新・あっちの世界ゾーン・第六十九夜「壁一枚の向こう側にて」
イカ太郎さん談
| ずいぶんとむかし、神戸の鈴蘭台に私は住んでいました。 そこは新築の建て売り住宅だったので以前にナニかあったわけではありません。 家が建つ前はちょっと水はけの悪い、湿地帯なだけでした。 家に入って右手に階段。 13段です。 登る時に、下から2段目、上から4段目と5段目はギシッと音がしました。 登った左右にあるドアは横にスライドさせて開けます。 右側は私の部屋。 左は居間で普段だれもいません。 母はいつも1階にいました。 内職でミシンを踏んでいたのです。 母の監視が無いこともあり、遊ぶのに都合がよかったのですが、 母はゆっくり足を忍ばせ階段を登っては「こらっ」と私を叱っていました。 でも回数を重ねてゆくと階段のきしむ音で様子を見にきたのがわかってくるようになりました。 ある日、私が本当に机に向かって勉強していたときです。 "…ギシッ…"階段の下から2段目の音がしました。 警報装置のようなものです。 私『あぁ。様子を見にきたな。でも今日はうしろめたくないから安心だぁ』 階段がきしまないところでも、登る音と布ズレの音がします。 "すた…。すー…すた…。すー…すた…。" 私『今日はこっちからおどかしてやれ。』 イタズラ心から私も忍び足で入り口に近づきます。 "すた…。すー…すた…。すー…すた…。" 一段づつ、ゆっくりと登ってくる足音に私は笑い声をかみ殺します。 "ギシッ" 上から5段目の音です。…ここで音は消えます。 しかし、不思議ではないのです。そこから背を伸ばせばこの部屋をのぞけるんですから…。 "すー…" 布ズレの音。 やった!ひっかかった!!私は前に出ました。 勝ちだと思いました。 私「わっ!!」 ……だれもいません…。 下では、母のミシンを踏み続ける音がしている…。 私は、そのコワイ階段を大急ぎで下りてゆき、母に聞いてみたのですが。 今日はそんなことをしている暇はなかったそうです。 今、思い出したのですが、階段を登りきらずに、顔を上半分だけ、 ドアの下の方から覗かせていたのは本当にすべて母だったのでしょうか。 振り向いた私が勉強していたことがわかって立ち去る時、 ときどき、音を出さずに気配だけが消えたことが確かにあったんですけど。 |
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