の強者な友人たちのネタを2つほど書かせていただきます。

困ったことにどちらも実話です。



■その1:駅から10分、家賃1万5千円


私の友人Oさんは、地元で最も安いアパートを渡り歩いています。

就職直後には「1年後に取り壊すので、その時に出ていってくれるなら」ということで、

風呂なしトイレ共同、家賃月5000円のアパートに住んでいました。

そこを出ていくことになったとき、また「一番安い物件」という条件で紹介してもらったのが、

東京都23区内のJR某駅から歩いて10分、築10年くらいの2LDKの木造アパートでした。

家賃1万5千円。

敷金礼金ゼロ。

もう「出る」と言わんばかりの条件です。

実際、不動産屋さんから「出る」と言われたのですが。

Oさんはあまり霊感のある方ではありませんが、一応怪奇小説とかマンガとかの好きな人なので、

基本的な対処法は心得ていました。

彼はかつてそこに住んでいた女性が自殺したという四畳半の部屋の周囲の壁という壁、窓という窓に、

近所の神社でもらって来たお札を張り、“夜間立ち入り禁止”の部屋にして、そこに住み始めました。

Oさんが幽霊アパートに住み始めたという話はまたたく間に広がり、たくさんの友人が見物しに訪れました。

私もその一人でした。

その部屋だけ確かに隣の部屋と雰囲気というか温度が違います。

間違っても夜中に入りたくないというのが私の感想でした。

もっとも、私には“夜間立ち入り禁止”といいつつ、キッチリ物置として使っている

彼の神経の方が恐い気がしましたが。

私が本当に大丈夫なのかと尋ねると、

「うーん、何か気配はするし、たまに夜中にあの部屋の扉を(内側から)叩くような音とか足音とかするけど。

そこにヤツがいるのは、しかたがないからな。そのおかげで家賃安くなってるワケだし。別に実害ないし」

というお答え。

あの部屋で夜中に各種ホラー&スプラッタビデオを見たり、稲川純次の恐い話のビデオを見たり、

『トワイライトシンドローム』や『百物語』を一人でプレイできる神経は尊敬に値すると思います。

ホントに。


結局、彼は盲腸で一度入院する以外何ら霊障らしい霊障も受けずに3年間住み続けました。

それどころか、いつの頃からかその四畳半の部屋から幽霊の気配がなくなってしまったのです。

少なくとも、私には感じられなくなってしまいました。

“閉じ込められて”途方に暮れた幽霊さんは、

見物に来たOさんの友人にでも憑いて逃げて行ってしまったのではないかというのが私の想像です。

彼は不動産屋さんから、

「立ち退いてくれればもっといい条件の物件(駅から5分、家賃3万円、幽霊なし)を紹介する」

と言われて、そのアパートから引っ越して行きました。

Oさんが何も文句を言って来ないので、そこにはもう何も出ないと思ったのかも知れません。

現在、そのアパートのあった場所には建て直された新しいアパートが建っています。





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