あっちの世界ゾーン第七十六夜「女を憎む者」

奥村紀子(真名)さん談


もうすぐ夏ですねー。

夏になると、幽霊のオンパレードですね。

どうして夏は幽霊の季節なんだろう。

しかも、どうして他人にとばっちりを与えるのだろう。

少しは幽霊も相手を見て出てきてほしいな、と思う今日この頃です。


去年の夏、むっちゃくちゃ蒸し暑い日のことでした。

兄が真夜中に友達・三村(仮名)に送られ帰ってきました。

なぜ真夜中なのか。

次の日、兄に聞いてみました。

どうやら、「あっちの世界」に足を踏み入れそうになったそうです。

三村が運転していると、ヘッドライトになにか反射するではないですか。

それに気付いた兄は、車を止めさせました。

光る物は倒れたバイクでした。

バイクの隣りには人が倒れていました。

(救急車だー)と思ったけど、電話もない場所なため、とりあえず、

倒れている人を叩いて起こしました。

その人は兄と三村にこんなことを言いました。

「な、生首が飛んできたんだ!」

「生首?」

この人の話はこうでした。

バイクを走らせていると、人気のない所に老女がいたそうです。

飛び出すなよ、と思いながら通り過ぎようとすると、いきなり、

老女の首が向かってくるではないですか。

慌てて避けたら、こけてしまい、そのまま意識を失ったそうです。

怖くなった兄たちは、その人を家に送り届けたそうです。

その話を聞いて、父は

「気をつけないといけないな」

と茶をすすりながら他人事のようにいいました。

実際、それまでは他人事だったのです。

兄は、それからすぐ、下宿に帰っていきました。


夜、めちゃくちゃ寝苦しくて、私は水を飲みに起きました。

父の部屋の前を通る時、父が寝ているのを確認し、足音をたてないように行きました。

牛乳を飲んで、一息ついたので、すぐに部屋に戻ったのですが、


その時も、足音をたてなかったのに、父は起きていました。

気にせず部屋に戻り、ベッドに横になると、

「おーい真名、そこにいるか!」

と父が怒鳴るのです。

むっちゃくちゃ眠くなっていた私は、最初無視していたのですが、

あまりにしつこいので、「なにー!」と怒鳴り返しました。

それから父は静かになりました。


朝、いつもは早起きなのに、その日はとても疲れていたのか、起きたのは10時。

うぉー、寝過ぎた。

食卓に行ってみると、冷たくなった卵焼きと父がいました。

(我が家は自営業なので、両親はいつも家にいる)

なんの会話のないのも空しいので、昨日のことをきいてみました。

すると、

「昨日な、婆さんと若い女が両隣で俺を見下ろしてたんだよ。

最初、若い女しか見ていなかったから、お前だろうと思って呼んだんだ。

そしたら、部屋におるだろ。婆さんが反対側にいるのに気付いたんや。

なんじゃお前ら、と思って睨んだら、すぐに消えてしまった。

なんだったんだろうな」

本当に、なんだったんだろう。

ご飯を食べていた私は、昨日の父と同じように他人事として聞いていました。


夜。

むっちゃくちゃ苦しいな、と思って目を開けると、女が私の首をしめているではないか!

最初夢と思っていた私は、なめとんのか、このアマと思い、反撃してやろうとしました。

しかし、体が動かない。

まわりをよく見ると、婆さんが私の体をおさえこんでいるではないか。

女は馬乗りになって私の首をしめ、婆さんは足を押さえ込んでいる。

しーかーもー声も出せない。

「あなたにあの人は渡さない」

女は首をしめながら、そんなことを口走る。

あの人って誰じゃー!

はっきりいって、身に覚えがない。

このままではやられ損と思った矢先、耳元で、男とも女ともいえる声が囁いた。

「誰かの名前を呼べ」

ともかく、こいつらを撃退しなければ、と思って、その声に従った。

私の部屋の近くに眠っているのは母だ。

というわけで母を呼ぶ。

しかし、呼んでいるつもりでも声は出ない。

「もっと根性いれんかー!」

声に叱られ、腹が立った。

首をしめる女を睨み付けたまま、「お母ちゃん!」と呼ぶ。

声が出たとたん、二人は悲鳴をあげなから消えていった。

そして起きあがると、母が私を呼んでいた。

どうやら、夢ではなかったようだ。


次の日、おもいっきり霊の悪口を言った。

そしたら、その日から霊はぴたりと出てこなくなってしまった。

一体、私になんの恨みがあったのかは知らないが、迷惑である。

その話を電話で兄に話すと、

「そういえば、背中が重いと思ったんだよ。家に帰ると急に軽くなってさ。

連れてきちゃったみたいだな」

と笑っていってくださった。

ちなみに、この兄はかなり霊に好かれる体質みたいだ。

ちゃんと持って帰れ、迷惑だ。

おわり





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